「ジェネリック医薬品は、先発薬と同じなのに値段が安い」


 多くの消費者はそんな認識だったはずだ。しかし、昨年末から今年にかけて、ジェネリックへの信頼を揺るがすような不祥事が相次いでいる。


 小林化工は爪水虫の治療薬に睡眠導入剤の成分を混入させた。日医工は、品質試験で不適合となった製品を処理して、適合品として出荷していた。製品管理や品質管理の不備も明らかになっている。2社は薬機法に基づく業務停止命令を受けた。


 2000年代からの国の強力な後押しもあって、日本のジェネリックは急成長。数量ベースのシェアは1割程度から、2020年度の約80%にまで拡大した。躍進の裏側で何が起こっているのか? 日本より一足先にジェネリック推進に舵を切った米国の実態を追ったのが『ジェネリック医薬品の不都合な真実』である。


 マイラン、サンド、ドクターレディ……、本書には、数々の著名なジェネリックメーカーも登場するが、もっとも紙幅が割かれているのはインドのジェネリックメーカーのランバクシー。2008年に第一三共が買収しことで、日本でもよく知られている会社だ。


 買収当時、第一三共は、先発薬だけでなく、ジェネリックやOTC、ワクチン事業を組み合わせた「ハイブリッドビジネスモデル」を掲げていた。先発薬は当たれば大きい一方で、特許切れによる減収リスクにさらされる。収益のベースとなる事業を持つことは、理屈の上では整合性が取れていた。


 しかし、買収から6年後、4000億円ともいわれる損失を出して、第一三共はランバクシーの経営から手を引くことになる。


「あきらめが早い」という見方も当時あったが、本書を読めば、「こんな会社と6年も格闘したのか」という気持ちにさせられた。克明につづられた不正の数々は衝撃的だ。


〈FDAに提出した申請書のデータの半分以上をでっちあげた〉〈市場によっては、データをまるっきりでっちあげていた〉〈利益の押し上げに寄与すると思われるすばらしいデータを手っ取り早く作り出すため、製造プロセスのほぼすべての部分をごまかしていた〉〈インドやラテンアメリカについては、製造の工程や方法を検証するバリデーション手法や安全性試験データ、生物学的同等性の報告書が「ない」〉〈役員会の議事録を捏造〉……。嘘で塗り固められたランバクシーの経営が明らかにされる。


■原薬を海外に頼る日本にもリスク


 名だたる先発医薬品メーカーが本拠地を置く米国だが、実は医薬品の輸入大国でもある。米国に輸入される薬が倍増した〈2005年には、FDAが海外で査察すべき医薬品製造工場の数はアメリカ国内の工場数を上回っていた〉という。


 すべての会社が不正を働いているわけではない。FDAがきっちり工場を査察し、適切な措置をとれば、安全性は担保されるはずだ。


 しかし、海外工場の査察には限界がある。期間が限られるうえ、米国で行われる抜き打ち査察ではなく、「事前通知」が行われる。査察を受ける側は、記録・資料の消去や隠ぺい、改ざんといった“準備”ができる。


 米国から海外工場に派遣される査察官には現地の土地勘がない。そのため工場までの交通や査察中に宿泊するホテルを、査察される側の会社が手配することが多いのだが、これもリスクだ。


 行動がバレるだけでなく、査察される会社の幹部がホテルの部屋での査察官の会話を盗聴していたこともあったという。海外の工場の査察では、本来適任であるはずの査察官が、派遣できないこともある。


 米国のジェネリックをめぐる不都合な真実は “対岸の火事”ではない。日本のジェネリック市場は、国内メーカーが幅をきかせるが、純国産の原薬を使用するジェネリックの品目は35%ほど。輸入した原薬をそのまま使用する品目は4割を超えている。


 コロナ禍で一時供給不足に陥るなど、輸入医薬品は「安定確保」の面ばかり議論されてきたが、品質や安全性といった部分にも目を向ける必要がある。


 インド、中国の医薬品メーカーへの対応には、百戦錬磨のFDAでさえ苦慮している。日本の規制当局は、ランバクシーの幹部が評したように、《日本人は「他人をすぐに信用する。お人好しのカモだ」》ではいられない。


“内憂外患”のジェネリック。普及率が目標を達成した今こそ、改めて品質や製造体制に目を向ける必要がある。(鎌)


<書籍データ>

ジェネリック医薬品の不都合な真実

キャサリン・イーバン著、丹澤和比古、寺町朋子訳(翔泳社 2,750円〈税込み〉)