9月12日(日)~9月26日(日) 両国体育館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」より)


 先場所に全勝優勝した横綱白鵬が所属部屋のコロナ感染で休場し、昇進直後の照ノ富士が一人横綱になったこの場所。予想通りの結果になったが、そのとたんに白鵬引退の報道。これで、角界は新たな時代を迎えることになる。


名ばかりハチナナ大関

 

 成績は上がらず場内を沸かせもしないが、最後は少しだけ勝ち越す「クンロク大関」は、過去に大勢いた。横綱昇進の目がない大関の代名詞だが、この2人はそれよりもさらに酷い。辛うじて勝ち越し、カド番を回避しただけである。先場所、巨漢逸ノ城との対戦で首を痛めた貴景勝は、初日から3連敗。痛めた個所をかばうような弱い当たりでは、押し相撲大関は怖くもなんともない。


 もうひとりの大関正代は5勝2敗と持ちこたえていたが、8日目の琴ノ若(西前頭3枚目)で無様な敗戦を喫した。立ち合いは一歩も足が出ておらず、両脇はガラガラ。さして鋭くもない新鋭の踏み込みに対して毎度のごとくフワッと受けて右上手を差され、きっちり投げを食らい、顔からまともに落ちて土俵下まで転がった。千秋楽の結びの一番でも、解説の北の富士氏が「つま先立ちして相撲取っちゃあ、話にならないよ」と吐き捨てた。


いまひとつだった若手のホープ

 

 先が見えている大関を追い越す存在の中堅どころの若手が、今場所はいまひとつ。注目株で必ず名前の挙がる2人の対戦が、9日目の豊昇龍(東前頭筆頭)と若隆景(同3枚目)だった。豊昇龍は5日目から3日間休場していた。若隆景は4勝4敗の5分。後半に向けて、ライバルとの大事な対戦だ。キビキビした動きで見ていて気持ちがよい2人。立ち合いから突っ張り合いを演じ、若隆景がやや優勢に進めて土俵際まで追い込んだが、若いながらも相撲巧者の豊昇龍は、つかんだ右腕をがっちりつかんで離さない。そして捨て身の一本背負いが見事に決まった。


 霧馬山(西前頭2枚目)も期待される25歳だが、9日目に御嶽海(東関脇)、10日目に豊昇龍の対戦で立ち合いに変化。勝ち越し、三役がチラついたのか、結果にこだわって評価を下げた。15日間は長いようで短い。あまり見ない人にとっては力士の1場所における1番ごとの印象は強くないだろうが、昇進昇格を決める専門家たちはつぶさに観察している。よく言われる「相撲内容」とはこのあたりのことを指す。


 もうひとりのホープ、琴ノ若は正代を破ってこれからというときにケガで休場したのは残念だった。期待のひとりだが、荒々しさがほしい。立ち合いの鋭さにも欠ける。恵まれた体格で四つ相撲もできるのから、期待値は最も高いのではないか。


沸かせた宇良 横綱にしがみつく

 

 盛り上がりに欠けた今場所で、気を吐いたのが宇良(東前頭6枚目)。9日目の横綱戦では、1分半の長い相撲に耐えた。強烈な上手投げに屈したが、最後は体を裏返しながら右手で横綱の回しにしがみつく執念を見せて拍手喝さいを浴びた。その手を邪魔くさいとばかりに振りほどいた横綱の駄目押しが歓声を一層強くした。宇良の番付は、優勝争いでもしていない限り、本来は横綱との対戦がない位置。しかし、上位力士の相次ぐ途中休場で、お鉢が回ってきた。この対戦がなければ勝ち越せたかもしれない。


 ときにアクロバティックな技を出して見せるのがこの力士の真骨頂だが、技におぼれて大けがをするのは避けたほうがいい。滅多に見られない決まり手を見せたいプロ根性は認めるが、最後にひと押しすればいいものを、無理な体勢から土俵際で釣るような一番もあった。大ケガから見事に復帰し、小兵力士のなかでは異彩を放って幕内で独自の地位を築いているだけに、スタンドプレーは体と相談しながらにすべきだろう。


伊之助、会心の一番

 

 式守伊之助が久々にやってくれた。14日目の照ノ富士―貴景勝戦。横綱が早々に上手を取って優勢に立ち、最後は投げを決めた盤石の相撲内容だった。土俵中央で少しせめぎ合いがあった程度で、勝敗の帰すうは明らかであり、行司捌きに難しい点はどこにもなかった。にもかかわらず、伊之助は丸い土俵をアチコチと場所を変えながら移動し続け、最後は投げられて転がった貴景勝のほうにわざわざ突っ込んでいって土俵下に落下した。よく転がる人である。



 この人は、力士の動きを過度に接近して観察する悪癖が少しも治らない。ほかの行司は力士の動きを最優先し、自らは極力立ち位置を変えずに腰を降ろしながら遠目で判断しようとする。しかし伊之助は、いろいろな角度から見るのが最善と思うのか、ときとしてこういう衝突事故を起こす。最後の2番を捌く重鎮ならば、威厳に満ちた行司捌きであってほしい。こういう失態を横綱・大関の対戦で見せてはいけない。(三)