9月24日に首相官邸が公表したデータによれば、日本の新型コロナワクチンの接種回数は約1億566万回に達し、2回接種を完了した人の割合は55.8%。スタートが遅れた日本だが、接種率では米国を抜いた。1回以上接種した人が67.8%で、2回目を完了した人も近く7割程度まで到達しそうである。
病気などでワクチンを受けられない人、絶対に受けたくないという人は別にして、「受けるかどうか検討中」「受けたが副反応がきつかったので心配」「追加接種をすべきか?」……、ワクチンに関する疑問を抱えた人に役立つ情報を提供してくれるのが、『新型コロナワクチン 本当の「真実」』である。
ワクチンの安全性、効果、中長期でのリスク、メディアリテラシー(嫌ワクチン本)、新しい治療法ほか、多くの人が疑問を持ちがちなポイントについて解説している。
実は、著者は2020年末まで〈ワクチンに対して慎重な意見を持っていました〉という。安全性に関するデータが十分ではなかったからだ。しかし、その後、米国やイスラエルで先行接種した人々のデータが明らかになったことで、意見を変えた。
ワクチンのタイプや効く仕組みの詳細は本書に譲るとして、接種済みの人も、これから接種という人も、目下、多くが注目しているのは「ワクチンの効果の持続期間」だろう。
抗体の量は時間の経過とともに減っていく。海外ではワクチンの効果を保つ目的で3回目の「ブースター接種」を始める動きも出ている。日本でも、厚生労働省が3回目の接種を認める方針を固めた。
やれ半年だ、4ヵ月たつと効果が落ちる、といった報道がある一方で、米国では3回目接種に科学者が反対する動きもある。実際のところはどうか? 著者は抗体の減少曲線などから、〈mRNAワクチンの2回接種により、おそらく1年間ぐらいは感染を防ぐことができるレベルの免疫効果が持続する〉とみている。
もうひとつ気になるのは、相次いで登場する「変異株」に対する既存のワクチンの効果。ニュースなどでは、中和抗体ばかりが注目されるが、実際には〈免疫細胞を総動員してウイルス排除〉を行っている。〈ワクチンを接種によって増強された自然免疫系と獲得免疫系はある程度食い止めてくれるはず〉だ。その間に変異株に最適化したワクチンを作ればいいというわけだ。
■若い接種者の死亡例を調査せよ
意外感があったのが、〈免疫学的に考えると、異なる会社のもの(ワクチン)を組み合わせても問題がいないはず〉という見方だ。河野太郎ワクチン担当相が1回目と2回目で異なる会社のワクチンを打つ「交差接種」について言及したとき、一部の専門家から批判の声も上がったし、正直、「エビデンスもないのに無理筋では?」と感じていた。
しかし、海外では異なるワクチンを接種する臨床試験が始まっていて、〈アストラゼネカ製を2回接種した場合よりも、アストラゼネカ製とファイザー製を組み合わせたほうがずっと良い結果が出て〉いるという。国産も含め、これから新しいワクチンが続々登場する。臨床試験の結果が待たれるところである。
ワクチンをめぐっては課題も多い。そのひとつが、厚生労働省の「副反応疑い報告」の死亡事例。同報告によれば、ワクチン接種後の死者は、すでに1000人を超えている。そのうち「情報不足等によりワクチンと死亡との因果関係が評価できないもの」が、100%近い数値になっている。要は“不明”ということだ。反ワクチン派でなくとも、疑念を持ちかねないレベルだ。
新型コロナウイルスとの戦いは長期戦になると予想される。通常の治験のプロセスを省いて特例承認した経緯もあるだけに、〈特に既往症もない若い接種者の死亡例については、さまざまな医学検査を行い、見過ごされているリスクファクターを探す努力を重ねる必要〉がある。
著者が提案するAI(オートプシー・イメージング)診断法は、CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像診断)で体を傷つけずに調べられるため、死因調査の同意も得やすく、有用な方法となりそうだ。
実のところ、本書は手放しでワクチンを礼賛する本ではない。現状のエビデンスに基づいて評価、リスクを明らかにし、未確定な部分や課題についてもきちんと言及されている。
ワクチンを〈最終的に接種するか、見送るかは個人が判断すべきこと〉だ。判断に当たっては、信ぴょう性の薄い報道や “嫌ワクチン本”に惑わされない、情報リテラシーが不可欠である。科学的根拠に基づいて、さまざまな論点を網羅している本書を読んでおいて損はない。(鎌)
<書籍データ>
宮坂昌之著(講談社現代新書990円)