SBIホールディングス(HD)が新生銀行の買収に乗り出している。TOB(株式公開買い付け)を発動して新生銀を連結子会社にする作戦だ。同行のTOB延長要請を渋々受け入れて決戦は12月に伸びたが、グループ総帥の北尾吉孝社長は、「第4のメガバンク」構想実現に執念を燃やしている。氏は新生銀に地銀連合の司令塔の役割を求めており、野望実現のために金融庁を取り込むなど外堀を固めている。


 SBIHDは2021年9月、20%を保有する新生銀の株式を買い増しして最大48%まで引き上げ、経営権を握るためTOBの開始を宣言した。しかし新生銀サイドは、SBIの軍門に下ることを避けるため買収防衛策を敢行して時間稼ぎに出ている。新株を発行して株式数を増やし、SBIの保有株式数を相対的に下げてTOBを葬り去る戦術である。狙いが成功するには新たに発行する株式を引き受ける投資家を見つけなければならない。それがホワイトナイト(白馬の騎士)と呼ばれる援軍だ。インターネット銀行など金融グループを内包するソニーグループや、国内流通2強の一角セブン&アイHDの名が候補先に挙がっているが、双方とも乗り気ではない。



 北尾氏が新生銀を「第4のメガバンク」構想の中軸に据えたがる理由は、同行が歴史的に地方銀行との親密関係を持っている点にある。旧日本長期信用銀行時代、地銀・第二地銀は「リッチョ―」(利付金融債)や「ワリチョ―」(割引債)といった長銀の金融債を大量に購入、地元で集めた預金を金融債に運用して利ざやを稼いでいた。大きな融資先が少なく資金運用のノウハウに乏しい地域金融機関にとって、長銀は頼りになる資金運用のプロだった。長銀破たん後もその関係は続いている。


 野村證券出身の北尾氏率いるSBIHDは、島根銀行など地銀8行と資本業務提携を結んでおり、目標の10行まであと一息。菅義偉政権の発足直後は総理との蜜月から構想は一気に進むとの見方もあったが、短命政権に終わった。構想の発表から2年、当初のスピード感はなく停滞した雰囲気も出て来ていただけに、切り返しの一手として以前から食指を動かしていた獲物を本気で取りに行く格好になった。


利害一致した当局を引き入れる

 

 新生銀行は、長銀時代の経営破たんから外資系ファンドによる買収を経て現在に至るが、公的資金約3500億円の返済が済んでいない。新生銀行は自社株を売却して返済する意向だが株価が回復しておらず、ここ数年は返済のメドが立っていない。国は同行の株価が上昇して返済資金のメドが立つのを待っているので、今回のSBIHDによるTOBが成功裡に終わって公的資金返済の道筋がつくことを望んでいる。


 だからこそ、SBIHDが新生銀に突き付けた新役員体制で、初代金融庁長官の五味廣文氏を起用する案を裏で支持しているとの指摘がある。金融庁にしてみれば、ハゲタカファンドのリップルウッドが「瑕疵担保条項」を巧みに使い、一時国有化した旧長銀から金を巻き上げた呪わしい過去を忘れていない。ハゲタカファンドはその後2019年に同行の経営から去ったが、当局にとって新生銀はいつまで経っても問題銀行なのである。何かといえば論語を振りかざして怪しい北尾氏でも、敵の敵は味方である。五味氏は金融庁を去って15年近くになるが、あちこちの企業で顧問や取締役になっており、相変わらず脂ぎっている。


構想実現にうってつけの新生銀行だが……

 

 SBIHDが目指す第4のメガバンク構想は、わかりにくいようでいて実はシンプルな銀行収益強奪作戦である。資本業務提携して銀行に出資し、SBIHDの持分法適用会社などにして応分の利益を確保する。そして高コストの基幹システムを低燃費のシステムに入れ替えさせ、証券会社のノウハウを導入して資金運用し銀行の資金利益を増大させる。この3点に尽きる。構想実現のための2つのポイントに関して、新生銀行はいずれも貢献できるものを持っている。2001年に国内銀行としてはいち早くオープン勘定系システムを稼働させた実績があり、資金運用ノウハウは、長銀時代から市場性資金の運用で一定の評価がある。


 SBIHDは、インターネット専業銀行(住信SBIネット銀行)を抱えるが、信託トップの三井住友信託銀行との半額出資。経営の奥深くまで手を入れてはいない。システム構築にしても、グループ内の企業で多彩な構築体験はあっても、銀行現場でのシステム開発実績は乏しい。


 北尾氏が集めた地銀・第二地銀は島根銀のほか福島銀行、筑邦銀行、清水銀行など業界下位行ばかり。業界関係者の間では「ただでさえ低収益なのだから、誰かが少し手を入れれば増収増益になるのは当たり前」との指摘は少なくない。出資しても挨拶に来ない、役員はクビ、などと激怒する教祖の布教活動は佳境に差し掛かっている。


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平木恭一(ひらき・きょういち)

明治大学文学部卒。経済ジャーナリスト。元金融業界紙編集長、金融業界の取材歴30年。週刊誌や経済専門誌に執筆多数。主な著書に『図解入門業界研究 銀行業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本(第6版)』(2021年5月 秀和システム社)、宝島新書『朝日新聞の黙示録 ―歴史的大赤字の内幕』(2021年5月 共著:宝島社)など。https://www.k-hiraki.com/