メディアの選挙予測に関しては、以前にも本欄で触れた気がするが、かいつまんで言えば、過去数回の選挙データ、各陣営の読み、世論調査的な情勢調査の3つのステップでそれなりに合理的な手順を踏む。近年はここに投票所での出口調査も加味される。私自身は衆議院選挙がまだ中選挙区制だった時代、新聞記者として衆参の選挙区担当を数回経験した。系列テレビ局で当選速報を出すための基礎取材で、そもそもわずか数分~数十分差の競争をする無意味さを指摘されてしまえばそれまでだが、それでもただひたすら「数字を読む」純粋な調査・分析は、どんな陣営の関係者とも目的を共有し得る作業として、通常の取材とはまるで違う雰囲気のものだった。


 前述したステップ2番目の票読みでは、「ウラ選対」と呼ばれる陣営幹部と知り合ったり、保守候補の集票を最前線で担う土建業者に話を聞き歩いたり、あるいは市町村議員にエリア別の状況を聞くなどして、「A候補は〇〇市で最大Ⅹ票、少なくともY票。B候補は……C候補は……」という「読み」を選挙区内の自治体ごとに一覧票にした。


 小選挙区制でエリアが狭まって自治体の数が減り、候補者数も少なくなったため、票読みは当時より難しくなっている。自治体数、つまり開票所の数が多いほど、細切れにデータが発表され、票の動向がつかみにくいのだ。また、地縁血縁の固定票が時代を追うごとにやせ細り、浮動票の比重が増してきた難しさもある。一方で、パソコンでのシミュレーションがレベルアップしたプラス面もあるだろう。


 そんな経験から考えると、多くの週刊誌が選挙のたびに載せる予想は、上記の第1、第2段階の調査・分析を全国規模にキメを粗くして、政党やメディア関係者にその「上澄み」だけを聞き取ったものだと想像がつく。つまり、接戦区の見通しはほとんど立たないのが実情だろう。少なくとも新聞記者時代、私たちは雑誌の予測を相当に下に見て侮っていた。


 とは言っても、各区の「本命・対抗・3番手」の大まかな顔ぶれは、自らの1票を死に票にしたくない有権者には、重要な情報だ。今週の週刊文春に出た『自民、想定外!289全選挙区予測』は、自民(276→244、マイナス32議席)、公明(29→33、プラス4議席)で、与党が計28議席の減、野党は立憲が110→115、共産党が12→17で5議席ずつ、国民が8→12で4議席の増、「是々非々」の維新が10→26で最も議席を伸ばすものと予測している。


 サンデー毎日の読みは、自民257(マイナス19)、公明32(プラス3)で、与党の議席減は16で留まるという判断。その分立憲、共産の伸びはプラス3、プラス2と少なく、議席増が大きいのは維新のプラス15議席、次いで国民の6議席増だと予測する。


 週刊ポストはある程度の幅を持たせての予測だが、中間値で言うと自民239(マイナス37)、公明28(マイナス1)、与党両党で38議席の減少と下げ幅を最も大きく見積もっている。維新をプラス12議席と2ケタ増に見る点では他の2誌と同じだが、立憲の伸びはそれよりぐっと大幅な26議席増だという。共産はプラス6議席、国民は2議席増という分析だ。


 前述したように、事前予測の肝は各新聞社や通信社、NHKによる第3ステップの事前調査(世論調査)にあり、現時点の週刊誌の報道にはその部分の下支えがない。上記3誌の予測では、菅政権末期に囁かれた自民党の大敗北は回避され、単独過半数(233議席)は維持されるとの判断だが、選挙戦中盤にはもう少し具体的な感触が見えてくるだろう。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。