茨城県が「魅力度ランキング」最下位に返り咲き!


『医薬経済』本誌の11月15日号において、茨城県の「地域医療構想」で明らかになった病床数の需給ギャップを確認しております。


 この分析では、石岡市が属する土浦構想区域は、県内の他の地域よりも病床数や医師数が多く、比較的、医療資源に恵まれているという結果が出ています。ただし、高度急性期病床は土浦市に集中しており、石岡市単独では違った状況が見えてきます。だからこそ、石岡市は独自の地域医療計画の作成に乗り出したわけですが、次号では構想区域内での偏在や格差について詳しくレポートしたいと思います。



 一方、茨城県全体の医療資源は……。というと、かなり厳しい状況に置かれています。医療資源の地域偏在を象徴する言葉に、「西高東低」というものがあります。これは、病床数や医師数などの医療資源は、西日本に多く、東日本は乏しいことを表したもので、茨城県はこの「東低」地域に属しています。


「医療施設調査」によると、茨城県の人口10万人あたりの病床数は1072.5床で、ワースト9位。医療スタッフも全国平均を大きく下回っており、「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、人口10万人あたりの医師数は197.5人で、埼玉県につぐワースト2位となっています(いずれも2018年、厚生労働省)。


 このように、茨城県の医療の提供資源は、他県と比較するとランキングの低位に位置しています。そして、先月、もうひとつ、茨城県が厳しい結果を突きつけられたのが都道府県別の「魅力度ランキング」です。



「魅力度ランキング」は、株式会社ブランド総合研究所が行っている「地域ブランド調査」の通称です。各地域の魅力度や認知度、地域特性想起、地域コンテンツの認知度、商品の購入意欲度、地域資源の評価など、89の調査項目について、消費者の視点でその地域のブランド力を評価・測定しています。


 この「魅力度ランキング」で、茨城県は2013年から7年連続で最下位。昨年は、順位をあげて過去最高の42位になったものの、今年、再び評価が下がり、10月9日に発表された「第16回地域ブランド調査2021」で「最下位」に返り咲いてしまったのです。この発表後、しばらくは、「魅力度ランキング、また最下位になっちゃいましたねー」という言葉が挨拶代わりになりました。


 自分が暮らしている地域の魅力度が、「全国ワースト1」という不名誉な評価を受けたわけですから、不機嫌になったり、悲しんだり、怒ったりしそうなものです。ところが、魅力度ランキングの話をする地元の人の顔は一様に明るく、「最下位、むしろおいしい」と笑顔で話す人と多いのです。


 ここ数年の「魅力度ランキング」に関する報道を見ていると、上位の地域より、最下位争いのほうが話題となっており、「最下位」であることのニュース性が高くなっています。中途半端な順位にいるより、最下位のほうがメディアへの露出が高くなり、ある意味では「おいしい」位置を獲得しています。そこを、茨城県民は面白がっているように感じるのです。


 さらにいえば、イメージと実態は、必ずしも同一ではないことを、暮らしている人は実感しているからかもしれません。


「魅力度ランキング」の調査項目は、個人の主観によって回答する項目も多くみられます。茨城県に対してあまりよいイメージをもっていない人が多いのは、その通りなのかもしれません。でも、イメージと実態がかけ離れていることはよくあることで、茨城県にはあまり知られていない「1位」がたくさんあります。



 たとえば、メロンの出荷量です。メロンといえば、魅力度ランキング1位の北海道の「夕張メロン」を思い浮かべる人が多いはずですが、実はメロンの出荷量の1位は茨城県なのです。


 北海道のメロンの出荷量は2万100tですが、茨城県は3万1600tで、約1.5倍を出荷しています(2020年「農林水産統計 作物統計調査」)。茨城県産のメロンのなかでも、このところ注目されているのが「イバラキング」という品種です。


 表面に細かい網目模様のあるネット系青肉メロンで、果実部分が多いのが特徴です。夕張メロンに勝るとも劣らない糖度がありますが、さっぱりとした甘さで、肉質がなめらかな、上品なメロンです。私は、夕張メロンより、イバラキングのほうが、断然、おいしいと感じます。


 秋にあると、モンブランや栗きんとん、栗蒸しようかんなど、栗を使ったスイーツが出回りますが、茨城県は栗の出荷量もダントツの1位で、3490t。2位の熊本県の2190tを大きく引き離しています(同調査より)。


 メロンや栗のほかにも、レンコン、ピーマン、レタス、水菜、白菜、青梗菜、夏ネギ、鶏卵などの出荷量も日本一。耕地面積も日本一で、茨城県産の野菜や果樹は日本の台所を支えています。



  茨城県には海もあるので、魚介類の水揚げも豊富です。春になれば、ワラビタラの芽、コゴミなどの山菜も採れるので、食べるものに困ることがありません。その豊かさは古代から続くもののようで、『常陸国風土記』には、「それ常陸の国(現在の茨城県)は、…(中略)… 土壌沃墳ひ、原野肥衍たり。墾発きたる処、山海の利ありて、人々自得に、家々足饒へり」と記されています。


 ※現代語訳:耕地という耕地はすべてよく肥えており、未開墾の原野も耕地に劣らず豊かである。開墾された土地と山海の幸とに恵まれて、人々は心やすらかで満ち足りていて、家々は富裕でにぎわっている」(全訳注 秋本吉徳 講談社学術文庫より)


家庭菜園のキャベツ。無農薬、無化学肥料でも元気に育つのは茨城の土のおかげ?!


 実際に茨城県で暮らしてみると、その豊かさを実感します。小さな家庭菜園で育てている野菜は、農薬も化学肥料も使っておらず、さほど手をかけていないのに元気に成長してくれて、ひとり暮らしでは余るほどの収穫量になります。ご近所からのいただきものも多く、野菜はほとんど買わずに済むほどです。



 もちろん、公共の交通機関や医療資源が少ないなど、都市部と比べると不便なことはたくさんあります。派手な観光施設やおしゃれな商業施設が少ないなど、観光客を引き寄せるという点でも魅力に欠けるのかもしれません。


 でも、身の回りに食べるものがたくさんある豊かさは、確実にそこで暮らす人の心に余裕を作り出していように感じます。実際、国土交通省が、可処分所得と基礎支出から独自に算出した「都道府県別の経済的豊かさ(中央世帯)」のランキングでは、茨城県は4位で、その暮らしやすさがうかがえます。


 自分たちは豊かさを実感しているからこそ、「魅力度ランキング最下位」という称号をえても、ニコニコとおおらかに笑って受け流せるのかもしれません。



 心理学者のアルフレッド・アドラーの言葉には、次のようなものがあります。


「他人からの賞賛や感謝など求める必要はない。自分は世の中に貢献しているという自己満足で十分である」


 魅力度ランキングは最下位でも、たくさんの農産物や海産物を全国に届け、日本の食と農を支えている茨城県の人々は、このアドラーの言葉を体現しているのではないでしょうか。