今や歯を失う最大の原因とされる「歯周病」。痛みを伴うむし歯と違って、初期段階では気づかないことも多いだけに、「気が付いたら結構進行していた」ということも起こる。


『長生きしたい人は歯周病を治しなさい』は、歯周病の実態から原因、予防法、対策までをコンパクトにまとめた1冊である。


 しばしば「成人の8割が歯周病」などと言われるように、歯周病といえば中高年からの病気だと考えていたが、実は〈一〇~一九歳では平均二七・六%と、すでに四分の一以上が歯周病〉だとか。まさに“国民病”である。


 実は、歯周病の発症メカニズムが明らかになったのは21世紀に入ってから。


 口のなかには〈普段からしっかり歯みがきをして、割と口のなかのお手入れができている人で一〇〇億個〉というレベルで細菌が存在している。細菌には善玉菌、悪玉菌、日和見菌があるが、歯周病はその細菌バランスが崩れることで起きる。


 歯磨きが不完全、睡眠不足や食生活の乱れ、ストレス過多といった状況だと、細菌バランスが悪玉菌に傾いて歯周病が進行していくという。とくに、喫煙は〈大きな引き金になる〉。歯周病の発見が遅れたり、プラークを剥がれにくくしたり。いいことなしだ。


 ちなみに、まったく歯周病菌がいない人もいるが、口のなかの細菌叢が“完成”(細菌の入れ替わりがなくなる)するのが30歳ごろ。もちろん、家族に歯周病菌を持つ人がいなければ、感染する確率は低い。


 ただ、30歳頃まで、配偶者や彼氏・彼女とキスはしない、飼っているペットになめられない、同僚や友人と飲み会で鍋をつつかない、飲み物を回し飲みしない……といったリスク回避行動をカンペキに続けられる人は少数派だろう。


 最近増えていて、アレルギー疾患など、さまざまな病気との関連性も指摘されている「口呼吸」も、歯周病が進む要因になる。


■歯周病は口臭の原因トップ


 残念ながら、〈歯周病は一度なると、自然に治ることは絶対にありません〉。“菌”といえば、すぐに思いつくのは抗生物質だが、現状では〈歯周病菌を完全に追い出すことができない〉という。


 歯周病対策の基本は、歯周病菌が住みつくプラークを落とすために日頃の歯みがきを丁寧に行うこと(フロスや歯間ブラシは必須!)。それでも、磨き残しや、プラーク・歯石が生じる。これらを除去してもらうために、定期的に歯科に通ってメンテナンスを行う。歯のみがき方が不完全な場合は、クリーニングの担当者が指摘してくれるはずだ。             


 歯周病といえば、真っ先にイメージするのは「歯ぐきや骨が壊れて、歯が抜ける」だが、それだけではない。


 注意したいのが「口臭」だ。実は、口臭の原因として歯周病は45%を占め、トップである。しかも、〈野菜の腐ったような強いニオイ〉かつニオイの原因物質〈メチルメルカプタンの毒性は青酸ガスにも匹敵すると言われるほど強い〉という。誰しも自分が「臭い」とは言われたくないものだ。


 近年、糖尿病と歯周病の関係はよく知られるようになったが、本書にはさまざまな病気との関係が記されている。心筋梗塞・脳卒中、動脈硬化、肥満・メタボリックシンドロームといった生活習慣病に加えて、早産・異常出産のリスクもある(早産のリスクファクターの2位)。


 誤嚥性肺炎や関節リウマチ、骨粗しょう症など、高齢者に多い病気のリスクも高くなる。歯周病は、口の中だけの病気ではないのである。


 コロナ禍で不急の受診を減らしたり、リモート勤務になったりした結果、歯の定期的なメンテナンスに通わなくなった人もいると聞く。全身の健康のために、本書でいま一度 “健口”を見直してはいかがだろうか?(鎌)


<書籍データ>

長生きしたい人は歯周病を治しなさい

天野敦雄著(文春新書880円)