週刊文春に週替わりの匿名筆者による『新聞不信』という小さなコラムがある。今週の見出しは『東芝分割 見えてこない黒幕』。先に発表された東芝の3分割方針について、新聞各紙の報道が「上っ面」に留まり、原発プラントを造る「国策民営会社」だった東芝の背後には経産省がいて、2015年の会計不正発覚や物言う株主(アクティビスト)に追い詰められてゆくプロセスに深く関与したに違いない国の責任をえぐらない新聞報道への苛立ちを綴っていた。
そんななか、週刊現代は東芝問題を追ってきた経済ジャーナリスト・大西康之氏の『アクティビストに弄ばれた名門の最期 東芝・最終解体 12万人社員を待ち受ける地獄』という4ページのルポを掲載した。このルポでは、東芝転落のきっかけが06年、「『原子力立国』を目指していた政府に背中を押される形で」米原発メーカー・ウェスチングハウス社を買収した経営判断にあり、結果的にこれが1兆円以上の損失を出し粉飾決算につながったこと、またその後、窮状に立つ東芝を政府系ファンドに買い取らせる方向で救済しようとする政府の画策があったことなどにきちんと触れている。
サンデー毎日は『職場が溶ける⁉ ああ名門東芝の落日 3分割の行方』と銘打って、ジャーナリストの今沢真氏、経済評論家の山崎元氏、そしてノンプロ時代に東芝に在籍した元プロ野球選手・青島健太氏の3人の談話をまとめている。ただし、前2者による話はあくまでも「株主の要求に敗れた東芝」という範囲の解説で、青島氏のコメントは社員たちに「東芝スピリッツ」による奮起を呼びかけるエールに留まっている。
この問題は、27日に放映されたテレ朝『朝まで生テレビ』でも触れられた。全体のテーマは日本の経済危機。過去30年、世界の潮流から取り残され競争力を失った日本企業の弱体化を論じるなか、たとえば粉飾決算を問題視する声が内部で出なかった東芝の問題が、システム障害を繰り返し3首脳が辞任に追い込まれたみずほファイナンシャルグループの例、あるいは公文書の組織的改竄に手を染めた財務省の例とともに語られた。
みずほの問題では金融庁が同社の企業風土を「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」とまで厳しく評している。番組の議論では、こうした組織内の「悪しき同調圧力」は国内各企業・各団体に蔓延し、大胆な発言を嫌う「出る杭を打つ風土」が組織の自浄や方針転換を妨げてきたことを指摘。低迷する日本経済を再建するためには、自分の頭で考える人材の育成や教育改革が必要だという点で、与野党議員を含む出席者の見方は概ね一致した。
印象的だったのは、国民民主党参議院議員の大塚耕平氏がバブル以後の日本経済の「敗北」を先の敗戦に重ね合わせ、思想家の丸山眞男が指摘した「無責任の体系」が戦前戦中と何ら変わらないと主張したことだ。おかしいことをおかしいと言いにくい空気、余計なことを言わないほうが得策、という組織文化がはびこっている限り、日本の再生はないというのである。
個人的にはとくに、学校教育の見直し論に共感した。自分の少年期を顧みても、学校で重視される価値観は「協調性」の一本やりだった。目上の人や多数派級友への同調が、とにかく是とされた。もし年長者の言葉がどうしても間違っているように思えたら、どうするべきなのか……。そういった「不条理への対処法」は(人生におけるより重要なテーマに思えるのに)何ひとつ聞いた覚えがない。番組では、こうした議論の流れから昨今の「道徳の教科化」への疑問も出た。
と、それまで全体の論調に同意する姿勢を見せていた自民党の片山さつき参議院議員が、このときだけ「自分はそう思わない。これはイデオロギーの違いだ」と反発した。道徳教育の強化・徹底は、今まさに求められる「自分の頭で考えさせる教育・出る杭を育てる教育」の対極に思えるのだが、片山氏は論理矛盾に目を瞑ってでも、党内保守派の主要政策は否定できないのか。だとしたら、とどのつまり彼女もまた「モノ言えぬ集団性」に囚われているように思えてしまうのだが。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。