11月14日(日)~11月28日(日) 福岡国際センター(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」より)


 一人横綱2場所目の照ノ富士が危なげなく連覇、6度目の賜杯を全勝優勝で手にした。大関貴景勝が12勝、万年関脇の御嶽海が11勝。今年を締め括る場所で上位陣はまずまずの成績ではあった。


明と暗、御嶽海と正代

 

 このところ毎場所モタモタしている御嶽海(東関脇)だが今場所は9日目で勝ち越し、照ノ富士・貴景勝の2強を追う一番手として健闘した。ただ5日目に東洋大の後輩・若隆景(西前頭筆頭)に上手く取られた。出し投げを食らって揺さぶられた後に頭を付けられ、腰が伸びてそのまま寄り切られる。少し前までは「(俺に勝つのは)10年早い」などと嘯いていたが、その差は縮まっている。後から振り返れば、負けが込んでいた後輩力士にこの黒星は痛かった。


 さらに10日目。立ち合いが緩く踏み込めなかった御嶽海は、相撲巧者の宝富士(東前頭4枚目)に差し手争いで負けてなす術もなくズルズルと後退し、寄り切られた。ここまで8勝1敗。そろそろ中休みかと思っていたところに案の定の敗戦。対戦中に早くも解説の北の富士さんが嘆息する「あー、はぁー」の声がマイクにしっかり入っていた。


(10日目/御嶽海―宝富士)


 大関昇進以降はどっぷりとぬるま湯につかり、やる気の失せた正代はご当地場所でもいまひとつ精彩を欠いた。中(なか)日の遠藤(西前頭4枚目)戦。珍しく前に出て押していったが、足が付いていかなかった。落ち着き払った遠藤のすかした表情が印象的だったが、解説の錣山親方(元関脇寺尾)は慣れない相撲を取った正代をかばった。「皆さん、胸を出して腰高になるのが駄目なんだと言いますが、そこが正代のいいところ。その体勢からでも十分力は出せるんです」と擁護。久々に幕内に復帰した愛弟子で好成績を収めたチャラ男の阿炎(西前頭15枚目)には手厳しいこの親方も、根は優しいのだ。総スカン状態の大関にひとりくらい味方がいてもいいが、それにしてもだらしない。このすかされ方を見よ。


(8日目/正代―遠藤)


髷をつかんだ逸ノ城、奇怪な物言い

 

 逸ノ城が殊勲の白星かと思った。しかし、土俵下にいた審判の手が挙がる。8日目、大関貴景勝と逸ノ城(東小結)の一番だ。突っ張り合いから大関がやや半身になりながら頭を付けたが、小康状態に。3分近い熱戦の最後は逸ノ城が突き出した。が、物言いが付く。協議の結果は逸ノ城の反則負け。突っ張り合いの過程で貴景勝の髷(まげ)をつかんだというのだ。


(8日目/貴景勝―逸ノ城)


 ならば、髷をつかんだ時点で審判部長は挙手して勝負を止め、大関に軍配を上げるべきだった。7連勝の大関に対して小結の逸ノ城は3勝4敗。どちらも重要な一戦だ。まさか大関の勝ちっぱなしを演出したかったわけでもなかろうが、後味はよくなかった。


盤石、照ノ富士

 

 14日目の結び。幕内下位で12勝1敗の阿炎が横綱戦に登場。番付の上では残り2日で大関2人だから、文字通り番狂わせだった。これも正代がだらしないからこそなのだが、錣山親方の弁護もある。これ以上言うまい。照ノ富士が怪我で番付を急降下させている間に阿炎は出世したが、不祥事で出場停止になると照ノ富士が昇進を重ねた。すれ違いの結果、この一番が初顔合わせ。巡り合わせの妙と言うべきか。


 勝負は長身で手の長い阿炎の両手(もろて)突きで始まり、のど輪攻めを食らう横綱は防戦一方。しかし、土俵際で堪えたあとは逆襲に転じ、阿炎の左腕をつかんで一捻り。見事な逆転勝ちで優勝を決めた。


(14日目/照ノ富士―阿炎)


 驚いたのは取組後の談話。阿炎のまわしを取るために敢えて相手を引き込む作戦を取ったというのだ。前日から研究していたそうで、接近戦に持ち込んでから料理するシナリオを演じ切ったことになる。怪我でもしない限り、来年も照ノ富士の独走は止まりそうにない。


 阿炎も善戦した。出場停止前よりもひと回り大きくなり、引きやはたきが影を潜めた。談話も殊勝になり、ようやく師匠のメガネに叶う大人になったようだ。人格者の定評があり、かつて付け人をしていた元横綱の鶴竜からも叱咤激励を受けたに違いない。しかし、人間そう急には生まれ変われない。この土俵態度を常に持ち続けることだ。そうすれば、次期大関の有力候補になる。(三)