プロ野球は11月28日の「オリックス対ヤクルト」日本シリーズ第6戦で幕を閉じた。昨年は新型コロナウィルスで開幕が6月下旬と大幅に延び、今年は五輪開催で7~8月に1ヵ月中断したせいで寒い時期での閉幕になった。前年最下位同士の熱戦だったが、ヤクルトが総合力でやや上回り、20年ぶりの日本一を達成した。


阪神、急降下の分岐点?

 

 前半は独走状態だった阪神が失速する分岐点になったゲームが、7月6日のヤクルト戦ではなかったか。5対1で阪神が勝ったこの試合、4-0とリードした5回表2死1、2塁で問題の場面が起きた。2塁走者近本が離塁しながら左手を(2塁)ベース方向に向けて2、3度動かした。すると、ヤクルト3塁手の村上がクレームを付けた。これに反応したのが、矢野監督と井上ヘッドコーチ。「ごちゃごちゃ言うな」「絶対やってへんわ!」「やるわけないやろ。アホ!ボケ!」などと罵声を浴びせたのである。それをきっかけに両軍ベンチが騒然となり、審判団が集まって両監督を呼び沈静化を図った。


 打者にコースを知らせるサイン盗みではないかと注文を付けた村上に激高したタイガース指揮官の言動は、実に品性下劣だった。打席に立っていたのが、その後不振を極めた新人佐藤だった。佐藤は自軍ベンチからの汚い野次に狼狽し、伏し目がちにバターボックスの周りを所在なく動いていた。このゲームが阪神急降下の直接の原因になったわけではなかろう。しかし、間違いなく首位快走の原動力だった新人打者の凋落はこれ以降に始まっているのは偶然と思えない。


 この件以上に矢野の度量の狭さを象徴したのが、巨人とのCS1ステージの敗戦後に語った談話である。「佐藤輝明は手ごたえと悔しさがあったと思うが、監督から見てどうか」と記者から聞かれて、「まぁ、それは佐藤に聞いて。俺は今ちょっと」と答えた。3位の巨人に敗れたばかりで平常心ではいられなかっただろうが、「よくやった」の一言がなぜ言えないのか。普段から「俺ら」を連発してチームの輪をひけらかすが、労いの言葉もない監督に見限られた佐藤が不憫だった。


千葉での3連勝で決まり

 

 オリックスは9月28日~30日のロッテ戦3連勝がすべてだった。これでゲーム差なしになり、ロッテのマジックナンバーが点灯しなかった。3連戦最後のカードは9回2死1、2塁で打者はT岡田。オリックスから見れば1―3の場面だから、本塁打王の経験もある打者は一発狙い。


 ペナントレース終盤、ロッテは主砲マーチン、オリックスは首位打者の吉田を怪我で欠いて苦しい打線だった。この試合は8回に0-1の劣勢から太田諒がロッテの3番手佐々木からソロHRを打って追い付き、その裏はオリックス先発田嶋が珍しく続投。しかし、2死から四球を連発し1、2塁。その後、レフト、センターのまずい守備から2本のタイムリーを浴びて勝ち越された。嫌な雰囲気で迎えた最終回だったが、粘り腰を見せて最後にうっちゃった。ロッテの守護神・益田は3ランを浴び呆然。このゲームを勝てなくとも引き分けていたら、ロッテはリーグ優勝に手が届いていた可能性は高い。


総合力で勝るヤクルトに軍配

 

 日本シリーズは久々に面白いゲームが続いた。ポイントは4戦目にあった。オリックスは2戦目に宮城、3戦目に田嶋と左腕を続けた。この試合、実績から見ると左腕3番手の山崎福也が妥当な線だが、3戦続けての左腕先発を避けた。あるいは王手を掛けられて経験不足の右腕・山崎颯一郎を先発にするリスクを回避し、この試合に持ってきたともいえる。


 山崎颯は5回1失点と好投した。ここまでは予定通り。しかし、2番手に増井を出したのが失敗だった。ベテランの経験に賭けたが球威、制球力ともになく、見ていて不安だらけだった。3番山田を怖がり四球、村上には痛烈な1塁ライナーで幸運にも併殺になって2死が取れたが、続く5番サンタナにまたも四球、中村にライト前とピンチを広げて降板した。前日の試合でも中継ぎが失点して逆転負けしていたので、この場面ではシリーズ未登板の増井か故障明けの山岡と選択肢が少ないように思えた。


 短期決戦は、使える駒が多いほうが有利だ。絶対の守護神でもない限り、打ち込まれた投手や凡退が続く野手は消していかなければいけない。オリックスはベテラン安達がブレーキになり、8回を任せるヒギンスが通用しなかった。5戦目に安達に代わってスタメン起用し活躍した太田をもっと早く使っていればとの悔いが残る。


 ヤクルトはバランスの取れた打線と安定した抑えで、駒不足の先発を補った。とくにサンタナ、オスナの両外国人が働き、その間に座る中村が捕手でいい仕事をしながら好機に1本出したのが大きかった。シリーズMVPは極めて正当な評価である。


ビッグボスと立浪親分の来季は?

 

 来季はパリーグで監督2人が変わり、セは中日が待望の人気者を指揮官に据える。新庄はやることなすことがいちいち派手だが、言っていることは至極まとも。立浪は根性論者だが、弱いチームに闘魂注入は当たり前。上から目線で上等、寄り添う必要など微塵もない。前年最下位チームがリーグ優勝する世の中。球春が待ち遠しい。(三)