システム障害を重ねて金融庁の怒りを買っているみずほフィナンシャルグループ(FG)の解体が現実味を帯びてきた。企業トップの首を取ると明記している唯一の法律が銀行法だ。業務改善命令を食らったので、当然みずほのトップ連中は総退陣だが、10年余りグループにあった3つのトップの座を唯一歴任してきたFG会長が経団連の副会長職を1ヵ月自粛した。口あんぐりである。


 財界活動自体に価値はなく、自粛しようが続けようが勝手だ。しかし、ケジメの付け方が30日間という発想はびっくりショーものではないか。不祥事の大関を1年間6場所出場停止させ、奈落の底に突き落とした角界を見習うべきである。


(みずほFG・佐藤康博会長)


 メガバンクはもともと、顧客サービスの向上を狙いに生まれたものではない。不良債権処理の冬の時代に自らが生き残るために編み出した延命の産物である。一貫してみずほFGの経営中枢であり続ける旧日本興業銀行は、産業界とりわけ重厚長大の大企業に対して長期的な融資を担う「国策銀行」として存在してきたのだから、システム障害に対して痛痒を感じる種族でないことは明白だ。この勢力がグループをけん引している限り、永久に再生できない。


 興銀の体質を物語る逸話を紹介しよう。1991年に起きた尾上縫(ぬい)事件は、興銀も大いに絡んだ巨額詐欺事案である。金融業界紙の記者だった筆者はある日、取材担当先の興銀に出向いた。用件はほかにあったが、ことのついでにこの件に対するコメントを求めた。すると広報担当は、「何のことですか? 聞いたことがありませんが」とシレッと答えた。新聞・雑誌で大騒ぎになり、国会で追及された大事件にもかかわらず、シラを切り通したのだ。社会的責任など露ほどもなく、体面を維持することに汲々とする体質は脈々と生きている。


 第一勧業銀行や富士銀行にそのような体質がないかといえばそんなことはないが、2行は少なくとも個人顧客に対する目配りをしていた。法人の中でも大企業、上場企業など大きな会社に専門に融資し、個人の利用者は原則お断りの歴史を歩んできた興銀にリテールを求めるほうがそもそもおかしかったのだ。


 システム障害の原因は、旧3行で異なるシステムベンダーが最後まで共存した結果、複雑怪奇なシステム構成になり障害時における復旧方法が未完成だったにことにある。この通説は間違いではないだろうが、一番の原因は銀行風土にある。3行融和ができなかったということだ。メガ誕生から20年。みずほ銀行とみずほコーポレート銀行の「2バンク方式」から「ONE MIZUHO」(ワンみずほ)になっても改善できない。修復不可能の結論が出た。


徹底した再編 巨大システムは廃棄処分に


 解体の青写真だが、巷ではみずほ銀行のリテール(個人向け)業務をりそな銀行に、ホールセール(法人向け)業務を新生銀行に移管するとの指摘が出ている。りそな銀は旧協和銀行と大和銀行、新生銀は旧日本長期信用銀行が原型だ。三菱UFJFGと三井住友FGの2メガの名前が挙がらないのは、独占禁止法上の問題もあり、また両グループに再編意欲がないためだろう。システム構築に難があるというのは、再編で最も忌避すべきことだからだ。


(みずほ丸の内タワー)


 では、りそな、新生と合併できるのか。りそな銀にみずほ銀のリテール部門が加われば関東圏でバッティングするので、離れたがっている埼玉りそな銀行は好機とばかり、りそなホールディングスからの離脱を進める可能性がある。りそなも解体されるが、ここは埼玉分離だ、関西をどうすると足元がずっと揺らいでいるので、この経営基盤を固める好機になるかもしれない。


 一方、新生銀にホールセール業務部門を押し付けるのは厳しい。新生銀行は個人向け銀行として生まれ変わっている。消費者金融などノンバンクを傘下に抱えるから評価が高いが、その程度の価値である。旧長銀時代の残滓として資金証券部門など一部に法人業務の伝統は引き継がれているかもしれないが、みずほ銀のホールセール業務を担うことになれば、いったん捨てた仕事をまた抱えることになる。しかし、公的資金を返していないので、当局に言われれば一溜りもない。


 新生銀は今後、TOB(株式公開買い付け)を仕掛けているSBIホールディングスの傘下になる公算が強い。この一件で金融庁を味方につけたSBIにすれば、みずほ銀の法人部門を押し付けられた場合にどう反応するか。新生銀に加えて、さらに何倍も大きい銀行を巧まずして手に入れたとほくそ笑むのか。あるいは重荷に耐え切れず新生銀の支配を断念するのか。


 メガ誕生から20年が経過し、人はずいぶん入れ替わった。コロナ時代になり働き方も少しは変わっている。再編相手がどこであれ、みずほの若手、中堅行員はドラスチックな再編に対しては意外と冷静かもしれない。これまで利用者が求めてきた銀行の役割は様変わりしている。再編しても、みずほの営業拠点は全店閉鎖。行員も激減する。


 腐った頭(経営陣)を早急に切り離し、嫁ぎ先を早く決めて巨大システムを廃棄処分にする。4500億円をかけたシステムを捨てるにはその何倍もの経費がかるが、壊れたテレビを見ることはできない。そのくらいの覚悟がないと、20年変わらなかった銀行は容易に変わらない。みずほの役割は終わった。


****************************************************

平木恭一(ひらき・きょういち)

明治大学文学部卒。経済ジャーナリスト。元金融業界紙編集長、金融業界の取材歴30年。週刊誌や経済専門誌に執筆多数。主な著書に『図解入門業界研究 銀行業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本(第6版)』(2021年5月 秀和システム社)、宝島新書『朝日新聞の黙示録 ―歴史的大赤字の内幕』(2021年5月 共著:宝島社)など。https://www.k-hiraki.com/