何かとご馳走を食べる一方、体を動かす機会は減りがちな年末年始。内心、体重の増加が気になるという人は少なくないだろう。こんなときに増えるのは体脂肪で、その大部分はグリセロール(グリセリン)に3つの脂肪酸が結合した「トリアシルグリセロール」だ。化学的に中性を示すことから「中性脂肪」あるいは「脂肪」、「トリグリセライド(triglyceride:TG)」とも呼ばれる。


 2021年12月1日~24日、中性脂肪学会による「第1回中性脂肪月間」が開催され、TGの基礎知識から、TGが関わるさまざまな病態まで、27の動画がオンデマンド配信された。ここではまず、身近でありながら、知らない側面も多いその役割やTGとの付き合い方を見直してみたい。


■内分泌の機能も持つ内臓脂肪


 TGは貯蔵エネルギー源としての役割を持つ。脳を含む神経組織や赤血球は脂肪をエネルギーにできないので脂肪だけあれば大丈夫というわけではないが、体重65kg、体脂肪率15%の成人男性であれば、約9万kcal、1.5ヵ月程度の燃料貯蔵庫を持っていることになる。


 このように生命維持に重要であるにもかかわらず、目の敵のように扱われているのは、内臓脂肪が単なるアブラの塊ではなく、アディポサイトカイン(adipocytokine、adip-/adipo-は脂肪に関する形)と総称される、さまざま生理活性物質を分泌していることがわかってきたからだ。


 アディポサイトカインの中にも、ヒトにとっての善玉と悪玉が存在する。前者の例は、抗動脈硬化作用を持つアディポネクチンや、脂肪分解・エネルギー消費を亢進するレプチン。後者の例はインスリン抵抗性を誘発する腫瘍壊死因子α(TNF-α)やレジスチン、炎症性変化を引き起こす単球走化性因子(MCP-1)、血栓形成を促進するプラスミノーゲン活性化抑制因子(PAI-1)などだ。


 太り過ぎて脂肪細胞にTGがぱんぱんに詰め込まれ、肥大化した状態を放置しておくと、細胞活動ひいては臓器活動のバランスが崩れる。やがて脂質異常、高血糖・高血圧だけなく、より重篤な糖尿病合併症や循環器疾患へと進展するリスクが高まる。


 血中脂質は、異常があっても痛くもかゆくもない検査項目の代表だ。


 だが、血糖・血圧の高値、血中脂質異常、喫煙といったリスクを複数持つ人については、内臓脂肪を減らし、生活習慣病の発症を防ぎたい。そこで、40歳以上75歳未満の被保険者・被扶養者を対象に行われている特定健康診査(特定健診、いわゆるメタボ健診)で、スクリーニングに用いられるようになった腹囲が男性85cm、女性90cm。一般診療所や健診では実施が難しい腹部CTの代わりに、合併疾患数が著増する内臓脂肪面積100平方cmに相当する値だ。


 実際、腹囲の分布はどうなのか。平成元年(2019年)国民健康・栄養調査のデータを見ると、40代男性では6割近くが腹囲85cmを超える。他のリスクの重複がなければ、特定保健指導の対象とはされないものの、働き盛りに内臓脂肪が増えがちなのは事実のようだ。


 一方、女性の場合、該当者はどの年齢層でも男性よりは少なく、60代以降で増えるものの、メタボ対策からフレイル対策への転換が必要な年代であるため、40代男性とは異なるアプローチが必要と思われる。



 ちなみに、血中TG(空腹時採血)150mg/dL以上で高TG血症とされるが、この該当者の割合も、男性は40代、女性は60代が高い。



■体重、単純糖質、飲酒を減らす


 2008年から行われてきた特定健診・特定保健指導は、2024年からの第4期に向け、2021年12月から厚生労働省の検討会で見直し作業が始まった。今後の方向性として、「受診者の行動変容につながったか」「検査値が改善したか」などのアウトカム評価導入や、ICTを活用した取り組みなども、検討項目例に挙げられている。


 特定保健指導に関わって実感したのは、長年の習慣や現在の生活パターンと深く関わっている対象者の行動を、面談とフォローで変えることの難しさだ。通り一遍の理屈や理想を並べても「そんなことできるわけない」と思われるだけ。その点、なんだかんだ「薬は効く」。だが、薬を有効に使うためにも、まず生活リズムを整えてもらうことが大切だ。そこで、対象者の性格や関心事に合わせ、異なる種類の行動心理学的手法を用いる。それでも、フォローしている期間にこちらが驚くほどの変化を示す人もいれば、なかなか行動を変えられない人もいる。実際、何年も続けて特定保健指導の対象となる経年参加者へのアプローチが、相談員にとって悩みの種となっている。


 TGに注目した場合、最も関連が強いのは「肥満」。BMIが高いほどTG値も高くなるが、体重が減ると下がりやすい。肥満がない場合、単独でTGを上げやすい要素は「単純糖質」と「多量飲酒」だ。


 食べた物がそのまま体の構成要素になるわけではない。過剰な糖質はTGとして蓄えられてしまう。


 多量飲酒でTGが上昇するのは、チコちゃん風に言えば「肝臓がすごく働き者だから~」。


 肝臓は、糖代謝、脂質代謝、血漿蛋白質・血液凝固因子・尿素・胆汁の生成、ビタミンの貯蔵、薬物・アルコール・ビリルビンの代謝、ビタミンの貯蔵ほか、八面六臂の活躍をしている。そこでアルコール代謝の負荷が増えると、脂質代謝は後回しになってしまう。


 また、アルコールそのもののカロリーや、食欲促進作用もある。


 生活習慣病のリスクを高める飲酒量は、純アルコールにして男性40g/日以上、女性20g/日以上。多量飲酒の目安は46g/日以上とされる。お酒のアルコール量(g)は、飲酒量(mL)×アルコール度数(%)×エタノールの比重(0.8)で概算できる。例えば、ビール(5%)中瓶1本500mL、清酒(15%)1合180mLが20g程度に相当する。


 一方、身体活動量を増やすと、TGは減少傾向を示す。特に1日の歩数や食後の活動を増やすことは有効とされる。 


 飲食は1日1日理想の量と内容にきっちり収めるというより、一定期間でバランスをとっていくものだ。この年末年始、TGのことも頭の片隅に置き「へべれけになるほどは飲まない」「甘味を摂るなら活動する昼間」「食っちゃ寝はがまんして、意識的に体を動かす」くらいは試してみるとよいかもしれない。


【リンク】いずれも2021年12月28日アクセス


◎中性脂肪学会.

https://tgbm.org/


◎厚生労働省. “第1回 第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会(2021年12月9日開催)”

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22621.html


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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。