当人が悪いわけではない。悪いのは、はしゃぐメディアである。だが、やはりあの結婚発表には、モヤモヤしたものを感じた。小泉進次郎・衆議院議員とフリーアナウンサー・滝川クリステルさんのことだ。確かにふたりとも有名だし、美男美女の組み合わせだ。それでも、官邸でのお披露目が当然視され、「将来のファーストレディー」などという形容が飛び交うと、おいおい、とツッコミを入れたくなる。いつの間に、そういうことになったのかと。


 正直ふたりにはプラスもマイナスも、どちらの感情もない。好いたり嫌ったりするだけの材料を持たないのだ。滝川さんについて浮かぶのは、報道番組で「斜め四十五度」に座っていたことと、五輪のプレゼンで「お・も・て・な・し」というセリフを発したこと、それだけだ。知名度の割に、びっくりするほど情報がない。


 小泉氏も、当選して間もない頃“新人らしからぬ堂々とした話し方”で目を引いたのも今は昔。中堅になってからは、ディフェンスばかり意識して、“堂々とキャッチーに中身の薄いことを言う”印象だ。リスキーな発言は絶対にしない。最近は、もったいぶった物言いをする分だけ鼻につくようになった。


 人気絶大だった元首相を父に持つ血筋、そして俳優のようにハンサムな顔立ち。政治家の資質とは関係ないそうした条件で、“何となくのサラブレッド感”を漂わせることにも限界がある。トップをめざすのなら、それだけの動きをしてほしい。報道によれば、先の参院選の応援行脚では、以前ほど人は集まらず、“選挙の顔”としての神通力にも陰りが見えたらしい。


 今週の週刊文春はこの件で『進次郎に恨み節 NHK看板アナ「何度会っても彼女になれない」』という記事を載せた。先の結婚発表では、「ふたりで外に出るのはこれが2度目」と著名人ならではの極秘交際の苦労が明かされたが、この記事によれば、進次郎氏は自ら「女子アナ好き」を公言し、あらゆる局の女子アナとマンションで合コンをすることで知られていたという。独身同士なら交際は自由だし、「女子アナ」という立場も、もはや実際は社員芸能人。報道人としての職業倫理など、問うだけ野暮である。


 新潮のほうは『「小泉家」も知らない 謎のベールに包まれた「滝川家」の履歴書』。こちらは、北海道出身で武田薬品に勤務した祖父、その娘でフランス留学中出会った男性と結婚した母親などについて丁寧に調べている。ただ、その“ファミリーヒストリー”に特段のドラマやニュース性はなく、むしろ記事の面白さは本筋とは無関係な部分、「祖父は神戸市議、曾祖母は日本の婦人運動の草分け的存在」というWikipediaの記述が事実無根だった、と突き止めたところにある。


 記事によれば、Wikiにはこの祖父と曾祖母が名前入りで書かれていたそうだが、どちらも実在が確認できず、本当の祖父、曾祖母は別の名前だったという。ところが今回の報道で、「あるスポーツ紙」と「さる女性誌」はWikiのガセ情報を、そのまま記事にしてしまったらしい。最近のゴシップメディアのお粗末さが、図らずも暴かれてしまった格好だ。


 念のため、Wikiで滝川さんのページを見てみると、関係する記述はすでに削除されていた。そういったところは素早く、律儀だが、やはり鵜呑みにしてはいけないサイトである。というわけで、ふたりの結婚はまことに喜ばしい慶事であり、間違って“首相夫妻”にさえならなければ、外野からケチをつけるつもりはない。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。