1月9日(日)東京・国立競技場 帝京大27―明治大14
2年ぶりの観戦。今回もラグビー通の知人と準決勝に続いて2週連続の国立詣でと相成った。客の入りは2万5000人だった1月2日と比べてやや増えているように感じたが、ここは世界一狭い客席が迷彩色で塗られているために、見た目はいつも満席。2年前は伝統の早明対決で5万7000人が押し掛けたが、今年はコロナ禍で大声禁止、飲酒持ち込みもご法度。静かなものだった。
試合前に決していた勝敗
試合前の練習風景を観察していた相方がつぶやいた。
「明治のラインアウトが合っていない。全然ダメ」
明大OBの砂村光信氏が10日付のスポニチにこう書いている。
「試合前の練習を見て結果は予測できた。帝京大はSOやCTBがWTBへ長いパスを放る練習をしており、しかも精度が高かった。一方、明大は短いラインで速いパスを練習していたが、全体練習になるとラインが広くなり、ランナーは後方でスピードを緩めて受ける形になっていた。試合でも同じだった」
帝京の試合前練習はいつも気力が充実しており、初めて見た人はそれを見て連覇を実感する。一方、明治の試合前はいつもダラダラとしており、気合が入っていない。これは両校の伝統のようなもので、さして驚かなかった。
しかし、開始5分でその差がハッキリ出てしまう。敵陣深く攻め込んだ帝京大のラインアウト。投げ入れたボールは中央付近まで達するミスだったが、こぼれてバウンドした楕円球に帝京の12番押川がトップスピードで切れ込んでグランディング。集中力の差が早くも表れた。13分、34分にはウイング白國が自在に走って連続トライ。しかし、トライ後のゴールがことごとく決まらず15-0。一方的なゲームにしては追いつける範囲のスコアだった。
ここで前半を折り返していたならば、後半の巻き返しに期待できた明治だったが、ホーンが鳴った後の41分、12番センター広瀬が不用意な飛ばしパスを放ってインターセプトされ、白國がハットトリックの3トライ目。ゴールも決まり20-0。この4トライ目が明治にとって重かった。広瀬は今季、軽率なパスやキックが目立っていた。大学選手権に入ってもそれは変わらず、帝京は事前に分析していたのだろう。このゲームでは決定的なミスと思われる場面がほかにも見られた。まだ2年で才能豊かな選手だが、これだけミスを繰り返していては来季のレギュラーは剝奪ものだ。
試合の入り方が前半のスコアを決めた格好で、攻守ともに帝京が明治を上回った。身体をぶつけ合う競技はファーストコンタクトで優劣が決まると言っても過言ではない。スクラムで心理的優位に立った帝京は、ディフェンスでも前掛かりになってジャッカルを連発。攻撃面ではバックス陣が伝統の素早いパス回しと切れ味鋭いステップで明治を翻弄した。どこにも隙がなく、不発のゴールキックが明治にとってせめてもの救いだった。
判定に最も左右されやすいスポーツ!?
後半は9分に明治が先に得点して20-7と面白くなってきたが、スクラムが崩壊。何度もペナルティを取られて自滅してしまった。27分に帝京の8番奥井がパスダミーを見せながら中央に持ち込み、勝負あり。昨年11月の対抗戦は14-7で僅差だったが今回はその差が広がった。
帝京、早稲田に連敗しながら天理、早稲田、東海と難敵を破って勝ち上がった明治にも勢いはあったが、帝京は準決勝の京都産業大戦の辛勝がいい薬になった。戦術的には帝京のシャローディフェンスに対してハイパントやグラバーキックなどで帝京を後退させることができれば違った展開になったと思われたが、試合中の修正は学生レベルではとても難しい。巡目に回す明治のライン攻撃は読まれており、対抗戦の早明戦同様、攻め手を欠いてズルズルと後ずさり。切り札の11番石田も持ち味を出せなかった。
スクラムは帝京が優勢だったが、主審のジャッジには多少の不満が残る。スクラムの構造的な仕組みと力学は経験者でなければ説明は困難だ。「クラウチ」「バインド」「セット」の3段階で組み合い、真っすぐ押すことが求められているならば、両チームにそのための指導を的確に行うべきだろう。NHKの実況中継で法政大の名フッカーだった坂田正彰氏は試合中、「結果の判定は大事だが、そう(ペナルティ)ならないように運営すべきだ」と指摘した。冷静沈着に解説する坂田氏にしては珍しい物言いだった。
16人が組み合って押し合うスクラムは、タイミングと呼吸が生命線。最初の一押し、ワンプッシュが反則負けになり、反則勝ちになる。ここで勝った者は雄叫びを上げ、押されたものは打ちひしがれる。残酷なルールである。審判の運営方法にも問題はあろうが、戦術が高度化した現代ラグビーにおいて、スクラム一発で試合の帰趨が決まるのは興醒めである。スクラム→ペナルティ→タッチキック→ラインアウト→モール→トライ。帝京、明治ともに得意の得点パターンではあるが、FW一辺倒はそろそろ再考の余地があるのではないか。重量化した大相撲のようになっては面白くない。
ラグビー自体がそもそも主観的な判定に支配されている、とも言える。スローフォワードやノットストレートは主審の見る位置によって大きく変わる。スクラムのペナルティは最たるものだ。この試合はどう転んでも帝京スクラムの優位は動かなかったが、明治の2番が試合後に「最初は上手く組めたが……」などと振り返っていた。そうした摩訶不思議を含めてのスポーツということか。(三)