「標準治療だからどこで治療を受けても同じ」――。


 医師自らがそう語ることも多いが、違和感を持つ患者は少なくない。「名医○○人」「病院ランキング」といった企画が、週刊誌などで人気を集めるのも、その証左だろう。


「標準治療は“並”の治療」といった誤解に基づくケースも多いが、診療時の違和感や不安感が「もっといい医師がいるのではないか」と感じさせる部分もある。


『Dr.おまちの「お医者さま」ウォッチング』は、現役医師の視点で、医師の生態を描いた一冊である。“医師の見極め”の参考書として手に取った。


 危ないのはこんなタイプ。患者の話を聞こうとしない〈唯我独尊型〉。病気の情報が引き出せず、正しい診断ができない。


 逆に〈何でも患者さんの言うなりの医者〉もいる。「薬が欲しい」「点滴して」と言われて不要なのに対応してしまう医者は珍しくない(「営業的に必要」という、こうした医師の“言い分”を聞かされたことがある)。


 見た目がよくてやわらかな物腰で流行っていてもヤブ医者、というケースもある(素人が一瞬で見抜くのは難しそうだ)。


 そもそも、〈記憶力、想像力、推理力、の乏しい人は医者に向かない〉。〈自信過剰、傲慢な人。あまりに楽観的な人〉もしかりである。ビジネスパーソンの仕事ができる・できないの基準とあまり変わらない。しばらく通っているうちにダメな医師がわかってくるかもしれないが、手遅れになったら目も当てられない。


 大学病院や総合病院、診療所といった形態別でも、医師の勤務実態・生態は異なる。


 病院勤務医の激務っぷりはよく知られているところで、「医師の働き方改革」も話題になっているが、〈当直直後の医者なんて、二日酔いの酩酊状態ほどの判断能力で診療行為を行なっているようなもの〉だという。患者にとっては結構危険な状態だ。


  “町医者”はどうか?〈それこそピンキリで、玉石混交というか、とびきりの医者もいれば、危なっかしいヤブもいる〉。かかりつけ医選びは慎重に。


■肩書も学歴もあてにならない


 ちなみに、医師の肩書きだけでは、医療の善し悪しは判断できない。


 教授よりも〈中堅の医者のほうが新しい器具の使用などに精通し、症例もこなして経験値が高い場合が多い〉とか。


 出身大学の難易度はどうか? 著者いわく〈大学の医学教育の実態や、そこの学生の医者としての適性、優秀さとは、あまり関係がないように思われる〉。


 どの医師も難関の医師免許を取得しているし、下位校とされる大学医学部でも昨今は相当偏差値が高い。以前も書いたが、ある大学医学部の元学長が「医者になるのに今ほど高い学力はいらない」と語っていたほどだ。むしろ適性のほうがより大事だろう。


 医師である著者から見ても、〈適正な医療を受けるためには、良い医者かどうかを見極めることが大事だ〉という。ではどう選ぶか?


 かかりつけ医であれば、話を聞いてくれるか否か、定期的な検査の有無、自分との相性(これは個人的には非常に大事だと思う)……、本書には医師ならではの視点で具体的な評価ポイントが紹介されている。これらのポイントを踏まえつつ医師を評価することで、善し悪しが見えてくるはずだ。


 もちろん、どんなにいい医師であっても、適切な情報なしに正しい診断は受けられない。患者の側も、〈症状経過などを細大漏らさず〉伝えるスタンスは必要である。


 余談ながら、医療ものテレビドラマや映画、漫画に関して、本書では1章を割いている。昨今、人気の分野だが、医者の視点での“突っ込み”がなかなか参考になった。やっぱり現実の医療で「私、失敗しないので」と自信満々に言われたら、逆に怖くなる。(鎌)


<書籍データ>

Dr.おまちの「お医者さま」ウォッチング

もののおまち著(言視舎1540円)