1月10日(日)~1月23日(日) 両国体育館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」より)


 関脇御嶽海が3度目の賜杯を手にして、場所後の大関昇進を確実にした。一人横綱の照ノ富士は終盤勝ち急いで負けが混んだ。2大関は途中休場に負け越しといいところがなかったが、曲者力士が補った場所だった。


辛抱した御嶽海


 中盤になると必ず小休止に入る万年大関候補が、今回は違った。しかし、中学時代からのライバル北勝富士(西前頭4枚目)と当たった10日目は好敵手の気迫に圧倒された。解説の舞の海氏が「相撲人生が終わってもいいぐらいの気持ちが出ていた」と北勝富士を絶賛。12日目の阿武咲(東前頭5枚目)戦は横綱とのマッチレースがチラついたのか、緊張して足が前に出ない。


 この2番を除けば寄り切り、押し出しの万全相撲を取り切った。御嶽海は相手の得意技を封じて前に出るのが上手い。押しているだけに見えるが、相手の利き腕を押っ付けたり半身になって体を預けたりして圧力をかける。このあたりが押し相撲の枠に収まらない実力者の所以であり、親方連中の高評価に繋がっている。にわかファンでは理解しにくい。


(10日目/御嶽海―北勝富士)


 照ノ富士は6日目に玉鷲(東前頭3枚目)に負けたが、10勝1敗と場所を引っ張っていた。12日目の明生(東小結)戦は、いつもなら一呼吸置いて慎重に寄り切るところを、やや強引に押し出そうとしてはたきを食らい、勢い余って土俵下に落下。その衝撃が右ひざに残り最終盤に連敗したが、自らの昇進と白鵬の引退を受けての1年は緊張の連続だっただけに責められない。


 平常心と万全の体調を15日間も維持するのは並大抵ではない。プロ野球は1カード3試合で最も連戦が続いても10日前後。相撲は狭い土俵のなかで一瞬の勝負。プロである以上当然ではあるが、御嶽海のように1日、2日気が抜けたとしても不思議ではない。


(6日目/照ノ富士―玉鷲)


悲報! 正代、横綱との対戦なし


 貴景勝が4日目から休場。3勝1敗と踏ん張っていた正代はここから3連敗し13日目で負け越しが決まった。1人大関が1人横綱と対戦せずに場所を終えるのは、よほどのことである。土俵際に追い詰められると正代には「残り腰」がない。俵に足がかかった時点で、いつもギブアップだ。先場所、腰高でアゴを出す正代の悪癖を「皆さん、胸を出して腰高になるのがダメなんだと言いますが、そこが正代のいいところ。その体勢からでも十分力は出せるんです」と、必死に擁護した錣山親方(元関脇寺尾)の温情をなんとする?


 尾車親方(元大関琴風)は、「大関の先輩として『稽古が足りない』と、はっきり言わせてもらう」(1月18日付、スポーツ報知)と斬って捨てた。7日目、隠岐の海(東前頭4枚目)にあっさり寄り切られたあとの負け残り。悔しさが見られない。情けなやである。


(7日目/負け残りの大関正代)


次の大関候補


 御嶽海の昇進が確定、脆弱な2大関の後継としてもうひとり欲しい状況である。筆頭にのし上がってきたのは12勝で「準優勝」の阿炎(西前頭6枚目)か。お灸を据えられてカムバック後は改心して相撲態度もよくなってきた。威力のある諸手突きのほかに、もうひとつ得意技を身に付けてほしい。


 2番手は相撲巧者の豊昇龍(東前頭6枚目)。今場所11勝を挙げて波に乗っている。引退した白鵬が言葉を濁して「今年中に大関になる」と評価しているのは、このモンゴルの後輩だろう。四つでも突っ張っても取れる技量の広さがある。あと一回り大きくなれば、その上も視野に入って来る。


「次の次」では11勝で敢闘賞の琴ノ若(東前頭14枚目)と、負け越して次は十両に落ちるが大鵬の孫・王鵬(東前頭18枚目)。毛並みのよさでは抜きんでている。最近は、宇良や翔猿、若隆景といった軽量小兵の活躍が目立つが、やはり正統派の力士がいてこその脇役である。


最後の実況、藤井アナ


 余談を二席。12日目の放送で藤井康生アナウンサーが最後の実況を終えた。解説でコンビを組む北の富士氏が郷里の北海道から上野駅に降り立ったときの話に触れた。脇道に逸れることが多い人だが、この日はいつにも増して長舌。聞けば、65歳の誕生日を迎え定年延長の再雇用期間が終了したという。吉田賢アナ(61歳)と双璧をなす名物実況で、茶の間の人気が高かった。


 この両人はインタビューも聞き上手だ。今しがた取り組みを終えて息が上がっている関取に向かって、「どんなところがよかったか」「どんなふうに取ろうと考えていたか」などと「どんな」を連発するアナが少なくない。力士は通常、呼吸を止めて立ち向かう。たとえ数秒で勝敗が決しても頭の中は酸素不足で真っ白だから「どんな」と考えさせる質問は酷なのだ。藤井・吉田アナは、そのあたりを配慮する。「先に上手(うわて)を取っていきました」「張り手が効きましたね」などと力士が答えやすいように誘導する。


 相撲協会は定年が65歳で再雇用期間が5年。本人さえよければあと5年、協会に倣って仕事を続けてほしいものだが、藤井氏の後継は三瓶宏志アナ(52歳)を推す。この人は昨年、五輪の柔道実況で秀逸の実況を聞かせてくれた。相撲知識も豊富で話の「間合い」が抜群である。


 2日目。こちらの目が汚れる観客が土俵下の最前列にいた。中京地区で不正なリコール運動に関与したとの疑惑がある御仁だ。誰の目にも目立ちたい一心の服装であることは疑いようがない。ド派手衣装の観客は以前、林家ペー・パー子夫妻を見かけたことはあるが、彼らは芸人。目立つのが仕事である。それにこんな目の前ではなかった。


 この男もそのジャンルと思えば怒ることもないが、中継カメラのアングルに収まり、いやでも目に入る。お茶の間視聴者のはた迷惑を理解しない、了見知らずの度し難い愚か者である。(三)


(2日目/度し難い愚か者)