新型コロナ騒ぎの最中、明るいニュースとして伝えられているのが、台湾の半導体メーカー、台湾積体電路製造(TSMC)の工場を建設話である。同社はソニーの子会社とともに8000億円を投下し熊本県に工場を建設する計画で、政府は日本の半導体産業の復活のために、このTSMCの工場建設費用の半分に相当する4000億円を出すと発表。地元は大歓迎。マスコミの間でも好意的な声が湧きあがった。


 日本の半導体の沈滞ぶりが大きく報じられるようになったのは、昨年6月に経済産業省が発表した「日本の半導体産業の現状」というレポートからである。それによれば、日本の半導体産業は1988年に世界半導体市場の50.3%を占め、世界のトップだったが、それをピークに以後、シェアは下がり続け、2020年には日本の半導体シェアは10%を切り、2030年には0%になる、と記している。


 世界一だった1988年はちょうどバブルが頂点に達する直前である。そのころの半導体はD―RAMと呼ぶ記憶媒体が主流だった。D―RAMでは、わが経産省は産業界を集めて半導体の製造の旗振りを演じたのが功を奏し、米国メーカーは勝ち目がないとD―RAMから撤退し、CPU(中央演算装置)に軸足を移したほどだ。


 が、その後、日本の半導体産業は衰退の一途を辿っている。実際、パナソニックは半導体事業を売却し、東芝は原子力発電事業の大穴から生き延びるために半導体部門を分離、キオクシアと改名してファンドに売却……と半導体部門は縮小している。唯一、半導体関連でまだ日本が強いのは、半導体に使うウエハーなどの素材と東京エレクトロンに代表される製造装置である。落ち込んだのは半導体製造なのである。


 この経産省のレポートを受けて岸田文雄首相は、日の丸半導体の復活のために半導体産業支援策をまとめた。それは「経済安全保障」の名の下だが、その第1弾として登場したのがTSCMへの4000億円の支援だ。国策事業に加えて、キャベツ畑が最先端の事業に変貌し、多くの雇用が生まれると、地元が沸き立つのも無理はない。


 しかし、こうした政策は政府が思い描くように上手くいくのだろうか。記憶媒体であるD―RAMは大量生産で安く作る方法が通用して世界一になったが、現在の半導体事情のなかで日本の半導体復活に役立つのだろうか。


 日本の半導体は主に家電メーカーの一部門だった。日本が世界一だった時代でも半導体は1000億円を超える資金が必要で、しかも好不況の波が大きかった。経産省が大手家電メーカーにD―RAMをつくらせたのが功を奏したのだ。


 だが、日本のテレビや冷蔵庫などが世界市場を席巻している間はいいが、国内はバブル不況になり、海外でもテレビは韓国、中国メーカーに市場を奪われ、パソコンは米国、中国、韓国メーカーに取って代わられ、スマートフォンでは出遅れた。


 世界で家電や電子製品が売れなくなると、家電メーカーにとって半導体製造部門が重荷になる。結果、日本の半導体は世界シェアが落ち込む一方になったのではなかろうか。


 さらに、半導体の進歩は激しい。日本の家電メーカーが自社製品向けメモリーの半導体に拘っているうちに、世界の市場は需要がCPUからシステムLSI(集積回路)に、さらにプロセッサーを含めたロジック半導体へと移っていたのだ。トヨタやホンダ、日産などの自動車産業を除けば、世界では家電・電子メーカーは半導体の設計までで、半導体そのものはTSMCのような受託製造会社につくらせる体制になっていたのである。


 スマホがそのいい例かもしれない。家電メーカーが半導体まで一貫生産していたのが裏目に出たと言えなくもない。家電製品が世界市場で韓国や中国製品に押され、ジリ貧に陥り規模が縮小するにつれ半導体には力が入らないし、進歩も遅れた。


 TSMCは世界トップの受託製造会社である。世界中の大手家電メーカーや電子メーカーから受注して委託先向けの半導体をつくっている。熊本の工場で製造した半導体をどこに売るのか。世界に通用しているのは任天堂とソニーのゲーム機だから、任天堂やソニー向けに使われるのだろうか。さもなければ、アメリカに輸出することになるのだろう。


 マスコミも経産省も、メモリーもロジック半導体もセンサーも一括りに「半導体」と称しているから中身が見えにくくなる。今、半導体の主流はロジック半導体だと聞く。それを使う家電・電子メーカーを育てなければ、日本に半導体メーカーは育たない。


 日本製品で世界に売れるのはトヨタやホンダ、日産などの自動車とゲーム機くらいである。アップルのスマホのように家電商品、電子製品が世界に売れるようにならないと、日本の半導体産業は復活しないのではなかろうか。


 TSMCの誘致も結構だが、岸田首相が力を入れるべきなのは半導体メーカーの誘致ではなく、家電メーカー、パソコンメーカーが世界に通用する製品を作り出せるようにすることではなかろうか。製品メーカーが育たなければ、すでに中心になっているロジック半導体が育たない。さもなければ、アッと思うような製品を手掛けるベンチャー企業の支援することだろう。(常)