政府は、新型コロナウイルス感染症対策の「まん延防止等重点措置」を適用していた31都道府県のうち、東京や大阪など18都道府県は3月21日まで再延長し、広島や福岡など13県は解除した。毎日の新規感染者数をみれば、2月下旬がピークなようで、徐々に感染者数が減少しているが、欧米のように急に減少に転じていない。「高止まりしている」という人もいるから18都道府県はまん延防止措置を再延長したのも当然だろう。


 それにしても、31都道府県という数には驚く。日本は47都道府県だ。この少し前には沖縄県、山口県などがまん延防止の対象になっていたから、日本中がまん延防止措置中だ、と言っても差し支えない。適用されていない県の人たちは「おらが県は人が少ないひどい田舎だなぁ」などと実感していたのではなかろうか、なんて不謹慎な空想をしてしまう。


 今、流行しているのはオミクロン株だが、このオミクロン株が流行していた1月から2月ごろに盛んになったのが「ウィズコロナ」説だ。オミクロン株の感染者には10代から30代の若い人が多いが、重症化しにくいことから、まん延防止措置の解除をすべきだという主張だ。とくに米英でマスク着用義務を廃止し、飲食店の営業時間などの制限を解除したことを持ち出していた。


 フジテレビや日本テレビで目立ったことから、保守派に多い意見なのだな、と察しが付く。週刊誌でも、まん延防止措置を解除して自由にすべきだ、という記事も出ていた。日本テレビでは京都大学の准教授が強硬に主張していたのが印象的だった。


 その後、大流行したためか、最近は聞かなくなったが、彼らは米国では1日に新規感染者が50万人にのぼり、英国でも20万人を超え、日本と比べて格段に多いにもかかわらず、制限を完全に解除し、フランスやドイツでも解除に向かっていることを規制不要の理由に上げていた。そもそも新型コロナはインフルエンザと同様に規制や制限などせずに経済を動かすべきだ、という主張である。


 聞いていると、なるほどと思えるのだが、彼らの説には残念ながら基本的なものが抜け落ちている。ひとつは欧米と日本では家族の状況がまるで違う、ということであり、もうひとつはブースター接種の進み具合が違うという点だ。


 家族の状況というのは、欧米では子供たちは18歳になると親から離れ、アパートで自分の生活をするようになる。いわば巣立ちだ。例えば、知人のドイツ人の家を訪れたとき、母と娘が口喧嘩していた。母親は「うちの娘は19歳にもなるのに、まだ家にいる」と叱り、娘のほうは「そんなこと言ったって、未だお金が足りないのだからしょうがないでしょ」と口答えしていたのである。


 18歳で大学に入ると大概、アパートを借りて独立するそうだ。アパート代はアルバイトで稼ぐらしいが、その代わり大学の授業料は格段に安いし、日本とは違い、地方分権が進んでいるせいか、アパート代もかなり安いらしい。


 それに引き換え、日本では地方出身者を除けば、ほとんどが親元から大学に通っている。就職しても同様だ。親のほうも「なにもアパートを借りなくても家から通学、通勤したほうがおカネがかからないでしょ」なんて同居を勧める。なかには40歳を過ぎても親と同居している人もいるし、親の年金を当てにして同居している人もいるのだ。


 欧米では18歳で巣立ちするから親子が疎遠になるということはない。もうひとり、親しい人にハンガリー系ドイツ人がいる。彼の父は音楽家で旧ソ連が侵攻したハンガリー動乱のとき、ドイツに逃れてきた人で、ミュンヘン交響楽団のチェロ奏者だった。知人は3歳からバイオリンの練習をさせられるのを嫌って、家を飛び出し、世界漫遊をしていた。


 たまたま東京でドイツ語の講師をしていたことで知り合ったのだが、その後、ドイツに帰り大学に入学していたときにアパートを訪ね再会した。その日は金曜日だったが、彼に会うとすぐに、「これから郊外に住む両親に会いに行く。電話してあるから一緒に来ないか」というので同道し、彼の両親が住む家に着くと、彼の両親からハンガリー料理だというウサギ肉の煮付けをご馳走になった。彼によれば、息子や娘は大体、毎週金曜日の夕方、両親の自宅に行き、家族で過ごし日曜日にアパートに帰る、という。


 こんな具合に欧米では子供は18歳になると親元を離れて生活し、週末になると両親を訪ね、家族団欒になるという生活なのだ。日本では18歳で成人になることで法的な問題をどうすべきか、などといろいろ面倒だが、欧米では18歳で成人になるのが容易なのも、そんな事情があるようだ。


 ともかく、こういう家族構成だから、欧米では若い人が新型コロナに感染しても、アパートで苦しめば、あるいは、夫婦でのたうちまわれば、いや、自宅療養することになり、高齢の両親を感染させることがない。若い人は体力もあり、自宅療養で回復に向かうことができる。


 ところが、日本でまん延防止措置解除派の人たちは、欧米を参考にするとき、「家族構成」という基本的な条件が抜け落ちている。日本でオミクロン株の新規感染者がピークアウトしたと思えるのに、高止まりしたままなのも、重症者数が減らず、死亡者数が増え続けているのも、日本の家族状況が影響しているように思える。


 昨今の新聞報道を見ても、感染者には若い人と並んで、老人ホームや老健施設でのクラスターが並んでいる。沖縄の例をみると、米軍基地で感染者が発生し、米軍人が基地外の飲食店を介して感染が広がったことが見て取れる。すると、飲食店がいくら感染防止対策を行なっても、感染した客が他の客にうつすのだから飲食店は気の毒ながら防ぎようがない。


 結果、若い人が飲食店で感染し、家に持ち帰り、家族、とりわけ高齢の両親に感染させる、あるいは、感染しても無症状の見舞いに来た家族が、また感染した両親が勤務する高齢者施設で入居者に感染させ、クラスター発生に繋がる……。これは家族構成に基づくものだからまん延防止措置を続け、沈静化するのを待つしかないだろう。


 とかく、オミクロン株の拡大に対して規制反対を唱える人たちは部分的なところだけを見て判断しがちだ。もちろん、こうした手法は人々の耳に受け入れやすい。だが、この耳に受け入れやすいという手法はナチスドイツの宣伝相だったゲッペルスの宣伝手法を思い起こす。


 もうひとつは、ワクチンの進み具合だ。英国ではブースター接種者が70%を超え、ドイツ、フランスでも60%に達し、接種率が低い米国でも50%近くに達しているのに、日本では20%程度なのだ。この大きな違いを無視している。


 ワクチンの遅れを言えば「政府は、自治体のなかには準備ができていないところがあるため、遅れた」と説明する。さすが官僚だ。実にうまい説明をする、と感じ入った。ちなみに、私が住む市から1月前半に送られた広報紙を見ると、「医療関係従事者、基礎疾患をもつ人、介護・療養施設に入所されている方の3回目の接種券は12月中旬までに発送済み。65歳以上の高齢者には政府からワクチンがいつ、どのくらいの量が届くかの通知があり次第、連絡します」とある。


「ワクチンが届いていないので」と言わず、「通知があり次第」と、書くところが、いかにも自治体らしい。ちなみに、近隣の市に聞いてみると、みな同様だった。ワクチンが届いていないのだ。それどころか、いつ、どのくらいの量が届けられるのかもわからないのである。要は政府がワクチンを入手していないのだ。それを隠すために政府は「自治体のなかには準備ができていないところがあるから」と説明するのだ。


 昔から「物は言いよう」というが、確かに1600もの自治体のなかにはのんびりして準備ができていない市町村が1つや2つはあるだろう。それをワクチンが進まない理由にしてしまう。フェイクニュースが「流行」しているとはいうものの、こういう説明は怒りを通り越して、さすが優秀な官僚だ、と感心するしかない。(常)