18年4月に一般社団法人日本専門医機構(以下、専門医機構)による新専門医制度の運用が開始され、21年秋には第1期の「基本領域専門医」が誕生した。19ある基本領域の19番目が「総合診療」だ。
22年2月26~27日に開催された第24回日本病院総合診療医学会学術総会(会長:足立智英 東京都済生会中央病院 総合診療内科 部長)では、「総合診療専門医」と、今後サブスペシャルティ領域として専門医機構の認定を見込む「病院総合診療専門医」にも関心が集まった。シンポジウム3『総合診療専門研修プログラムについて本音で語ろう』では、医学生や研修医、総合診療専門医が、現実的な経験や不安、将来へのビジョンを熱く語り合った。彼らの本音を理解するために、まずは背景を整理したい。
■紆余曲折を経た新専門医制度
わが国最初の専門医認定は1962年の日本麻酔下指導医制度だという。1980年代以降は日本医学会加盟学会を中心に、学会による専門医認定の在り方が協議されてきた。今世紀に入り、02年に広告規制が緩和され、医療機関のサイト等への専門医に関する広告が可能になると、専門医制度の種類が増し、細分化が進んだ。専門医の質の担保や領域間の統一性を求める声が上がり、11年に厚労省が「専門医の在り方に関する検討会」を立ち上げた。13年の同検討会報告書では、「国民の視点に立った上で、育成される側のキャリア形成支援も重視する」「専門家による自律性を基盤とする」との基本的な考え方が示された。また、中立的な第三者機関を設立し、専門医の認定と養成、プログラムの評価・認定を行うべきとされ、14年の専門医機構発足につながった。「総合診療専門医」が基本領域の専門医の一つとして加えられたのも、このときである。
ただ、その後の道のりは平坦ではなかった。「医師の地域偏在」「症例数や指導医数が多い都市部の大病院に専攻医が集中することによる地域医療への悪影響」などへの懸念が示され、16年には日本医師会と四病院団体協議会が専門医機構に、17年には全国市長会が厚労省に要望書を提出するなど、新専門医制度の拙速な実施にブレーキがかかった。この間の経緯は『令和2年(2020年)度版 日本専門医制度概報』に掲載された「わが国の専門医制度の沿革」や本誌連載『医政羅針盤』をご参照いただきたい(記事末にリンク)。
■専門医研修とライフイベントの両立は
現在の初期臨床研修制度は04年に導入された。国家試験に合格し医師免許を取得した後に、「研修医」として大学病院や中規模以上の厚生労働大臣指定病院で2年間の初期臨床研修を行うことが、義務付けられている。また、18年開始の新専門医制度では、専門医研修プログラムに登録・採用されて研修中の医師を「専攻医」と呼ぶ。
専門医機構は「専門医」を「それぞれの診療領域における適切な教育を受けて、十分な知識・経験を持ち、患者から信頼される標準的な医療を提供できるとともに、先端的な医療を理解し情報を提供できる医師」と定義している。
ちなみに、19年2月に実施された医師国家試験の合格者数は9,029人、19年度の臨床研修医の採用実績は8,986人。一方、21年度の専攻医採用数は9,183人。初期臨床研修を修了していれば、「基本領域専門医」取得のための研修に応募できるので、専攻医は新人医師だけとは限らない。とはいえ、現在では初期臨床研修終了後の医師のほとんどが、3~4年にわたる専門医研修を開始している。
18~21年度の「専攻医」採用は各年8,000~9,000人のうち、総合診療領域は2%前後。18年度に184人が研修を開始し、20年度は84人が修了。21年に83人が専門医試験を受験し、76人が晴れて初代「総合診療専門医」となった。22年度の専攻医採用では、最多の内科が全体の3割を占める。次いで、多い順に外科、整形外科、精神科、小児科と続く。総合診療は19領域中15番目で、耳鼻咽喉科、形成外科の数に近い。
新卒の医師が順調に研修をこなしていった場合でも、「基本領域専門医」を取得する頃には若くとも30歳前後となり、さまざまなライフイベントを経験する人が少なくない。そこで、全基本領域共通で、海外留学、妊娠・出産・育児、病気療養、介護などのために研修継続が困難な場合、申請による中断も可能となっている。また、新専門医制度は、「基本領域専門医」を取得した上で、その領域と連続性・関連性が明確なサブスペシャルティ(サブスペ)領域を選択できる2段階制だが、基本領域とサブスペ領域の経験症例の重複カウントを可能にするなどの「連動研修」の仕組みも考えられている。
サブスペ認定の基本的な考え方は、18年末に専門医機構の理事会で承認され、翌19年2月から資格認定を希望する90学会から提出されたレビューシートに基づく確認・審査が開始された。ところが直後の厚労省・医道審議会医師分科会で、国民からわかりにくいとの指摘や、乱立への懸念が示された。第2期の研修が始まる中、20年2~3月に開催された厚労省「サブスペシャルティ領域の在り方に関するWG」を経て、連動研修可能なサブスペ領域は23から15に絞り込まれた。
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■毛色が異なるサブスペの位置づけ
研修期間3年の基本領域は20年度で修了するため、21年度からサブスペ領域の研修に入る予定だったが、COVID-19が終息せず、開始は1年程度延期に。各領域が学会の制度として実施しているサブスペ領域の研修実績については、専門医機構が認定した後に遡及して追認する方針となった。総合診療領域では、日本プライマリ・ケア連合学会の「新・家庭医療専門医」と日本病院総合診療医学会の「病院総合診療専門医」が追認を見込んでいる。
「新・家庭医療専門医」は「国際標準の高い専門性と学術性を備えた家庭医」の育成を目指し、世界家庭医機構(WONCA)の認定を取得済みだ。一方、「病院総合診療専門医」は、病院で高い総合診療能力を発揮する病院総合医の育成を目指す。「10の医師像」として求められる要素を掲げている。臨床だけでなく、病院管理、教育、研究も重視していることが特徴だ。
【リンク】いずれも2022年3月24日アクセス
◎日本専門医機構. “令和2年度版 日本専門医制度概報告.” →p.98~111に「わが国の専門医制度の沿革」
https://jmsb.or.jp/wp-content/uploads/2021/03/gaiho_2020.pdf
◎日本病院総合診療医学会
◎日本プライマリ・ケア連合学会. “新・家庭医療専門医制度.”
https://www.shin-kateiiryo.primary-care.or.jp/
医薬経済WEB連載 医政羅針盤
著者:村上正泰 山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座教授
掲載日 |
タイトル |
リンク |
14年10月15日 |
「総合診療医」の役割に見る同床異夢 |
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15年9月1日 |
新専門医制度で変化する医療提供体制 |
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16年7月15日 |
混迷の度を深める専門医制度改革の行方 |
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17年8月1日 |
医局制度と新専門医制度改革 |
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19年4月15日 |
混乱続く専門医制度と人材育成の問題 |
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本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。