18年4月に新専門医制度の運用が開始され、21年秋には第1期の「基本領域専門医」が誕生した。こうした変革期に総合診療を目指す若手は何を感じ、考えているのか。第24回日本病院総合診療医学会学術総会(22年2月26~27日開催)のシンポジウム3『総合診療専門研修プログラムについて本音で語ろう』では、医学生や若手医師が経験や不安、将来へのビジョンを熱く語り合った(発表は実名)。今回は、彼らの実際の声を紹介したい。
■新しいことへの挑戦に魅力
【Aさん/埼玉医科大学医学部医学科5年生/女性】
志望動機:きっかけは、学内の医学研究サークル。実際に総合診療の道に進む先輩がおり、学内外の総合診療医を招いて勉強する機会もあった。大学病院での実習でたびたび目にした患者さんの困りごとを解決し得る総合診療医は、自分の理想とする医師の在り方に近いとの思いを強めた。
不安と提案:①総合診療専門医のみの取得で大丈夫か、②日頃の実習で「総合診療志望」と言うと特に内科医からの風当たりが強い、③総合診療専攻医・専門医の先輩が少なく他科に比べると直接情報を得る機会が少ないなどだ。不安解消には、総合診療専門研修の強みを今より分かりやすい形にし、総合診療専攻医・専門医から直接話を聞く機会を増やすことが役立つと思う。
ひと言:総合診療専攻医・専門医は、(病院)マネジメントや新しいことへの挑戦にも意欲的な人が多い。不安がないわけではないが、新しいプログラムだからこその魅力もあると感じている。
■医学は人を理解し幸せにするための手段
【Bさん/順天堂大学付属練馬病院・初期研修医/男性】
志望動機:中学~高校時代に読売新聞のジュニアプレス(記者団)に所属。多くの人に接する機会を得て、「自分らしく生きている人は輝いている」と感じ、人の生きがいや幸せを健康の側面から支えられる医師を志した。初期研修で総合診療科を回ってみると、医学と他の分野を融合させる意識を自然に持っている医師が多かった。例えば、スポーツ医学の講座、性感染症の啓蒙へのアプリ活用、医学教育へのVR導入に取り組む医師がいた。ある医師の「総合診療科は健康に関することなら、文化的なこと、個人的な生活習慣・思考まで、どんなことでも学問の対象になり得る」が強く印象に残った。医療の「医学でない部分」をも専門的な学問領域として含む総合診療科に魅力を感じ、進路を決定した。
今後のキャリアパス:まず総合診療科専門医プログラムを専攻。専門医取得後に地域枠の義務年限4年半で僻地勤務し家庭医療の経験を積む。将来は僻地に限らず、地域医療や家庭医療を実践したい。
不安:①他科の医師に診療科特性が他科に十分伝わっていない。②総合診療科で具体的なキャリアモデルを見つけにくい。自分のやりたいことを明確にしておかないと器用貧乏になってしまうのでは。③僻地研修のハードルが高い。結婚・出産・パートナーの勤務地などを考え、総合診療科そのものを避ける人もいる。④総合診療科専門医のプログラムで、必要な知識・技術を得られる研修環境が整っているか。
ひと言:医学を通じて他人の幸せに寄与できる存在になりたいという気持ちは変わっていない。この場を通じて、総合診療医としてのキャリアや、診療科としての魅力を共有したい。
【Cさん/藤田医科大学総合診療プログラム・専攻医/男性】
志望動機:医学部に入学したとき、医師である祖父から「困っている人がいたらさっと手を差し伸べられるような優しい医者になりなさい」と言われ、自分の理想としてきた。一方、学生実習や初期臨床研修で、血糖コントロールの悪い糖尿病患者が医者にひどく怒られている姿や、夜間に血圧が高いことを心配して救急外来を自身した患者が邪険に扱われる姿を見た。病気になったのはその人が全て悪いのか、医師にとって都合が悪い患者は邪険に扱われて当然なのか、と疑問を抱いた。
そこで、改めて総合診療や家庭医療の「Bio-Psycho-Socialモデル」※1や「SDH(social determinants of health)」※2をすごい!と感じた。専攻にあたっては、内科か総合診療科か迷ったが、こうした考え方を持つ医師に囲まれて研修したいという思いがあり、複数のプログラムを見学後、藤田総診にした。
※1 患者を医学的・生物学的側面だけでなく、心理・社会的側面からも包括的に捉えるモデル。
※2 病気の発症は、その人の生い立ちや経済状況などにも左右され、本人ではどうしようもない要素がある。
不安:基本領域専門医の研修の領域選択にあたって、内科のプログラムに入らないと急性期の勉強が満足にできないのではないか、という迷いはあった。現在、不安はあまりない。
専攻医としての経験:これまでの2年間で、急性期病棟から救急外来、在宅、緩和まで幅広く研修し、多彩な診療の場で働く能力を身につけることができ、非常に満足度が高い。総合診療科として研修することで「患者さんを選ばない」スタンスが培われた。専攻医が自らの資質・能力の取得過程を振り返って記録するポートフォリオ(経験省察研修録)を通じて、医師としてだけでなく、人としても成長できた。
ひと言:私見ではあるが、他の専門科は「自分ができること」を患者の治療に生かしていく。一方、総合診療科は「自分に求められていること」つまり「患者のニーズ」をベースにしている。ニーズは時代や地域によって変わる。総合診療医は、問題解決のためであれば、新しい分野を学ぶことを厭わず、むしろ楽しんでいるように感じる。総合診療を学び、実践することが自分自身の人間としての成長につながっている実感がある。
■臨床研究もできるバランスのよい医師に
【Dさん/千葉大学医学部附属病院総合診療科・専攻医/男性】
志望動機:医学部4年の研究期間で総合診療科を選択したこと。直接患者(大学病院201人、診療所268人)に聞き取りアンケート調査を実施し、何を期待して病院を受診するかを聞いた。その結果から整理した大学病院総合診療科の役割は、ひとりの人間を総合的に診るために適切な診断技能を持った上で、多様な愁訴に対応すること。診療所の役割は、日常の健康問題について気軽に相談できる、身近で信頼できる「かかりつけ医」機能だった。
不安と提案:①新専門医制度の1期生で、ダブルボード可能かなど制度自体も未確定要素が多い段階で開始した。②専門基本領域を総合診療と内科のどちらにすべきか。③僻地研修が6ヵ月間、地域により1年間義務付けられている。→1期生だからパイオニアになれると前向きに捉えることにした。
不安解消には、制度自体のブラッシュアップ、専攻医目線の意見の積極的な吸い上げ、研修に関わる説明動画の充実、僻地・小児科・救急研修の充実、日本専門医機構サイトにおける総合診療専門医情報の充実などが役立つと思う。
専攻医としての経験:大学の総合診療科で臨床診断医としての優れた診断能力を醸成する研修を行うとともに、千葉県の多様なセッティングや連携施設でバランスのよい総合診療研修を行っている。
研修施設選択の決め手は、メンタリングや指導体制・連携施設が充実しているか、自分のアイデンティティ確立・キャリアアップにつながるか、若手が活躍しているか、多様な背景の医師がいるかなどだ。
ひと言:バランスのよい「総合診療医」「臨床診断医」として成長していきたい。専門医と医学博士を取得し、臨床研究(原著論文、症例報告等)にも取り組み、将来は医学教育や学会活動にも貢献したい。
■エールを送りたい若手たち
このシンポジウムで印象的だったのは、新専門医制度構築が迷走し、COVID-19のあおりを受けてサブスペ領域の確定が遅れる中でも、総合診療を目指す若手医師が、自分なりに理想の医師像を掲げ、そのために必要な行動を前向きに実践していたことだ。司会の長野広之氏(京都大学大学院医学研究科医療経済学分野・博士課程)や宮上泰樹氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院・総合診療科)は、新専門医制度開始以前に総合診療に携わり、他科から“ディスられ”がちな環境を乗り越えてきた世代である。シンポジウムの準備のために、打ち合わせを重ねるたびに、むしろ若手の姿勢から影響を受け、皆で頑張っていこうというポジティブな気持ちになった、と嬉しそうだった。
総合診療医といえば、人によっては09~17年にNHKで放送された『総合診療医ドクターG』を思い出すかもしれない。患者の症状・行動・環境などから臨床推論に挑む研修医に対し、ベテラン医師がヒントを与えながら診断に導く「謎解き」的医学バラエティだった。これまで現場で蓄積されてきた経験や学生のニーズをもとに研修制度やプログラムがブラッシュアップされ、こうした少数のスーパードクターだけに頼らない総合診療が根付くことを期待したい。
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本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。