3月13日(日)~3月27日(日) 大阪府立体育館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」より)


 最強横綱が6日目に休場し、混戦模様になった。期待の新大関が後半に失速して優勝争いが混とん。最後は地力を付けた新関脇が決定戦で初優勝とドラマチックな結末に館内が湧いた。


イラつくカド番大関、互助会相撲で同僚をアシスト

 

 貴景勝は6勝2敗で迎えた9日目、相撲巧者の遠藤(西前頭4枚目)と対戦した。遠藤はじらすように立ち合い大関との間合いを外す。番付上位の大関はこれを快く思わなかったのか、突っ張り合いを仕掛けて何度も張り手を食らわした。年長の遠藤も負けずに応戦してにらみ合いに。大関の懐に入ろうとする遠藤と、離れて押したい貴景勝。今場所中盤で一番の熱戦だったが、技では一枚上の遠藤が大関の打った小手投げに体を預けて寄り倒した。


<9日目/貴景勝―遠藤>


 今場所の貴景勝は、感情を露わにすることが目に付いた。この一番でも興奮して遠藤にビンタを浴びせた。貴景勝はリーチが短く張り手は有効とは言い難い。押し一辺倒の大関はテクニシャンの遠藤に嫉妬したのか。いつも不機嫌そうな顔をしている割に冷静なタイプだが、この日はイライラしていた。


 正代については今さら話すこともない。慕っていた師匠がコロナ禍で麻雀荘に入りびたっていたのが露見し、部屋を去ったのが不調の一因との報道があった。しかし、看板力士である大関は、所属部屋だけでなく角界全体を背負って土俵を務めなければならない。二言目には「モチベーション」と正代はこぼすが、的外れで恥ずかしい。大関としての責任感が希薄だから、こんな発言になるのだ。怪我を隠して取っているのでなければ、初日から全力で土俵を務めなければいけない。


 貴景勝も情けない。12日目の正代戦は100%互助会相撲だった。前日に勝ち越してカド番を脱出し、同じ境遇の正代に星を献上。立ち合いから正代が一方的に押して、正に電車道。貴景勝は脇がガラガラで「押してください」と万歳していた。弱い大関を2人も揃える必要はない。こんな相撲を取っていると大関の重みはなくなる。


息切れした新大関、期待を裏切る

 

 御嶽海は初日から腰が割れて万全の内容だった。土俵上での所作が今までと全然違う。醸し出す雰囲気が別物に見えた。しかし、5日目に早くもその威厳が失われる。霧馬山(東前頭4枚目)戦。立ち合い踏み込んで一気に土俵際まで押し込んだが、霧馬山が頭を付けて寄り切り。今場所も御嶽海は終盤に集中力を欠いて、いつもの気分屋に戻ってしまった。


 10日目に大学時代からのライバル北勝富士(東前頭6枚目)に上手く取られて2敗目。12日目は高安(東前頭7枚目)に引き付けられて3敗目。14日目は新鋭の琴ノ若(西前頭6枚目)戦。右に少し変化した琴ノ若に右下手を取られてそのまま土俵を割った。「なす術なし」という感じで優勝戦線から脱落し、場内から溜め息が漏れた。ここで我慢すれば、来場所は横綱の挑戦権もあっただけに、もったいなかった。


<14日目/琴ノ若に敗れた御嶽海>


 4敗はすべて同じ内容。回しをガッチリ取られると身動きできなくなり、ほぼ無抵抗のまま力なく敗れ去る。こういう脆さは押し相撲の典型だが、相手の長所を消すのが上手い大関だけに、ほかに手はあるはず。御嶽海はどんな路線を歩んでいこうとしているのか。押しに磨きをかけるか、四つ相撲に対処できる技を新たに会得するか。明確な方針を決めるべきである。


筆頭候補に躍り出た若隆景、追う琴ノ若、豊昇龍

 

 昨年までは隆の勝、霧馬山、阿炎あたりが大関候補だったが、今年は若隆景、豊昇龍、琴ノ若の3人が競うと見る。とくに初優勝した若隆景は目を見張るほどの成長ぶりを見せて、文字通り今場所の立役者に躍り出た。


 近年は大関候補になると、立ち合いの変化や張り手、かち上げなどを使うのは憚れる傾向にある。若隆景は小兵の部類で飛び道具を使うように見えるが、正攻法を押し通して強くなってきた。終盤、体格に勝る2大関を倒せずスンナリといかなかったのは、むしろ今後の課題が浮き彫りになってよかった。


<優勝決定戦/若隆景―高安>


 今場所は立ち合いの鋭さでここまで星を重ねたが、一回り大きい力士との対戦で疲労が蓄積し怪我するリスクは避けられない。得意の投げを封印し、下から上に押し込んで寄り切る相撲を前面に出して番付を上げてきた。高安との優勝決定戦では、驚異の残り腰を見せて館内の興奮は頂点に達した。終盤の優勝レースを乗り切ったのは大きな自信になるだろう。取りこぼしを極力少なくして上位との連戦が続く終盤までいかにして力を温存できるか。筋骨隆々とした体型をもう一回り大きくすると同時に、寄り切る相撲をさらに磨いてほしい。


 琴ノ若は幕内の座を上下しながらたくましくなってきた。この6場所で星勘定として見ると、準優勝が3回もある。今場所終盤、2大関を倒したのは白星への渇望と集中力の賜物。勝つ味を知っているというのは、どんな勝負の世界でも経験して身に付くとは限らない。持って生まれた勝負勘やとっさの判断力がいる。


 なにより稽古の量が違うのかもしれない。祖父は横綱琴桜で、実父は関脇琴ノ若のサラブレッド。課題は時折見せる立ち合いの変化。大関になる人は、小手先で取ってはいけない。その意味で豊昇龍も技に溺れるのが課題。若隆景のように、正攻法を心掛けながら、止むを得ない場合に必殺技を繰り出すようにしてほしい。(三)