生活の党 参議院議員(漢方薬・生薬認定薬剤師)
はたともこさん


 薬価の引き下げやISO問題など、漢方業界を取り巻く状況は現在、決して楽観視できない状況にある。5月10日に開催された医療用漢方最大手・ツムラの決算説明会においても、芳井順一会長が思わず、薬価引き下げ対応への不満をもらし、翌日、同社があわてて釈明メールを会参加記者に送信したほどだ。「本件は、一メーカーとしてのコメントではなく、日本漢方生薬製剤協会の会長としましてのコメントでございます」。そんななか、みずからも漢方薬・生薬認定薬剤師の免許を持つ、生活の党のはたともこ参議院議員に、野党としての立場から、業界に対する考えを聞いた。


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——生薬と漢方薬に対する現状について。


 全体の機運が高まってきている。現与党である自民党が昨年、「日本の誇れる漢方を推進する議員連盟」を設立したことが背景にある。私も野党の立場から、生薬の国内栽培の推進強化について、国会質疑でたびたび取り上げてきた。漢方関連の質問だけでも、昨年3回、今年2回行っている。そのような成果が出始めているのではないか。全国会議員722名中唯一、漢方薬・生薬認定薬剤師の免許を持つ議員として、果たすべきことは多い。 


「日本の誇れる〜」は、医療用漢方大手のツムラを核とした、「企業」を重視する組織であるとの印象が強い。方針も「漢方の推進」という漠然なもので、具体的な提言が欠けている。私は漢方市場の拡大を、「国全体」の成長戦略として捉えている。国内栽培の強化について力を入れているのも、個々の農家が元気にならなければいけない、という考えがあるからだ。中国の生薬が戦略物資化しているなかで、いつ何時、取引を止められるかわからない。政府にもこのことを強く認識してもらいたい。 


 また、現在、伝統医学の国際標準化を巡って、中国(中医学)が台頭しており、韓国(韓医学)と日本(漢方医学)が押されている。先日、南アフリカ・ダーバンで標準化に関する国際会議が開催された。後日、会議の参加メンバーに内容を聞いたところ、漢方医学や韓医学についても、前向きな方向で検討がなされているようだった。来年の会議は東京で開催される。今こそ漢方医学の優位性について、国を上げてうったえる時だ。


——生薬の国内栽培に関する具体策を。


 東京生薬協会が牽引するかたちで、秋田県の八峰町と美郷町が生薬の試験栽培に取り組んでいる。町を上げて、農業の起死回生を図ろうとしている。現地の関係者からは、「TPPを乗り切るためには、これしかない」という声も聞かれている。生薬は、高齢者にも栽培しやすく、品目によっては庭先栽培もできる品種もある。しかし、課題もある。栽培には最低5年が必要とされるし、栽培した生薬を適価で買い上げる企業も必要となる。今回の取り組みでは企業が決定しているので大丈夫だが、今後そういった課題がネックとなる。品種にもよるが、1キロあたり2〜3000円で売ることができれば、市場も適正化するのではないか。地元の森林組合も巻き込んでも面白い。キハダなどに代表される、樹木や樹皮を使った生薬の栽培にも取り組むことができるからだ。また、栽培だけでなく、現地に加工場を作れば、産業としてもさらに加速が期待できる。農水省の生産局地域作物課も年間250億円の予算を計上しているので、追い風だ。


——しかし、漢方の薬価は下がる一方だ。



 漢方に対する厚労省の認識は浅いといわざるをえない。漢方イコール医学、という認識が欠けている。統合医療などと同列で語っており、エビデンスを重視しすぎている。西洋薬と同じ概念で議論しても進展はない。「作用機序が不明」という意見がよく聞かれるが、そもそも、なにをもってエビデンスとするのか。それ以前に、漢方は江戸時代から使われ続けている、という実績がある。かつ、漢方は薬価が元々安すぎる。生薬農家やメーカーが適正な利潤を得られるよう、厚労省は明確な基準を作るべきだ。 


 また、日本では、中国や韓国と異なり、西洋医学を学んだ医師が漢方を処方している。このままでは、「にわか漢方医」を作り続けることになってしまうし、漢方本来の魅力が伝わらない。これは文部科学省にもつながる話だ。薬学部がせっかく6年制になったのだから、漢方に関してきちんと学ぶことのできるカリキュラムを作るべきだ。適切な指導を行うことのできる人材も求められる。現在、ちょうどコアカリキュラムの見直しの時期に入っている。まだ仮の案の段階だが、この点に関して、「前進している」と聞いている。 


 最終目標は、薬局薬剤師が漢方薬を適切に処方していくこと。これこそ、職能として今後、求められるものだ。しかし、一足飛びに進めていくのは難しい。まずは医療機関での取り組みを強化する必要がある。


——生薬は農水省、医薬品は厚労省、産業は経産省と、担当省庁がそれぞれバラバラであることも、成長への障壁となっている。 


 去年11月から、日本漢方生薬製剤協会(日漢協)の協力の下、厚労省の医政局経済課、研究開発振興課、農水省の生産局地域作物課の3課長間で、意見交換会が行われている。医薬品を担当している肝心の厚労省よりも、農水省ならびに経産省のほうが前向きな印象を受ける。

——医療用漢方製剤のシェアを、ツムラ1社で約85%占めていることについて。


 まず、はっきりさせておくべきなのは、ツムラが市場を牽引してきたのは「事実」である、ということ。しかし、この現状が市場にとって「自然」な状態かと問われたら、そうとはいえない。家庭薬でも多くの生薬を消費している。そういった現状においても、一企業が大幅なシェアを占めていることは問題がある。そのためにも、業界各社それぞれ、独自性を出して、付加価値を追求していかなければならない。私はこれからも公平公正に、「国民にとって」なにが重要かという観点で行政に働きかけていく。


——医薬品のインターネット販売解禁に対して反対している。


 市販薬のネット販売を解禁したところで、いったい誰が得をするのか。メーカーの販売量が増えるわけでもない。誰のための成長戦略か。楽天のための成長戦略に過ぎない。竹中平蔵氏は、個別項目の成長より経済成長全体の実現が重要といっていたのにもかかわらず、個別企業のための戦略を行っているようにしか見えない。ただ、インターネット販売が便利なのは事実。だから、薬局が対面販売を「原則」としながら、ネットを有効活用していくのであれば、構わない。しかし、インターネット業者が販売を行うのはおかしい。薬の安全性の規制緩和は絶対にあってはならない。 


 現行で、第1類はダメ、第2〜3類は大丈夫という議論がなされている。分類の善し悪しは別にして、1類のネット販売が解禁になれば、スイッチOTCが今後発売されなくなる恐れがある。医者もこれを嫌がるし、国民にとっても不利益だ。厚労省の担当者も先日、問題解決の落としどころについて、「迷路」と表現するほど、悩んでいるようだった。


——漢方(第2類医薬品)についても同様のことがいえるか。


 初回は対面販売が必須だ。2類といえども安全ではない。しかし、漢方薬局に訪れる人たちの場合、医師に見放されて、最終的に、わざわざ遠方から来店するケースが多い。そういった現実を否定することはできない。「原則」を守れば、一概に悪いとはいえない。


——日本薬剤師連盟(日薬連)は7月の参院選候補として、自民党のみ2名を推薦している。今後について。


 日漢協の推薦はある。日薬連から正式な推薦受けることはできなかったが、応援してもらっている。地元である広島県と北海道の薬剤師連盟からは正式に推薦を受けている。


——最後に


 インターネット販売に対してはっきり反対できるのは野党ならでは。これからも野党の立場で、政府に対しさまざまな提言を行っていきたい。