まったくもって個人の印象なのだが、近年、周囲に「食物アレルギー」という大人が増えている。定番の蕎麦、エビだけでなく、うなぎ、アナゴといった魚も。自分の周りでは、20~30代の比較的若い世代が中心だが、50代以上でもアレルギーを持つ人はいる。子どもの頃から続いていることもあれば、大人になって突然発症することもあるようだ。


「アレルギーで食べるものがない!」を避けるため、オイスターバー、カニ料理といった専門店をセッティングする際には、かなり気を遣うようになった。


『大人の食物アレルギー』は、成人の食物アレルギーの世界をコンパクトにまとめた1冊だ。現状から、タイプ、診断、治療法まで幅広く扱っている。


 かゆみや発疹、下痢や嘔吐ほか食物アレルギーによって、出てくる症状はさまざま。〈影響は皮膚や消火器、呼吸器など多様な臓器に及び、重症になれば意識を失い、死に至る場合もあります〉というから侮れない。アナフィラキシーショックを緩和する「エピペン」は少し医療分野をかじった人には広く知られている。


 成人の食物アレルギー有病率については、正確なデータはないものの、1~2%とみられるというから、それなりの数だ。


 食物アレルギーを起こす食物は多種多様。著者の勤務する病院のデータでは、大人の食物アレルギーの原因として〈果物・野菜(豆乳・大豆を含む)が最も頻度が高く、次に小麦、甲殻類と続〉く。


 本書を読むまで、小麦や蕎麦を除けば、「果物・野菜」に、あまりアレルギーのイメージはなかった。


 実は、成人の場合、果物や野菜に花粉アレルギーと似たアレルゲンが存在するため、食べたことで食物アレルギーを発症することがあるのだ(花粉症と考えれば、結構な人数だ)。


〈成人になってから果物アレルギーを発症する人は、ほとんどが花粉アレルギーも持っています〉というから、花粉症で、果物や野菜を食べると唇などにかゆみや腫れが出るという人は、関連を疑ったほうがいいだろう。本書には花粉タイプ別に関連する果物・野菜がまとめられている。


■ゴム手袋もマリンスポーツも要注意


 花粉以外にも、食べる以外の要因が食物アレルギーにつながるケースはある。


 例えば、「ラテックス-フルーツ症候群」。手袋などラテックス製品を頻繁に使用していると、ラテックスアレルギーを発症することがあるが、そのうち30~50%が、キウイやパイン、モモといった果物で食物アレルギーを発症するという。医療従事者や調理などでラテックス製の手袋を毎日使うような人は要注意だ。


 サーフィンやスキューバダイビングなど、海に入るマリンスポーツを楽しむ人は「納豆アレルギー」に注意したい。一見、異質な組み合わせだが、クラゲの触手に含まれる物質が納豆にも含まれる。そのため、海でクラゲに刺されると、納豆を食べた際にアレルギー症状が出ることがあるという。


 薬、ストレスや疲れ、酒、運動……、食物アレルギーに関係するファクターは多い。


 本書を読めば、症状の表れ方や対処法が多種多様であることがわかる。果物のケースでいえば、〈反応しやすい果物が人によって違う、果物の銘柄、産地、熟度、部位によってアレルゲンの含有濃度が異なる、季節によって果物に対する感受性が変動する〉といった具合。大豆アレルギーでも、煮豆、納豆、醤油、味噌などに加工したものでは、アレルギー症状が出にくいとか。


 診断の難しさに加えて、食物アレルギーへの対処に関しては、食物除去を必要最小限にする、合併する疾患への対処等々、“さじ加減”が難しい。医師の知見は不可欠だ。気になる症状があるなら、専門医に見てもらうのがいいだろう。


 本書が役に立つのは、現在、発症している、懸念があるといった当事者だけではない。飲食店やホテル、病院・介護施設など、食事を提供する側にとっても、食物アレルギーは避けては通れないテーマ。本書は、格好の入門書となりそうである。(鎌)


<書籍データ>

大人の食物アレルギー

福冨友馬著(集英社新書880円)