5月8日(日)~5月22日(日) 東京・両国国技館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」より)


 先場所休場した横綱照ノ富士が7回目の賜杯を手にした。3大関のうち2人が負け越して凋落ぶりを露呈。若手力士が土俵を沸かせたが昇進・昇格に繋がる成績を残した力士は少なかった。戦国と言えば聞こえはいいが、チャンス到来だけに一発回答で出世する抜群の関取が出てきてほしい。


玉鷲が変わった

 

 序盤目についたのが玉鷲(西前頭3枚目)。照ノ富士、御嶽海に土を付け中日まで6勝2敗と優勝戦線に残った。3年前の初場所で初優勝を遂げて以降は前頭上位の常連だが、相撲が早く、やや物足りなかった。


 電車道で誰彼構わず突っ張りを繰り出して押し出す先手必勝相撲から、今場所は相手をじっくり見ながら、隙あればいなしたり投げたりの工夫が見えた。3日目の阿武咲(東前頭5枚目)との一番は攻め込まれながらも相手の動きを見て最後は突き落とした。これまでなら突っ張り合いに終始する展開だったが、一皮むけたような感じがした。何かと言えば幕内最高齢(37歳)が話題になるが、円熟味を増して幕内に華を添えている。


<3日目/玉鷲―阿武咲>


ビデオ判定なしの疑惑相撲

 

 8日目、正代―豊昇龍戦。大関と小結の一戦は微妙な判定になった。豊昇龍はもろ手突きで正代を押し込み両差しになったが、大関がそこで一気呵成に押し込んで土俵際にもつれ、両者ともに倒れ込んだ。軍配は正代でも当然物言いかと思われたが、勝負審判の誰一人として手を挙げず、豊昇龍の不満顔が映し出された。


 正代は前日まで1勝6敗。豊昇龍は5勝2敗。ビデオで再現すると、豊昇龍の右足よりも正代の体が先に落ちているように見えた。ふてぶてしい表情の小結に、負けが混んで捨て鉢な顔の大関。結果的に大関は10敗を喫し、小結の豊昇龍は辛うじて勝ち越し、小結の座を守った。両者にとってこの一番が今場所の成績に与えた影響は大きくないものの、テレビ桟敷のファンは大いに不満だったのではないか。プロ野球はビデオ判定の権利である「リクエスト」があるが、大相撲の判定は審判部が全権を握っており、力士が異論をはさむ余地がない。


<8日目/正代―豊昇龍>


 気のせいかもしれないが、この取組結果を境に、今場所は物言いの回数が多かったようにも感じた。伊勢ケ浜審判部長などは「今の物言いは、(力士の足が先に出たかどうかの)確認です」を連発していた。別室でビデオ判定を確認している審判部の担当者の意見も取り入れて、物言いの採用不採用を決める改革があってもいい。

 

押し相撲3兄弟、大関の悲劇

 

 ここ数年、1場所おきにカド番を迎える大関ばかりである。昇進するまではがんばるが、その座をつかんだ途端に10桁さえできなくなる。大昔は「クンロク」が脆弱大関の代名詞だったが、今や勝ち越しすらできず、あっさり負け越す。2018年5月に昇進した栃ノ心は1年後に陥落、2017年5月に昇進した高安は2年後には関脇に落ちた。四つ相撲の栃ノ心は大怪我からの昇格だったが、大関直後の場所で怪我を再発したのが何とも残念だった。


 押し相撲タイプの力士は、好不調の波が激しい。これは昔から続いており、横綱を見ても押して勝った横綱は少ない。現役の大関では来場所に幕下から再起を図る朝乃山が唯一の力士だ。御嶽海は組んでも取れるが「残り腰」がない。正代は見て立ち合うので最初の一歩がなく、押し込まれて顎が上がり防戦一方になって自ら土俵を割る。貴景勝は典型的な押し相撲だが、太り過ぎもあって怪我が多い。


 こうなると、同タイプの力士が大関に上がるのは、今後さらに難しくなるのは必定。大栄翔(西小結)や隆の勝(西前頭4枚目)、阿炎(西関脇)といった大関候補は昇進のハードルが高くなるのではないか。四つで取れる若隆景(東関脇)や豊昇龍、霧馬山(東前頭2枚目)、琴ノ若(西前頭2枚目)が第1選抜になるだろう。


宇良の視線を見よ!


 12日目の宇良(東前頭6枚目)―貴景勝戦。宇良の執念には恐れ入った。大関の強烈なノド輪で宇良は俵に足がかかり、一気に押し込まれる瀬戸際を堪えた。しかし、そこから引いてしまい、大関に追い詰められた。さぁ、ここからがアクロバットだ。貴景勝が最後の仕上げとばかり押していくと、宇良は右に変わると同時に大関の右足に己が右足を掛けた。


<12日目/貴景勝―宇良>


 すると、大関は俵の前で相手を見失ったかのように棒立ち。足を掛けた宇良は土俵の中央にヨロヨロと戻りながら、スローモーションのようにゆっくりと土俵を割る貴景勝の後姿を最後まで凝視していたのである。しかも、己の体は空流に浮遊していた。そんな体勢から視線は相手に向けられていたのだった。思わず爆笑した。宇良のなんたる執念。


伊之助、また飛んだ!

 

 われらが伊之助。初日にやってくれた。御嶽海―高安戦(東前頭筆頭)。下手を取りに行く御嶽海と、懐に入れまいとする高安。差し出争いをしながらの攻防が続いた。その間、伊之助は小刻みに場所を変えるが、力士の動きについて行けず、四つに組む2人に追い込まれて大関の背中に接触したのち、小さくジャンプするように土俵の外に消えた。その後、土俵に戻ろうとした瞬間、両者が同時に飛んできた。その珍妙な光景は好角家の誰もが眉を顰め、そして失笑したに違いない。


<初日/御嶽海―高安>


 力士が落ちるのと、伊之助が土俵に復帰するのがほぼ同時だったが、御嶽海は伊之助が接触したおかげで高安に押し出されなくて済んだ。まったく高安には迷惑千万で、現役行司の最高峰としては切腹ものである。これが一度や二度ならいざ知らず、この2~3年は毎場所の光景になっている。(三)