「○○は体にいい」「△△は××に効く」と話題になり、スーパーやコンビニの棚から消えることがある。最近では、転売ヤーまで現れた「ヤクルト1000」がそれだろう。


 職業上の必要性はもちろんのこと、職業柄、健康マニア、サプリ大好き人間……といった知人の面々から、「評判の□□は、実際のところどうなの?」と尋ねられるケース多い。


 たいていは一過性のブームで終わるのだが、トレンドは次々に変わるうえ、そもそも真偽の怪しい情報もある。最新の流行や巷間言われる効果の根拠を知るために手に取ったのが『本当に役立つ栄養学』である。


 糖、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルなど、生きるために必要な栄養素から、消化と吸収、代謝、血液や筋肉・骨・皮膚・脳といった体と食べものの関係まで、丁寧に解説している1冊だ。


 結論から言えば、〈バランスよくいろいろなものを食べることが一番いい〉というスタンスで書かれた本だ。おそらく、いつの時代になっても不変の真理(だからこそ信頼できる)。


 もっとも、個々の食品では常識は新しい研究結果が登場したり、〈時代や世の中の空気や流行など〉によってもイメージが変わることもある。二転三転するケースもあるようだ。


 本書に掲載されている例だと、以前は「問題ない」とされていたビタミンCの過剰摂取。最近は悪影響も指摘されるようになった。


 逆に現在、体にいいと言われている食物繊維は、〈40~50年前までは「取るに足らぬもの」で栄養的価値はないとされて〉いたとか。〈小腸で吸収される他の栄養分の利用を妨げるとまで言われる始末〉だった。


 昔は「卵は1日1個まで」と言われていたが、今は〈このようなコレステロールを多く含む食品を食べても血中コレステロール値には影響がない〉が定説だ(映画『ロッキー』に影響されて生卵の一気飲みをして、「コレステロールの取りすぎになる」と叱られた人も多いだろう……)。


 一方、〈食べたら分解されるから美肌効果はない〉とみられていたコラーゲンは、〈コラーゲン特有のペプチドが、生体内で繊維芽細胞の増殖を促すことがわかって〉きたという。美肌効果についての効果は未知数だが、研究結果次第では、復権する可能性も出てきそうだ。


■糖質制限のリスク


 サプリ、健康食品の愛好家が読んでおきたいのが第7章の〈トクホと健康食品〉。健康食品の小史から現在のトクホ、栄養機能食品、機能性表示食品といった分類の違いを解説している。


 健康食品については、過剰摂取による健康被害やアレルギー、肝障害を起こすものもある。薬と違って有効性・安全性の審査がされていないものが「健康食品」として出回っているケースもある(最近も日本で未承認の医薬品成分がひそかに売られていて、健康被害が発生し問題になっていた)。


 医薬品との相互作用が起こるケースもあるだけに、健康食品やサプリの摂取には慎重に。健康食品で不健康になってはシャレにもならない。


“食の安全”を重視して、有機農業・無農薬・無添加にこだわっている人は多いが、それも「100パーセント安全」とは言えないようだ。


 管理するルールがないなかで、微生物による食中毒が発生したり、土壌中の食中毒菌、寄生虫の卵などが存在するリスクもあるという。必ずしも〈天然イコール安心ではありません〉という認識は持っておいたほうがよい。


 ブームが続いている「糖質制限ダイエット」には、いまだ賛否両論がある。詳細は本書を参照してほしいが、痩せる効果の一方で、意識障害や脱水症、動脈硬化のリスクがある。長期に続ければ死亡リスクが高まるとの報告もあるようだ。


 健康食品にしても、無農薬・無添加にしても、糖質制限にしても、まじめな人ほど徹底してしまう。なにごとも“ほどほど”がよさそうだ。


 それにしても、エビデンスにこだわる製薬会社やそのグループ会社が、効果やリスクの曖昧な健康食品・サプリを売っているのはどういう料簡なのだろう? 健康食品・サプリは消費者には薬より手軽に手に取りやすいが、メーカーにとっても薬ほど手間をかけずに儲けられる商品ということなのだろう。(鎌)


<書籍データ>

本当に役立つ栄養学

佐藤成美著(講談社1100円)