早々と与党の大勝が確実視されている「無風参院選」が始まった。24日付朝日の序盤情勢調査によれば、自民(改選数55)、公明(同14)両党が獲得するであろう議席(合計)は、全体の過半数(125─非改選69=56議席)、今回の改選過半数(63議席)の双方を超えるとされ、かたや野党では立憲が改選23議席から1~10議席減らし、維新は改選6議席を3~9議席積み増ししそうだという。以下、国民民主(改選7→1~7)、共産6(同6→4~8)、れいわ(0→1~5)、社民(1→0~2)といった見通しになっている。
正直、どうにも盛り上がりに欠ける情勢だ。先進国で唯一、約30年間も実質賃金が上がらない日本で、多数派の国民が「現状維持」(つまり“じり貧”の継続)を選択する状況に、いわく言い難い重い気分になる。
ネットやテレビでは決まり文句のように「野党(とくに立憲)がだらしないから」と説明されていて、ある意味正しい指摘とは思うのだが、問題は「それで国民はどうなるのか」という点だ。我々を載せた船はもう30年もじりじり沈み続けていて、時間の問題で海の藻屑となる。そんな状況に立たされても、一向にじたばたしない無気力な民意が私には理解しかねるのだ。与野党ともダメダメなら、とにかく両者を拮抗させ、死にもの狂いの状況に追い込むしか、為政者の尻を叩く方法はないのではないか。
今週は週刊文春が『参院選風雲急! 岸田動揺安倍激怒』、週刊新潮は『脛にキズ「参院選の俗物図鑑」』と選挙特集を組んでいるが、この「絶望的無風」への危機感はほとんど見られない。
文春のリードは「ついに始まった参院選。苛烈な物価高と“パパ活議員騒動”で支持率ダウンに喘ぐ首相に、元首相の言動がさらなる悩みの種となっている。一方で野党各党も火種を抱え、物珍しい主張を展開する新たな政党も誕生して──」。新潮も「6月22日に公示された参院選。投開票日までの19日間、地位と金を懸けた『選良』候補たちの戦いが全国各地で展開されるわけだ。その中には、脛にキズ持つ『珍獣』たちの姿も垣間見え……。今夏発行の参院選・俗物図鑑はいつにも増して色鮮やかである」といった感じ。要はさまざまな候補者のゴシップ特集である。
週刊現代や週刊ポスト、そして新聞社系の週刊朝日、アエラに至っては参院選の特集そのものがない。このまま「現状維持」という名前の実質的衰亡を日本はずるずる続けてゆく。その流れはもはやどうしようもない。週刊誌メディアまで、そういった諦め・無関心に覆われているように感じられる。
そんななか、サンデー毎日の特集だけ、タイトルに幾分かの熱量がある。『これでいいのか! 7・10参院選の内幕』。3つの記事から成るこの特集は、政治ジャーナリスト鮫島浩氏による『「風」が止まった日本維新の会 野党第1党“奪取”後に何が起こるか』、鈴木哲夫氏の『あいまい争点で逃げる岸田政権の罪』、倉重篤郎氏の共産党・志位委員長インタビュー『我らこそ保守本流宣言!』がそれぞれの内容だ。
鈴木氏は岸田政権が争点になりかねない短期的・具体的公約を極力少なくし、選挙戦そのものの「盛り上げ」も抑えようとしている、と批判。鮫島氏は、昨秋の衆院選で躍進した維新が、対自公でなく立憲を追い落とすことに主眼を置き、野党第1党を目指してきたものの、その勢いはここに来て失速、野党の主導権争いは混沌としてきた、と解説する。
現状の客観的情勢ではほとんど望みがないのだが、私自身は与党をも含め、政界全体が「混沌とした状況」になることをとにかく切望する。自公による「昨日と同じ安定」では、この国が右肩下がりで窮乏化する「下り坂の固定化」しか見込めないからだ。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。