日刊ゲンダイデジタルは16日、宗教ジャーナリスト・鈴木エイト氏の取材による『旧統一教会と「関係アリ」国会議員リスト入手! 歴代政権の重要ポスト経験者が34人も』という記事を配信し、ネット上で波紋を広げている。それによれば、霊感商法(高齢者などを精神的に追い込んで法外な値で壺などを売る訪問販売)や合同結婚式、信者に対する洗脳・収奪で1980年代から問題視されてきたこのカルト教団のイベントに関与したり、その機関誌に登場したりした現役の国会議員は計112人。うち98人を自民党議員が占め、立憲民主党6人、日本維新の会5人、国民民主党2人と一部野党にも「汚染」は広がっているらしい。


 参議院議員選挙の最終盤、奈良県で応援演説中だった安倍晋三・元首相が暗殺されてから1週間余り。このわずかな日数で世論の風向きは激変した。事件直後は右寄りの「安倍ファン」を中心に、左派・リベラルによる「度を越えた安倍批判」が影響した、という「左派叩き」が沸き起こり、これに紛れ「在日外国人の仕業だろう」などという人種差別的な言辞も飛び交った。やがて、警察発表で「“特定の宗教団体”への恨みがあった。安倍氏はこの団体に近いので狙った」という山上徹也容疑者の供述が明かされたが、まだ曖昧な情報しかないなかで、参院選は政治家・メディアによる「民主主義を守れ」という大合唱に包まれて行われた。


 しかし、投開票日翌日の11日、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の代表が記者会見を行うと、各メディアは匿名で扱っていた宗教団体名を報道。容疑者が教団に憎悪を抱くようになった経緯、母親がほぼ全財産を献金して自己破産、家族関係がめちゃくちゃになった背景が伝えられ、一部では周知のことだった自民党とこのカルト教団のつながりも明るみに出始めると、教団に人生を破壊され尽くした容疑者が、教団と蜜月の関係に映る政治家として元首相を恨み、殺害した構図が明らかになってきた。


「怨恨は容疑者による一方的思い込み」というスタンスだったテレビ報道も、さまざまな情報が出るなかで、徐々に軌道修正されつつある。一部コメンテーターは今なお「カルト入信も信教の自由、被害は自己責任」などと、「政治とのつながり」を否定しようとしているが、どう見ても無理がある。このカルトの恐ろしさは徹底した洗脳にあり、信者のほとんどは冷静な判断力を失った状態で、取り込まれてしまうのだ。


 私自身、この問題が大きく報じられていた80年代に、元信者数人を取材したことがある。当時、我が子を強引に教団から連れ戻し「脱洗脳」を試みる親たちがいたのだが、強烈な洗脳を解くことは容易でなく、信者は再び教団に逃げ帰ったり、親たちの強引な「拉致・監禁」が逆に罪に問われたりするケースも多かった。


 私が脱会者数人に聞いた範囲では、人を騙し、金を奪い取る霊感商法などの「反社会性」をいくら説かれても、心が動くことはなかったという。なぜなら、そういった批判をする第三者やメディアはすべて「サタン」だと教わっているからだ。むしろ、サタンに惑わされ、教団を離脱すれば、地獄に落ちてしまうと信じていた。


 結局のところ、カトリックなどの「正統なキリスト教聖職者」に日数をかけ、キリスト教の一派を自称する統一教会の教義が、いかに聖書の記述と矛盾しているか、こと細かく説明されてゆくことで、ようやく洗脳の呪縛から解放されたという。しかし、そんな彼らでも「地獄に落ちる恐怖」からは長期間自由になれないでいた。


 今週の週刊誌各誌は大々的にこの件を取り上げ、『安倍首相暗殺 伯父が告白150分 山上徹也「父の自殺と母の統一教会1億円」』(週刊文春)、『元総理射殺犯「呪われた一家」の全履歴 自殺の連鎖が生んだ「安倍=統一教会」歪んだ憎悪』(週刊新潮)などの大特集を組んでいる。


 ただし、山上家の惨状は詳細に報じられているが、「政治の側の責任」にはまだ追及が及び腰だ。同じ号に特集されている安倍氏の追悼ページには、その偉大さを称える各界のコメントが並ぶのだが、誰もが不自然なまでに「カルトとの関係」に触れていない。


 しかし、あえて言えば、こうしたページに登場する少なからぬ「保守論者」も、彼ら自身、統一教会のイベントに登壇したり、教団機関誌に原稿を書いたりした過去を持っている。犯罪的カルト集団として30年以上知られてきたこの教団を「のさばらせてきた責任」の一端は、当然のことながら彼らにもある。この際、当事者は全員が自身の責任を公に語るべきだろう。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。