6月27日、関東甲信地方の梅雨明けが発表されました。平年は7月19日頃ですから、それに比べると22日も早い梅雨明けで、観測史上もっとも短い梅雨の期間となりました。


 梅雨明け宣言が出される前から、各地では40度に迫る猛暑が報告されていましたが、私が暮らす茨城県石岡市の八郷地区も、6月末は日中の気温が35度前後になる日が続きました。


 そして、梅雨明けと同時に始まるのが、私の「在滝ワーク」です。


 フリーライターを生業としている私は、自宅を仕事場にしています。仕事内容は、取材を除くと、原稿を書いたり、資料を読んだりと、その多くが室内で行う作業なので、自宅で過ごす時間が長くなります。


 6年前に移住してから借りている家は、築50年は経っていると思われる、23坪ほどの小さな平屋です。古民家といえば聞こえはいいければ、漫画「サザエさん」に出てくる昭和の家というイメージでしょうか。


 襖で仕切られた3間続きの和室は、東西に窓があり、南側にも長い縁側がついています。窓をあければ風が通りますし、簾をかけて直射日光を遮る工夫もしているので、都心の集合住宅などに比べれば、夏でも涼しく暮らせる環境ではあると思います。


 とはいえ、ここ数年は、気温が30度を超える真夏日どころか、35度を超える猛暑日がざらになっています。太陽が高くなってくると、室内の温度もどんどんあがりだします。ここで、通常なら、エアコンの登場ですが、残念ながら、我が家はエアコンNG! それは、「昭和の家だから?」ではなく、電気の契約方法に理由があります。


 2011年3月11日の東日本大震災によって起きた、東京電力の福島第一原子力発電所の事故以降、できるだけ電気を使わない生活をするために、私は電気の料金プランを5アンペア(従量電灯A)という契約にしています。


 アンペアは、電気が流れる大きさを表す単位で、数字が大きくなるほど一度にたくさんの電気が使えます。私が契約している東京電力は、アンペア数の大きさによって基本料金が異なるプランが設定されており、これに電気の使用量に応じた電力量料金が加算されます。


 たとえば、東京電力の旧プランの「従量電灯B」では、10アンペアの基本料金(税込)が286円、15アンペアが429円、20アンペアが572円で、以降10アンペア増えるごとに286円加算され、最高の60アンペアが1716円。電力量料金は、使用した電力量に応じて、1キロワット時あたり19.88円~30.57円(2022年7月現在、燃料価格の変動に応じて増減あり)。


 こうした料金の仕組みを利用したのが、アンペアダウンによる節電で、アンペア数を1段階下げるだけでも、基本料金は286円安くなります。その分、一度に使える電気は少なくなるため、ブレーカーが落ちないように消費電力の低い電気製品に見直したり、時間差で電気製品を使ったりする必要があります。結果的に、電力使用量も減っていき、電気代の節約ができるというわけです。


 このアンペアダウンによる節電の究極版が、私が利用している「5アンペア契約(従量電灯A)」です。基本料金は設定されておらず、電気の使用量が8キロワット時までは、使っても使わなくても235.88円。これが最低料金で、その後は使用量1キロワット時ごとに19.88円ずつ加算され、使った分だけ電気料金を支払う仕組みになっています。


 ただし、1度に使える電力は5アンペアまでです。消費電力に換算すると1アンペア=100ワット(電圧が100ボルトの場合)なので、5アンペア契約で使えるのは、消費電力が500ワットまでの電気製品です。


 消費電力は電気製品の機種によって異なりますが、冷蔵庫は100ワット程度、洗濯機は200~300ワット程度、扇風機は1~50ワット程度、照明器具は5~60ワット程度などで、5アンペア契約でも使える電気製品は結構あります。ただし、電気炊飯器は1300ワット程度、電子レンジは1500ワット程度など、熱を発するものは消費電力も大きいため、5アンペアでは使えません。そして、エアコンも起動時に1000~2000ワット程度かかるのが一般的なので、5アンペア契約では夢の家電なのです。


 電気の料金プランを見直して、5アンペア契約をやめればエアコンは使えるのですが、東京電力の原発事故問題がなにも片づいていないのに、電気をたくさん使う生活に戻ることには抵抗を感じます。今のところ、健康状態に問題はなく、体力もあるほうなので、エアコンなしの生活を続けているわけですが、真夏日や猛暑日は、午後になると室内も高温になり、家にいると熱中症の危険が高まります。


 そこで、家でする仕事は涼しい午前中のうちに済ませて、午後になったら、涼を求めて出かけるようにしています。行き先は、図書館や古民家カフェなど、冷房の効いた場所に行くこともありますが、自然豊かな八郷ならではの納涼スポットが、小川や滝などの水辺です。


 なかでも、私のお気に入りの納涼スポットは、石岡市の瓦会地区の山中にある「鳴滝」です。水量が豊富だった頃、雨のあとには雷が鳴るような音がしたことから、この名称がついたとか。


 落差20メートル、長さ50メートルほどの小さな滝で、同じ県内にある袋田の滝や、栃木県の日光華厳の滝のようなダイナミックさはありません。それでも、下から見上げると、山頂の方から流れだした水が一筋の糸のように、細く長く岩肌を滑り落ちてきます。その穏やかな流れを見ていると、下界の暑さも慌ただしさも忘れてしまいます。実際、滝が流れるときに発する気化熱によって、鳴滝の周辺はとても涼しく、汗ばんだ体からスーッと汗が引いていくのです。


 週末は、子どもたちが水遊びをしたり、観光客が訪れたりして、にぎやかになりますが、平日はほとんど人が訪れません。そこで、私は鳴滝の目の前に設置されているウッドデッキに腰を下ろして、在宅ワークならぬ、「在滝ワーク」をしているのです。鳴滝は、山中にありながらも電波がつながるので、パソコンで調べものをしたり、資料や本を読んだり。暑くなったら、水の流れに足を浸して涼もとれるという極上のワークスペースです。


 鳴滝のウッドデッキは、地元の有志が中心となって組織された「鳴滝会」の方々が作ってくれたもので、鳴滝会では、定期的に滝周辺の草を刈ったり、登山路を整えたりして、滝の安全と景観を維持するための活動してくれています。2019年10月、茨城県が大きな水害に見舞われたとき、鳴滝の岩肌にも巨木が倒れこみ、滝の景観が大きく損なわれました。その倒木を取り除き、新たに紅葉や紫陽花の苗木を植え、元通りの姿にしてくれたのも、鳴滝会の皆さんです。


 こうした方々のおかげで、エアコンなしでも、これまでなんとか夏の暑さをしのぐことができていました。とはいえ、夏の酷暑は年々厳しくなっているように思います。果たして、今年も在滝ワークで乗り切れるのか……。2022年の夏は始まったばかりですが、自然からも涼をとる工夫をしながら、できるだけ電気を使わない生活を続けていきたいと思っています。


石岡市瓦谷地区にある鳴滝