4月に国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)の理事長に就任した中村祐輔東京大学名誉教授は27日、大阪市内で報道関係者向けにNIBIOHNの今後の活動に関するプレゼンテーションを行った。


 NIBIOHNはこの日、内外への知名度が低いとの自己認識を再三表明し、国の医薬研究開発のトップ機関として今後は活発な情報発信を進める方針を明らかにした。


 中村理事長は、新型コロナ感染症以後、今年上半期だけで2兆円、昨年と併せれば4兆円の医薬品輸入赤字が生まれているとして、日本の医薬品開発力の基盤整備と、臨床側との緊密な連携、国内医薬品企業との「基礎段階からの研究連携」環境づくりへの意欲を示した。


 中村理事長は自己紹介も兼ねて、これまでの研究や政府機関等への情報発信、提言などを行ってきた経歴を語りながら、専門である遺伝的多型マーカーを軸にしたがん治療の将来予測などを語ったが、とくにネオアンチゲンワクチン・がん特異的TCR導入T細胞療法時代に関して強い理解を求めた。


 ネオアンチゲンワクチンは17年頃から米国で研究がスタートし、19年には第1相レポートも発表された。とくにビオンテックのmRNAワクチン研究は、新型コロナ感染においてmRNAワクチン開発に結び付いた。中村氏は、がん細胞特異的ワクチンを利用し、遺伝子情報を活用する個別化免疫療法は、ほとんどのがん患者に適用可能だとして、「進行がん患者に希望を持たせる」臨床上の有用性への関心を求め、その可能性を信じてNIBIOHNの理事長職を引き受けた動機を語った。


 一方、NIBIOHNの活動の中で期待している分野として、20年2月から開始し、300以上の内外の研究施設に提供した、新型コロナウイルス、SARS-CoV-2分離・増殖用細胞株の提供を挙げた。また、年間200~300頭の実験用サルを供給する霊長類医科学研究センターにも言及し、米国ではすでに実験用サルの100%国産化が戦略化され年間400億円の予算が組まれている状況も示し、日本もこうした戦略が必要だとの認識も強調。薬用植物も同様で、実験的インフラを輸入に頼る現状からの脱却の要を繰り返し強調した。