旧統一教会関連のネット検索をするうちに、懐かしい朝日ジャーナルを回顧するツイッター・アカウントに行き着いた。『原理運動の大学支配』(1985年10月25日号)、『新入生のための「原理」ガイド』(86年4月18日号)、『全国調査霊感商法 無残な犠牲者たち』(同年12月5日号)、『霊感商法第三弾 ふたつの事件があぶり出した統一教会の影』(87年1月30日号)、『建国記念の日祝奉派から追い出された勝共連合』(同年2月27日号)……。表紙の画像から読み取れる主要記事タイトルを眺めてゆくだけで、当時のこの雑誌がいかに果敢にこの問題に取り組んだかよくわかる。やや遅れて週刊文春も戦列に加わって、昭和の終盤から平成初期にかけ、統一教会の追及報道はこの2誌が事実上牽引した。


 前回の本欄で指摘したように、目下、統一教会絡みの報道は日テレとTBS、週刊誌、ネットメディアで展開され、NHKやテレ朝、フジ、全国紙は極端なほどこれを黙殺する「2極化」が進んでいる。古巣の朝日新聞はどうしてしまったのか。社内からの情報は得ていないが、元朝日の政治ジャーナリスト・鮫島浩氏のネット記事によれば、現在の朝日上層部には「権力批判への委縮ムード」が蔓延し、それに異を唱える現場の記者たちへの「見せしめ人事」があるらしい。ベテラン記者をデータ入力などの単純作業要員にしてしまう「追い出し部屋」まで設けられているという。これが事実なら、NHKと同様に朝日新聞にもジャーナリズム精神の復活はもはや望めない。何とも暗澹たる気分になる。


 そうしたなか、今回、頑張りを見せているのは民放2局と週刊誌だ。最近の週刊誌はどこもみなデイリーのネット報道もしているため、ネット上には時々刻々、さまざまな情報がアップされ、それらがすぐテレビ報道にも反映されて拡散する。全国紙プラスNHKの沈黙、という事態は以前なら、ニュースの流通が限りなく局所化することを意味したが、今回、それでもネット上で統一教会問題が連日、特大のニュースになっている状況は、はからずも「主要メディアの世代交代」という現実を白日の下にさらしている。


 このマルチメディア展開で最も貢献が目立つのは、鈴木エイトというフリーの宗教ジャーナリストだ。統一教会問題では80年代からこれを追い続ける有田芳生氏や弁護士たちの存在がある一方、鈴木氏はここ10年ほどさまざまな教団関連のイベントに潜入し、登壇者の発言を録画したり情報収集したりしてきた蓄積がある。この件で、テレビで流れる動画の多くには「鈴木エイト氏提供」というクレジットが入っている。


 30日放映のTBS『報道特集』や同日付の文春オンラインでは、鈴木氏が入手した国際勝共連合会長による「日曜礼拝の説教」の映像が使われた(後者は記事執筆も鈴木氏)。ここでこの会長は昨年9月、関連団体UPFの世界大会に安倍元首相によるスピーチが実現したいきさつを生々しく語っている。それによれば、日本からの登壇者の人選は難航し、UPFが3人の元首相にオファーしたものの軒並み拒否。なかには「私どもの先生を宣伝材料に使いたいだけでしょ? UPFと言ったってそんなのは家庭連合・宗教団体のフロント組織でしょ?」と図星の指摘をしてきた事務所もあったという。そうした経緯の末、トランプ元大統領の参加もあることを知り、引き受けたのが安倍氏だったという。


 鈴木氏は今週のフライデーにも『旧統一教会「濃厚接触議員」リスト』というトップ記事を書いている。Wikipediaによれば、元バンドマンだった氏は2011年から新興宗教取材のジャーナリストになり、ときには現場で(信者から?)殴られる目にも遭ってきたという。安倍氏の事件がもし起きなければ、ネットの片隅でいまも細々と孤独な闘いを続ける無名の人だった。その努力の継続にはただただ敬服する以外になく、大手メディア、とくに大新聞の記者たちにはほんの少しでも、彼に学ぶ姿勢を見せてほしい。


 なお、先週は「政治とのつながり」に触れなかった週刊新潮も、今週は『底なし政界汚染 安倍元総理と「統一教会」ズブズブの深淵』という特集を掲載した。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。