しがない月給取りの家で育った身にすれば、企業の創業者一族などという家庭環境は、途方もなく恵まれたものに思えるが、当事者となれば必ずしもそうではないらしい。父娘骨肉の争いで脚光を浴びた大塚家具だけではない。今週の週刊文春には、「大塚家具より過激」と銘打って、やはり家具販売の大手・ニトリの話題が特集されている。


《「日経『私の履歴書』は嘘ばかり!」 ニトリ社長に実母が怒りの大反論』》という記事がそれだ。俎上に上ったのは、著名人の半生を1ヵ月にわたり連載する『私の履歴書』という日経新聞の名物記事。4月に載ったニトリ社長・似鳥昭雄氏のシリーズは、とりわけその破天荒ぶりが話題を呼び、ドラマ化の噂まであるそうだが、社長の実母・みつ子さんは「あの子は小っちゃい頃から嘘つきなのさ。開いた口がふさがらない」と、その内容のデタラメさを文春記者にぶちまけたという。


 その弁によれば、白米が食べられず雑穀で飢えをしのいだ、という「極貧の少年時代」は大ぼらで、ヤミ米販売を手がけて裕福になった一家は、当時まだ珍しかった三輪自動車やテレビも買い揃えていたらしい。そもそも「米屋に米がないはずがない」とあきれ返るこの実母は、米一俵を手渡して裏口入学したという高校進学の話も、ウソだと否定する。


 彼女が最も問題視したのが、連載のニトリ創業のくだりで、家具の小売りはそもそも現社長でなく、その父親が始めたものだとし、創業資金を銀行から借りることができたのも、父親の信用があってこそのことだった、と主張する。


 もちろん、当の似鳥社長はみつ子さんの言い分を真っ向から否定するのだが、こうした母子対立の背景には、89年に他界した父親の遺産相続を巡るいざこざがあったのだ、と記事は解説する。約200億円分もの父名義の株を一手に相続した似鳥氏は、母親や弟、妹らに訴えられ、争いは12年に和解するまで続いたのだった。


 さて、もう少し庶民的な暮らしの話題に目を向けると、サンデー毎日や週刊現代に、気の滅入る話が特集されている。サン毎の記事は《年金「大減額」を乗り切る》、現代のほうは《2015夏「不動産が暴落する」全情報 あなたの財産がパーになる前にすべきこと》と銘打たれている。


 前者は4月から始まった「マクロ経済スライド」で今後、年金が目減りするなかで、自衛策として私的年金による上乗せを推奨する穏当な内容だが、後者は現在の不動産価格はマネーゲームによるバブル的なもので、その暴落は目前に迫っている、と危機感を煽り、《これからは「家を持っているほうが負け」》とドギツイ表現で警鐘を鳴らしている。


 かと思えば、エコノミスト・藤巻健史氏は週刊朝日のコラムで、「これだけ累積赤字がたまってしまったからには、政府がとる道はインフレしかない」と断言し、アベノミクスの行きつく先としてハイパーインフレの到来を予言している。だとすれば、円が紙くずになる前に、できる限り外貨や不動産を持つほうが賢明ではないのか? 何が何だかわからない情報の交錯に、素人はただ戸惑うばかりである。


 週刊新潮のコラム、吉田潮氏の『TVふうーん録』では、NHK土曜ドラマ『64(ロクヨン)』が絶賛されている。横山秀夫の原作を忠実に再現したドラマで、主演・ピエール瀧の好演に、このところ筆者もはまっているだけに、辛口批評家の高評価は、我がことのようにうれしく感じられる。 


------------------------------------------------------------
三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町:フクシマ曝心地の「心の声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。