目下、旧世界統一教会(現世界平和家庭連合)と政治家との関係が問題になっている。特に自民党、それも安倍派の国会議員との関係が注目の的だ。議員の皆さんは「頼まれて祝電を送っただけだ」「関連団体だったとは知らなかった」「ボランティアで選挙を手伝ってくれただけだ」等々、「問題はない」と強調しておられた。


 それはそうだろう。統一教会といえば、先祖の祟りだ、などと言っては不安に駆られている市民に入会を勧め、壺や印鑑を高額で売りつけていた宗教団体だ。合同お見合いや合同結婚式でも有名だ。しかも、韓国で生まれた統一教会は日本に対して独特の考えを持っている。日本は戦前、朝鮮半島を支配した報いとして大いに献金しなければならない、と強調していることだ。


 そして、日本で集めたお金を韓国に送金している。その金額は霊感商法被害弁護士連合会の弁護士によれば、少なくとも年間300億円以上に上るとも言う。一説には、日本で集めた金で韓国に統一教会の豪壮な本部を建設したばかりか、韓国、アメリカでの活動資金を賄っている、さらに北朝鮮にも資金提供していた、なんていうことも言われている。


 そういう団体と関係をもった安倍派議員は「保守だ」などと言っても、本当に保守なのだろうか。昔風に言えば、「国賊」とでも言うしかない。


 なかでも、問題になっているのは2015年に承認された名称変更だ。誰が見ても統一教会の名前は悪評が高いからイメージを変えようという算段だと気付く。時は民主党政権から自民党政権に代わり、第2次安倍政権時代だ。名称変更を認めた当時の下村博文文部科学相は「文化庁から報告を受けた。その時の話は団体名の変更申請を拒否すると不作為で訴えられる可能性がある、ということだった」と答えている。


 その後、末松信介文部科学相は「15年6月に教団から名称変更の申請があり、書類に不備がなかったので受理し、同年8月に名称変更を認めた。書類が整っているのに受理を拒めば、違法とされる恐れがあるので認めた」と、下村氏の言い分を正当化している。


 一方、前川喜平元文科次官は1997年、文化庁の宗務課長時代に統一教会から名称変更について「事前の相談」を受けたが、「実態が変わっていないのに名称変更を認めるわけにはいかない。無理だ」と答え、拒否したと語っている。その後、名称変更は沙汰やみになっていたが、15年になって突然、名称変更を再申請したことになる。それは第2次安倍内閣の時代だ。


 当時、前川氏が文科省の審議官時代で、統一教会の名称変更の案件が回ってきたが、「ダメです」と答えたと語っている、加えて、「審議官がダメだと言ったのに認められたということは、その上の事務次官か(下村)大臣が政治的判断で認めたということでしょう」とも語っている。文科省のナンバー2の審議官が認めないと主張しているのに、それをほったらかして認められるというのは一体どういうことだろう。


 実は、筆者は20代後半のとき、ゴルフ場の建設コンサルタント会社に籍を置いたことがある。大手商社M社の取引会社の子会社である。というのも、田中角栄内閣の列島改造ブームに便乗してM社はグループの商社や取引先にあちこちの土地を買わせた。ところが、オイルショックが起こり、日本は一転して不況に陥った。トイレットペーパーがなくなるという話が流れ、日本中でトイレットペーパー騒動になったほどだ。


 グループ会社に土地を買わせた手前、M社はその処分に困り、社内に余暇開発室なんていう部署を用意する一方、コンサルタント会社を設立させたという経緯の会社だ。M社の課長がたびたび訪れてくる。たとえば、福島県で買い占めた山の中の土地にゴルフ場をつくったらどうか、と言ってきた。商社はゴルフ場建設に関わると、資金融資だけでなく、クラブハウスの建設、キャディカートや芝刈り機などの納入でしこたま儲けられるのだ。


 が、若かったから取引先でも遠慮しなかった。「そりゃ、無理です。たとえ、ゴルフ場を建設しても、都心から福島の北部にまでゴルフに来てくれますか。ゴルフ場をつくっても、採算が合いません。無理です」と言うと、「そうか、そうだろうな。では豚の放牧場はどうか」というのだ。エリート商社マンから「豚はみんな汚い豚舎で飼っているが、ホントは豚というものはきれい好きだ」という話を承った。


 余暇開発室の課長からは「近郊の土地にテニスクラブをつくろうと思うので手伝え」と言われた。ゴルフ場の建設や経営ならわかるが、テニスは知らないから詳しい人が必要だと言うと、当時、テニス用品大手の川崎ラケットという会社の部長と課長を連れてきた。両名とも知っていることはすべて協力しますということになったが、さて設計の打ち合わせをする段になると、約束の時間に川崎ラケットの人が来ない。M社の課長が怒り出し、「これだから中小企業はダメだ」などと言い出す。が、ほどなくして川崎ラケットが倒産した。設計の打ち合わせどころではなかったのだろうと同情した。このテニスクラブ開発の話は立ち消えになった……。


 私が主に担当したのは、M社とは関係のないゴルフ場開発だった。大手企業F社のオーナー社長がゴルフ場をつくりたい、という計画だ。もともとは航空測量会社とその子会社がコンサルタンティングしていたが、用地を決めたものの、全然進まなかったことで、航空測量会社がコンサルティングしてくれと泣きついてきた案件だった。用地はほとんどが低山で、その麓に田圃があるという鄙びたところだったから大規模な林地開発申請になる。


 しかし、困ったのは県や町に相談に行くとき、F社の課長のほかに航空測量会社とその子会社の人たちがついてくることだった。県や町の担当者に紹介するのが実に面倒だ。航空測量会社の人には遠慮してもらい、F社の課長と2人だけで行動することにしてもらい、町に計画書を持参し「事前申請」することになる。これが前川氏の言う「事前の相談」だ。もちろん、ここでノーと言われたら、それですべてお終いである。


 ゴルフ場開発では、それまでにいろいろ条件をクリアしなければならない。簡単なものでは、たとえば、ゴルフ場の計画地は広大で、場合によっては低い山とはいえ、国土地理院の基準三角点があることがある。3等三角点なら他の山に移転してもらう。あるいは、民間人が設定している鉱区権というものあり、これはお願いして放棄してもらう。世の中には利に聡い人がいるもので、広大な他人の山に勝手に鉱区権を設定してしまう人がいるのだ。そこから金や銀が出なくても、開発するときには邪魔になる。それを見越して放棄する代わりに何がしかの金にしようという輩がいるのだ。


 さらに肝心なのは、用地の所有者から売買同意書が必要だ。売ることを渋る人には代替地を用意して同意してもらう。大掛かりのダム建設と同じだ。おおよそ95%の同意を得た。また、建設には100万㎥もの土砂を動かすことになるのだから防災条件も厳しい。土木設計会社に基本設計に基づいて設計計算して沢に相当するところに堰堤(ダム)をつくる。


 最も驚いたのは、過去100年間の最大雨量に耐える堰堤をつくる、という条件だった。企画課長に日本の気象庁が発足してからまだ80年で、その前の資料がありませんが、と言っても、耳を貸さない。林地開発条件にそう書いてあるから100年で計算しろ、と言うのだ、仕方がないから80年間の最大雨量の2割増しの雨量にして、それに耐えられる堰堤を設計させることでクリアした。


 加えて、用地内だけでなく、周辺の人たちを集め、町の企画課長立ち会いの地元説明会も数回開いて同意を得た。農村地帯だけに説明会はすべて夜である。都会と違って星空がこんなにも奇麗だと感じたことはない。


 こうした経緯の後、「事前申請」を承認してもらい、「本申請」を提出するのだ。


 一方、私がいた会社では元地上げ屋という年配の人が「部長」という肩書で入社した。私の上司になった人で、社内で何をしているかといえば、社長とこそこそ話をしていて、その中身は知らないが、ゴルフ場計画地選出の国会議員や県知事、副知事、県土木部長、さらに町長や助役、農業委員会の委員長などにせっせとお中元お歳暮を贈っていた。ときどき、国会議員や県知事、土木部長らと会談、いや、接待していたようだ。


 ともかく、私とF社の課長とでつくり上げた開発申請はほどなくして開発許可が出た。努力が実ったのだが、高く評価されたのは、地道な作業をした私ではなく、お中元お歳暮をせっせと贈った元地上げ屋の部長のほうである。なるほど世の中とはこういうものかと知った。


 話を戻して、宗務課長の前川氏が名称変更をノーといった以上、名称変更を再申請するにしても、余程の状況変化がなければ申請できないはずだ。霊感商法被害弁護団が名称変更に反対している。具体的にいえば、霊感商法の被害者に対する問題をすべて解決した、信者に対する高額な献金の廃止、さらに全信者に対するコンプライアンスが徹底した、とか言ったものなどがなければ受けつけてくれないはずだ。ゴルフ場建設でさえ、地元説明会をなんども開き、利害関係者の了承を受けるのだ。霊感商法の被害者を抱える統一教会が説明会を開いたら反対の声だらけになるだろう。


 ところが、政権が代わり、安倍内閣で名称変更が受理されている。前川氏が審議官のとき書類だろうが、上がってきて、再びノーと言ったのに承認されたというのだから、彼の言う通り、次官か大臣が承認したことになるだろう。


 未確認だが、下村氏は「名称変更の受理前と受理後に文化庁から報告を受けた」と言っていたらしい。こんなことは通常ありえないが、名称変更を認める意向だったからこそ、文化庁が忖度して申請を受理したということだろう。直接に承認しろ、と言わなくとも「あれはどうなっているかね」と言っただけで、官僚組織としては大臣が催促していると忖度する。


 私が関わったゴルフ場の開発申請の通り、受理したら上に上がる。お中元お歳暮の効果で上の人々はどういう申請かを承知している。統一教会は当然、安倍氏か下村氏か知らないが、統一教会との繋がりが強く、名称変更の申請が何事もなく受理され、審議官が反対しても許可されることになったのだろう。日本の保守とは一体、何なのだろう。(常)