安倍派を中心に自民党議員が、旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)とズブズブの関係になっていることが、次々に暴露されている。が、そんななかで唯一(?)、統一教会との関係が伝えられなかった岸田文雄首相周辺にも統一教会との関係が露呈している。『週刊文春』が報じたもので、岸田首相の熊本後援会「熊本岸田会」の会長である中山峰男崇城大学長が、統一教会系の「日韓トンネル推進熊本県民会議」の議長を務めている、と報じたのだ。


 早速、崇城大の中山学長は、多くの政治家と同様、「統一教会との関連はまったく認識がなかった」と言い、県民会議の「議長を辞任した」と発表した。冗談じゃない。「日韓トンネル」とは、統一教会が資金集めの道具として考え付いたもので、かつて新聞紙上でも取り上げられていたはず。ちょっと調べればわかることだ。


 しかし、私自身、久しぶりに「日韓トンネル」という言葉を聞いて正直驚いた。日韓海底トンネル話は、1981年に統一教会の「教主」の文鮮明氏が韓国・ソウルで「科学の統一に関する国際会議」と称するものを開き、その席で日韓海底トンネル建設構想を提唱したのが始まりである。


 それは日本を起点に日韓海底トンネルで韓国に行き、さらに中国から旧ソ連内を通りヨーロッパに至る国際ハイウェイ構想で、手始めに日韓トンネルを建設する、という内容で、工事費は3兆円とされていた。そして翌1982年に「(国際ハイウェイプロジェクト)日韓トンネル研究会」が設立され、統一教会の資金集めが始まったのだ。


 当時、この統一教会が日韓トンネルを道具にした資金集めを取材したことがある。記事を執筆したのは先輩で、私はその取材を担当しただけによく覚えている。日韓トンネル研究会の事務局長なる人物を取材すると、「トンネルができれば日韓両国が仲よくなる」なんていう話には呆気にとられた。


 地続きなのに韓国と北朝鮮はいがみ合っているではないか。ヨーロッパでは地続きの国同士が永年、戦争してきた歴史があるし、取材当時はベルリンの壁があり、地続きなのにわざわざ壁をつくり西ドイツと東ドイツが睨み合っているではないか、と笑ったものだった。


 それはともかく、統一教会が設立した日韓トンネル研究会には日本の著名人が名を連ねていた。設立総会では呼びかけ人代表として元立教大学総長の松下正樹氏が挨拶し、来賓には当時、自民党最高顧問だった安井謙参議院議員以下、日韓議員連盟に名を連ねる国会議員が駆け付けた。役員には錚々たる有名人の名前が登場していた。


 記憶では、会長は佐々保雄北海道大学名誉教授で、理事には紅林茂夫国際経済研究センター理事長、清水馨八郎千葉大学教授、景山哲夫近畿大学長……といった著名人たちだった。岸田首相の後援会長を務める崇城大の中山学長が日韓トンネル推進熊本県民会議の議長になっていてもおかしくはない。東京では崇城大学(旧熊本工業大学)の名前を知っている人は少ないが、九州地域選出の自民党議員が研究会設立総会に駆けつけたくらいだし、大いに名前を売るチャンスだったかもしれない。


 ところで、お気付きの人もいるだろうが、日韓トンネル研究会に名を連ねる多くの有名人は、自民党の国会議員と文系の大学教授たちだ。これは私見だが、「関門トンネルや青函トンネルが掘れたのだから、日韓トンネルも掘れるだろう」くらいにしか考えない人たちなのだ。理系の人なら「対馬海峡にトンネルなんて本当に掘れるのか?」と疑問を感じてしまうだろう。だからこそ、統一教会は技術的知識を持ち、疑問に感じない文系の有名人をおだてて役員に担ぎ上げたのだろう。統一教会の狡さ、有名人を利用する手法が透けて見える。


 ちなみに、新聞でも一部報道されているが、日韓トンネル構想なるものは戦前の旧帝国陸軍が大東亜共栄圏構想に基づき、日本からヨーロッパに至る大鉄道計画を作成したことに始まる。旧陸軍の依頼を受けた旧鉄道省は日韓トンネルをつくれるか調べるために昭和16~17年に対馬海峡で弾性波調査、ボーリング調査を行なったという。むろん、太平洋戦争が厳しくなり、調査どころではなくなったのは言うまでもない。


 戦後は、大手建設会社の大林組が机上のプランとして検討したことがある。同社によれば「PR誌の編集企画として難問の大土木事業や巨大建造物構想をいかにしてつくるかというテーマを立て、設計技術者を集めて机上のプランをつくり、それをPR誌に載せるんです。その企画のひとつに東京からロンドンまでハイウェイをつくるとしたら、どういう風につくるか、というテーマがあった。そのなかの最大の難問が日韓トンネルです。といっても、実際の受注に向けた設計ではない。昼休みや土曜日の午後(当時は土曜日も出勤だった)に集まって楽しむ企画ですから、戦前の旧陸軍と旧鉄道省が選んだコースが最善と仮定して机上の研究として設計してみたんです。工事費も一応、3兆円と算定した。もちろん、設計者たちの遊びです」と言っていた。


 ところが、大林組のPR誌が発行されてから1年ほど経ったとき、突然、統一教会の日韓トンネル構想が出てきたのだ。工事費も同じ3億円であることからも、統一教会の日韓トンネル構想は大林組のPR誌のパクリだったのだ。当時、大林組は「特許を取ったわけではないから文句を言うわけにもいかない」と呆れていた。


 で、実際に日韓トンネルは実現できるのかと聞いてみると、「単なる技術者の遊びです。対馬の沖合には落差が数百メートルもある断層があり、地盤も軟弱個所がある。実際につくろうとしたら、海底調査だけでも10年以上、いや、20~30年はかかるでしょう。工事費だって3兆円ではとても済まない。膨大な費用がかかるでしょう」という話だった。


 統一教会が日韓トンネル研究会に理系の著名人を入れないこともわかるだろう。理系の著名人を入れると、日韓トンネルがパクりものだとわかってしまいかねない。要は、日韓が仲よくなる事業だと語り、著名人をおだてて集め、その著名人の名前を使って統一教会が資金を集めるのが目的なのだ。当時、霊感商法や集団結婚式が社会問題になっていたことから、日韓トンネル構想を持ち出した集金方法なのである。


 そのころ、週刊誌だけでなく、新聞の社会面でも日韓トンネルの話が取り上げられていたし、統一教会の構想だとも伝えられていた。中山崇城大学長はもちろん、岸田首相も「日韓トンネル構想が、統一教会と関係があるとは知らなかった」などというのは真っ赤なウソだろう。それともバカなのか、と言うしかない。(常)