シルバーセックスや遺言・遺産相続など終活のアドバイス、昭和期アイドルの懐旧企画など、シニア世代向け「セピア色の読み物」で全編埋め尽くし、社会派のニュース報道から事実上撤退した――。過去数年来、そんなふうに受け止めていた週刊ポストだが、ここに来て誌面構成が「社会派」にぐっとシフトした。力点を置くメインは国葬と旧統一教会問題だが、果たしてこの変化は「たまたま2~3号」に限られたものなのか、それとも「シルバー路線のマンネリ化」を打破しようとする根本的な路線改革か、その判別はもうしばらく誌面を見なければ何とも言い難い。


 今週号はとくに国葬および統一教会問題で計6本、20ページ近いボリュームの巻頭特集を構えている。「総力検証」と銘打ったトップ記事『安倍元首相国葬問題「血税からの香典」』のほか、野末陳平、下重暁子、玄侑宗久の3氏による『重鎮たちの「国葬反対」声明』、元NHK記者・相澤冬樹氏による『赤木雅子さんが銃撃事件前日に安倍元首相に手渡していた一通の手紙』、『自民党調査が“隠ぺい”した旧統一教会汚染33議員』『全国の地方議会に広がる旧統一教会ズブズブMAP』と続き、私がとくに引き付けられたのは特集の6本目、『沖縄自民は旧統一教会汚染の“最前線基地だった”』という沖縄県知事選のルポだった。


 筆者の横田増生氏はかつてユニクロへの長期潜入取材のため、自らの戸籍名まで変える手続きをしたツワモノだ(潜入ルポは週刊文春で連載した)。今回の沖縄県知事選は、反辺野古の現職・玉城デニー氏に自民系の前宜野湾市長・佐喜眞淳氏が挑み、敗れた戦いだが、佐喜眞氏は台湾で行われた統一教会系の「既成祝福」という既婚者信者のイベントに出席するなどした「濃厚」な関係者だ。記事によれば沖縄の自民党では、7月の参議院選で敗北した新人候補のほか、現職の国会議員も4人中3人、県議会では19人中10人が統一教会と関わりを持ち、《その汚染の割合は、自民党の国会議員の“全国平均値”より高い》という。


 正直、記事内容に期待したほどの「深さ」はなかったが、かつて年間半分の日数を割き、現地で取材を重ねてきた者として「さもありなん」という印象だ。もともと沖縄には、米軍基地への賛意を声高にアピールする人はほとんどいなかった。存在したのは基地への「反対派」と「あきらめ派」の2タイプだ。後者のスタンスは「基地の撤去・削減が実現できるなら実現してほしいが、どうせ沖縄の声は国に届かない。ならば補助金などでその対価を政府からもらおう」というものだった。


 ところが過去10年ほど、沖縄の基地容認勢力にも本土の右派同様、激烈な言葉で基地反対派を非難・攻撃する人々が現れた。その中心は、旧統一教会関係者や日本会議の中枢部にも少なくないかつての生長の家信者、そして目下、最大の宗教勢力として「反・反基地運動」を牽引する幸福の科学の信者たちだ。消極的な基地容認派が大部分だった沖縄の保守層に、攻撃的な「宗教右派」の一群が台頭したのである。産経新聞や月刊Hanada、Willなどの右派メディアに頻出する沖縄の「右派市民」は、その多くがこれら宗教関係者で、一般人はあまりいない。横田氏にはさらなる「潜入」で、宗教右派と急接近しつつある「沖縄自民の実態」を解き明かしてほしい。


 週刊ポスト最新号の社会派記事は上記の6本だけではない。『五輪汚職角川歴彦逮捕!そして東京地検特捜部が迫る森喜朗』『幻冬舎・見城社長の勧告に賛同の声「角川歴彦会長はなぜお辞めにならないのか」』『「金大中拉致」「朴正熙夫人銃殺」いま明かされる総連と民団の熾烈工作』『渡辺恒雄「極秘入院4ヵ月」ドン不在の風雲急』といった記事も盛りだくさん。近年の感覚で「ポストらしい記事」は『死ぬまで歯を守り抜く』と銘打った歯周病特集しかない。ポストはいったいどうしてしまったのか――。減り続ける一方のジャーナリスティックな媒体に、珍しく「Uターン参戦」する雑誌が現れた。もしそういうことならば、個人的にはうれしい限りである。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。