今週の週刊誌報道で最もインパクトがあったのは、フライデーの『「信者向けネット会議」で明かされた“教団のいま” 旧統一教会田中富広会長がもらした本音に幹部も驚愕 「私の実家は霊感商法商品だらけ」』だろう。8月19日に行われた教団内部のネット会議の場で、田中会長は「教団として過去も現在も霊感商法をやっていない」という公式見解を改めて強調し、「『教会は霊感商法をやっていました』と言った瞬間に、今までの裁判(での教団側主張)が全部ひっくり返ります。(略)『やってなかった』としか言えない」と釈明した。しかし、その言い回しは、教団の「関与否定」があくまで組織防衛のための「建前」にすぎないことを、図らずも示すものだった。
この記事は、ネット会議の「音声データを独占入手」して書かれたものだという。音声録音もすでに公開されている。おそらく編集部は、教団の内部関係者に情報源をゲットしたのだろう。振り返ればこの2ヵ月半、テレビや雑誌の統一教会報道では、過去20年分ものデータの蓄積があるフリー記者・鈴木エイト氏の情報提供に依拠する部分が目立っていた。だが、今回の文中には「(田中会長の発言内容に)率直に驚きました」というエイト氏の談話もあり、少なくとも彼の力は借りていない。
同誌の版元の講談社と言えば、その昔、文藝春秋と並んで取材記事に重きを置く『現代』を看板雑誌としていたが、出版不況のなかこの月刊誌は08年に廃刊。週刊現代もニュース報道の戦線を離脱して「シルバー読者向け終活・健康雑誌」に衣替えしてしまった。こうしたなか、水着のグラビアで売る写真誌のフライデーが社会派のスクープを放ったのは興味深い。もしかしたら、フライデーには、かつて現代系で活躍した「残党」がいて、報道への意地を見せているのかもしれない(有田芳生氏によれば読売テレビ『ミヤネ屋』でも、そういったベテランスタッフが頑張っているらしい)。
今週、週刊文春のトップは『岸田首相に国葬を決断させた統一教会“弁護人”』。右派論壇の文化人・小川榮太郎氏にスポットを当てる変わった切り口の記事だった。民主党政権の末期、安倍晋三元首相を称える著作を出し、一躍脚光を浴びた文芸評論家。18年には月刊誌『新潮45』で、杉田水脈参議院議員による「LGBTは生産性がない」とする論文が炎上した際に、小川氏は彼女の擁護のためジェンダーの多様性を皮肉って「痴漢症候群の男性の触る権利を保障すべきではないか」と次の号に書き、火に油を注いで同誌は廃刊に追い込まれた。安倍元首相と近しい元TBS記者による準強姦被害を告発した伊藤詩織さんを「嘘つき呼ばわり」する記事を月刊『Hanada』に繰り返し書いたりもした。
今回の文春記事で驚かされたのは、このように右派論壇においても相当にエキセントリックな存在の小川氏が、リベラルな保守本流・宏池会を母体とする岸田首相にとって「ほぼ唯一の右派ブレーン」だった、という指摘だ。2人は安倍氏の紹介で知り合った間柄だといい、小川氏は安倍氏が殺された数日後に首相に電話をかけ「国葬」を進言、岸田首相は間髪を置かず国葬を正式表明したという。
今週のサンデー毎日『渦中の萩生田光一・自民党政調会長を直撃! 旧統一教会との蜜月を糺す』という記事で、萩生田氏はジャーナリスト・田原総一朗氏から「岸田氏は(国葬にすることで)安倍派にゴマをすった」という見方を示されて、「保守派に対しての配慮はあったかもしれませんね」と答えている。だとしても、「保守派とりこみ」をにらんだ唯一の右派ブレーンが「あの小川氏」では、事態の紛糾は最初から目に見えていた。今回の文春記事で浮かぶのは、岸田氏の「人を見る目」への決定的な疑念である。せっかくの「聞く力」も、その相手を間違えると命取りになる。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。