9月11日(日)~9月25日(日) 両国国技館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」より)


 角界最年長の玉鷲(前頭3枚目)が3年前に続いて2度目の優勝、横綱が休場し2大関負け越しの場所を盛り上げたが、立ち合いの変化が多く熱戦も少ない寂しい15日間で、世代交代の遅れを感じた。


強行出場が裏目に出た横綱


 6日目の宇良(前頭3枚目)戦。曲者を警戒して緩く立った横綱、距離を取りながらまわしを伺う。離れて様子見しながら一進一退するも宇良のしつこい動きに苛立ったのか、首を押さえつけた。また離れてにらみ合い。宇良が出たところを引いて懐に入れてしまった。その後はなす術なく、そのままズルズル後退し土俵を割った。


<6日目/照ノ富士―宇良>


 横綱に駆け上がった頃の力強い出足がなくなっている。古傷の膝が悲鳴を上げている。1場所だけの休養では足りず、強行出場がそもそも無理だとわかった一番だった。


前半を盛り上げた北勝富士


 前半は北勝富士(前頭8枚目)が盛り上げた。中日に相撲巧者の遠藤(前頭6枚目)を押し出して勝ち越しを決めると、翌日はこれまたしぶとい若元春を押し倒して9連勝。迷いのない押し相撲で星を伸ばした。しかし、ここからが経験値の低さが出て3連敗。後半は1勝5敗と失速して三賞も逃してしまった。


<9連勝したが後半失速した北勝富士>


 埼玉栄高校から日体大と進んだ相撲エリート。入門同期に御嶽海、翔猿(前頭筆頭)は高校、大学を通じての相撲仲間。制限時間前には額に右のこぶしを当てて目を閉じ、集中力を高めるのがこの人のルーチン。あたかも神に祈る敬虔な信者の如きである。勝っても負けても相手の力士にきちんと一礼し、支度部屋に帰る通路では、場内整理に当たる親方に必ずお辞儀する好漢でもある。好感度抜群だけに一度は賜杯を抱かせたいと思わせる関取である。


あとは日本語の勉強


 玉鷲は37歳で2度目の優勝。文句なしである。今場所は師匠(片男波親方)が語っていたように、力の抜き方を覚えたのが奏功したのではないか。10日目の御嶽海戦。大関が勢いよく出てきたところをいなし、はたいてその突進力を削ぎ、俵に足を残しながら上手を狙ってきた御嶽海の左肘を右下手で跳ね返すように遮り、最後は頭を押さえつけながら己が右肘を回してすくい投げた。相手が前に出てこようとするその力を利用した実に見事な取り口だった。


<10日目/御嶽海―玉鷲>


 立ち合いから一気に押し込んでの電車道が玉鷲の真骨頂だが、ときによっては相手の力を利用して勝負を決めることができれば、40歳まで幕内で取れるのではないか。あとは日本語がもう少し上手くなることだろう。師匠からもこの点を指摘されている。日本語が上手く話せないので、質問されても笑ってごまかすことがあり、笑顔禁止令が出ているそうだ。


 それはまぁご愛嬌だが、日本人以上に日本語が上手い元横綱鶴竜とまではいかなくても、白鵬くらいには話せるようにしてほしい。モンゴル力士では照ノ富士、豊昇龍は上手いほうだが、霧馬山が苦手の部類。聞くことはできても話すのが苦手のようだ。上手い力士は日本の高校に通っていたという共通項がある。相撲部屋に直接入門する外国人力士は、そのぶん習得が遅れるのかもしれない。


新規定を適用し、大関の地位を高める


 10日目に横綱が休場した時点で、正代は1勝9敗、御嶽海は3勝7敗。貴景勝が6勝4敗。貴景勝と御嶽海は結局対戦しなかった。先場所も大関戦が一番なかった。大関陣がいかに優勝と無縁であるかを証明している。これだけ弱いとニュースにもならない。取組後にNHKの殊勲力士インタビューがあるが、殊勲でも何でもない。


 場所前、正代は「ここらへんで……」などと能天気なことを言っていたので、大負けするのは目に見えていた。御嶽海も威勢のいい語り口はなかった。正代は立ち合いで足が一歩も前に出ていないし、御嶽海はまわしを取られるとすぐ諦める。貴景勝も勝ち越しがかかる12日目で立ち合いに変化。6日目に玉鷲に食らったのを意趣返ししたようで、実に見苦しかった。


<負けてうな垂れる大関2人>


 負けて当然。稽古をしていないのがミエミエである。陥落しても前頭の6枚目あたりをウロウロしていれば給料はもらえるし、タニマチは可愛がってくれる。栃ノ心、高安がそうだし、その前は琴奨菊、豪栄道とダメ大関は吐いて捨てるほどいる。悪しき前例がこれだけいるのだから、堕落するのは当たり前だ。


 陥落後に10勝挙げれば復帰という規定を廃止し、「陥落後3場所で30勝以上しなければ引退勧告」くらいに厳しくして若手の台頭を待つしかない。このままの規定で運営していけば短命大関が続出する。番付が崩壊することは即ち角界の終焉を意味する。少し厳しいが、この新規定をこの2人に栃ノ心、高安は「2場所20勝以上」として来場所から適用したらどうか。こうでもしない限り大関の地位が泣く。


 若手の台頭は順調かというと、そうでもない。若隆景(関脇)は初日から3連敗して盛り返したが、その3敗がいけない。サラブレッドの琴ノ若(前頭2枚目)は、もう少し昇進スピードを上げないと名がすたる。豊昇龍(関脇)は土俵態度が悪くてチンピラだし、大栄翔(関脇)は押し相撲でダメ大関の後継者にならないか不安である。逸ノ城(小結)は先場所の優勝で目が覚めたかと思ったが、まだ寝ている。元大関・朝乃山の復帰が待たれる。(三)