30年以上前の統一教会報道を調べていて、驚くべき記事に遭遇した。若き日の有田芳生氏が朝日ジャーナルに書いた『しぶとく生き残っていた「地獄」の金集め 霊感商法は闇にうごめく』(1988年4月1日号)という記事だ。当時も現在も霊感商法への直接関与を否定する統一教会だが、この87~88年当時はそのあまりに悪質な商法が社会問題として批判されたため、多宝塔や壺などの「商品」を韓国から仕入れていた教団関連企業が「誤解を生ずる物品販売は禁止する」という「自粛宣言」を一度は出すハメになっていた。


 ところが、この商法による被害はその後も継続した。不特定多数への物品販売から宗教活動に伴う販売・献金へと姿を変え、しかし実際には同じ教団信者らが似たような商品を売り続けた。ここで出てきたのが「霊石愛好会」なる先祖供養のグループ。もちろん、統一教会の存在を隠すための「カモフラージュ」と見なされたが、驚くべきことに北海道ではこの「愛好会」が「天地正教」という仏教系の宗教法人に正式に認証されたのだ。有田氏は続報記事『天地正教の正体』でさらにその内実を暴いている。


 キリスト教系を名乗る統一教会でありながら、霊感商法の実施主体として仏教の教団まで立ち上げていたのである。有田氏はこの記事に『カネ集めのためには仏教にも化ける 統一教会信者のこの奇妙な“信仰”』というサブタイトルを付けている。まさしくその通りだ。そんな話を知ると、今まさに議論されつつある「カルト規制と信仰の自由との兼ね合い」という議論そのものが無意味に思えてくる。キリスト教にも仏教にも簡単に看板を付け替える集団なら、まっとうな宗教という前提そのものが大間違いなのだ。


 現在の週刊誌はここに来て「ネタ枯れ」になったのか、週刊新潮や文春にも統一教会の大きな記事は見当たらない。新潮はワイド特集に『統一教会の申し子 「山際大臣」支援者からも「辞めろ」コールを恐れ説明会直前逃亡』という1本を載せただけ。かたや文春は、『長男、妻、愛人 岸田ボンボン政権は私物化の総合商社だ』というトップ記事で政権批判は続けるが、統一教会関係ではこちらも『国葬反対は「8割は大陸から」自民党暴言県議は文鮮明葬儀の“実行委員”』という「小ネタ」1本だけだった。


 文春で目に留まったのは『玉川徹“逆張り傲慢男”の研究』という記事だ。テレ朝『羽鳥慎一モーニングショー』の名物社員コメンテーター・玉川氏の「失言問題」を取り上げている。安倍元首相の国葬で菅儀偉・前首相が読んだ「感動的弔辞」に釘を刺すように「当然、これ電通が入ってますからね」とスピーチライターの存在を強調、実際にはこの件に電通がノータッチだったことがわかり、訂正と謝罪に追い込まれたのだ。しかし、玉川氏への批判・攻撃はこれでも収まらず、氏の番組降板が取り沙汰される状況にまでなっている。


 文春による玉川氏の記事は、「研究」という重々しいタイトルの割には「チクリ」という程度のソフトな批判記事だった。しかし、ネット上で玉川氏を責め続ける声を見ると、ほかにもゾロゾロ各番組にいる誤報コメントの常習犯、あるいはより責任の重いはずの政治家のウソを鷹揚に見逃すのに……と、そのあからさまな「二重基準」があからさまだ。結局は「誤報の対象者が誰なのか」という一点で彼ら批判者のスタンスはまるで変ってくる。


 今回は菅前首相。相手が悪かった、ということなのだろう。ここで思い浮かぶのが、7月に北村経夫参議院議員の元事務所スタッフが統一教会による組織的選挙応援について内部告発したときのことだ。テレ朝は他局に先駆けてこれを報じておきながら、直後に一転してこのニュースをアーカイブから削除、再視聴できないようにしてしまった。どこかから激しい抗議があったのか。


 この証言者は後日、他局では「菅さんによる(統一教会票の)差配だった」とも語っていて、テレ朝のドタバタ劇の背後には、菅氏サイドからの圧、もしくはテレ朝側の忖度があった可能性も囁かれるようになった。何しろ、あの鈴木エイト氏が「統一教会問題でまだ表に出ていない大物政治家がいる」と名指しする菅氏である。もしかすると、その周囲にはメディアからの批判を過剰に警戒するピリピリ感があり、玉川氏は不運にもその「虎の尾」を踏んでしまったのかもしれない。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。