ゴミの散乱したアパートに暮らす83歳の独居老人。月額約10万円の年金を受給しているが、家賃に6万円が消えるため、生活費は1日数百円。安いアパートに移ろうにも、引っ越しの費用がない。室内の電気は、料金滞納で止められたまま。暗闇の中で買い置きのそうめんを手探りで茹で、質素な夕食の支度をする……。 


 9月28日の日曜夜、NHK総合で、そんな高齢者の生活シーンから始まるドキュメンタリーが流れていた(NHKスペシャル『老人漂流社会“老後破産の現実”』)。独り暮らしの身としては“あすは我が身”のテーマではあったが、あまりの痛々しさに耐えきれず、途中でチャンネルを変えてしまった。 


 しかし、翌月曜日に発売された週刊現代をひもとくと、そこには「週現スペシャル」と銘打って、まさに同テーマの記事『「老後破産」200万人の衝撃』が13ページにわたって特集されていた。 


 どのようないきさつかは不明だが、現代とNHKの取材班が手を組んだ“連動企画”になっていた。国内に600万人いると推定される独り暮らし高齢者のうち、約半数は生活保護水準以下の所得しかなく、実際の生活保護受給者100万人を差し引いた残り200万人を《老後破産の状態にある人々》として、警鐘を鳴らすものだ。 


《大企業の部長職まで出世した人であっても、老後破産と無縁というわけにはいきません》 


 記事は専門家のそんなコメントを引き、認知症をはじめとする本人の健康問題や子供が起こした交通事故への対処など、さまざまな出来事が転落のきっかけになっている、と説明する。本来65歳以上の高齢者なら、ほぼ無条件で生活保護を受けられるのだが、多くの高齢者が自尊心からそれを拒み、極貧生活に甘んじているという。 


 週刊誌の主たる読者層はもはや、団塊の世代を中心とした壮年層である。筆者のような50男にも、身につまされる特集記事だった。ちなみに、この号の巻末には、懐かしい関根恵子のヌードが袋とじにされ、そこにもまた“ジジイ向け”のテイストが滲んでいる。 


 文春は、女優・宮沢りえに幼少期、継父と短期間、同居した過去があるとして、実母とその継父との間に生まれた“生き別れの弟”の独占告白を載せている。週刊誌らしい“発掘型”の芸能記事である。 


 朝日問題に関しては、もともと抑制的だった現代で、日本での騒動に冷ややかな欧米の論調が特集されたほか、識者34人の談話で7回目の追及企画を組む文春も、この「総集編」をもって、とりあえずバッシングの“打ち止め””とする構えだ。 


 ポストは、《朝日の虚報に隠された重大疑問をライバル大新聞さえ報じていない》として、原発事故と菅政権に関する検証連載を始めた。当時、野党議員だった安倍首相のメルマガを発信源とする「菅直人が海水注入を止めさせた」という事実誤認の情報をそのまま報道した読売・産経が未だに訂正記事を出していないことを追及している。 


 ライバル紙や雑誌のバッシングが、あまりに度を越えている、という感覚が徐々に広がってきたためだろう。朝日の知人によると、社に寄せられる電話は当初の批判一辺倒から、最近は激励のほうが目立つようになったという。 


 石原慎太郎・元都知事の「独占手記」を載せ、朝日攻撃を続ける新潮の出方は不明だが、それ以外の各誌に軌道修正の兆しが現れた背景には、ネタ切れという現実問題ばかりでなく、“潮目が変わった”という情勢判断もあるに違いない。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』(東海教育研究所刊)など。