プロ野球は10月31日、昨年に続く「オリックス―ヤクルト」の日本シリーズで幕を閉じた。新型コロナウィルスで開幕が6月下旬と大幅に延びた2020年、昨年は五輪開催の1ヵ月中断で11月28日に終幕したが、今年はようやく旧に復した。投手力を前面に出したオリックスが雪辱、26年ぶりに制した。


(日本シリーズを制して胴上げされるオリックス中嶋聡監督)


コロナで急失速も三冠王がけん引


 セ・リーグは、ヤクルトが開幕から好調で5月から7月にかけて14カード連続勝ち越し、交流戦でも優勝。早々とマジックを点灯させるなど圧倒的な強さだった。しかし、夏場に主力が相次いでコロナの陽性者となり失速、マジックは点滅を繰り返した。2位のDeNAが一時は5ゲーム差にまで急追したが、主砲の村上が3冠王を取る大車輪の活躍で盛り返して連覇を達成した。


(9月25日、ヤクルト1-0DeNA、神宮)


 DeNAは前半苦しい順位が続いたものの、今永・大貫の左右エースが11勝ずつ挙げて2位に躍進した。ブルペン投手陣は充実していたが、ここぞというときの得点の取り方が拙く、試合巧者のヤクルトに叶わなかった。開幕前に監督が今季限りの辞任を明言した阪神が3位。二言目には「俺らの野球」を口にする矢野監督に対し、一部のファンから「自チームのことだけ考える采配で、相手を研究していない象徴のような発言」と指摘されていた。辞任が決まっているチームの後塵を拝した巨人・広島・中日の3球団はコメントのしようがない。阪神とて5割を切るAクラスだから、上位2チームを除けば勢いのなさが際立つ。


同率首位 対戦成績で明暗

 

 パ・リーグは、首位にソフトバンクとオリックスが同率で並ぶ異常な大接戦だったが、対戦成績(オリックスの15勝10敗)で1位が確定した。ソフトバンクは9月の敵地3連敗がすべてだった。最後の2試合(西武、ロッテ)はいずれも若手投手が手痛い1発を浴びて戦況が一変。最後のゲームとなった千葉では、救援した投手が泣き崩れた。


(10月2日、ロッテ5-3ソフトバンク、千葉マリン)


 オリックスは、昨年の終盤に敵地でのロッテ戦で3連勝してゲーム差なしに迫り、首位奪還に弾みを付けたが、今年も同じ構図。ホークス3連戦を3連勝し連覇を勝ち取った。エース山本と主砲吉田、投打の主軸が活躍するチームは大崩れしない。


 3位の西武は8月下旬には首位に浮上したが、4番山川の不振と救援陣の疲労で元気がなくなり急降下。楽天は開幕からの貯金を維持できず、ベテラン先発陣に頼る戦略に無理があった。ロッテは主軸を打つ外国人選手2人(マーチン・レアード)がさっぱりで得点能力不足。ビッグボスの日ハムはそもそも圏外だった。


影のMVPはワゲスパック 闇の選考基準

 

 日本シリーズは予想通りの接戦になったが、村上の不振とオリックス指揮官の采配で雌雄が決した。初戦はマウンドが低い神宮球場に合わなかったオリックス山本が打ち込まれた。これを見た中嶋監督は第2戦に先発4、5番手と目される山崎福也を起用した。明大出の左腕は6大学時代この球場に慣れ親しんでいる。ゲームは引き分けたが、結果的にこの抜擢がシリーズの行方に大きな影響を与えた。


 2勝2敗1分で迎えた神宮での第6戦も先発は山崎。ここでも第2戦の4回無失点に続いて5回無失点と好投し王手をかけた。山本が第1戦で脇腹を痛めた影響でシリーズ登板を回避しただけに、先発試合で1勝1分の山崎は大いに株を上げた。


 ヤクルトは主砲村上の不振が響いた。とくに最後の第7戦、村上は5回にバント処理を巡って実質的にダブルエラーをして大ピンチを招いた。失策の前には見逃し三振、投ゴロと凡退しており、シリーズ序盤にオリックス投手陣が見せた内角攻めを意識しすぎて外角の目付がおろそかになり、バットが出てこなくなっていた。守っている間にも引きずっていたのだろう。明らかに集中力が不足していた。


(10月30日、オリックス5-4ヤクルト、神宮)


 オリックス26年ぶり日本一の原動力はブルペン陣。とくに守護神役を務めたワゲスパックの鉄腕が冴えた。ペナントレースでは5月に来日すると先発ローテに入ったが、スタミナ不足で制球を乱して試合を壊すことが少なくなかった。日本シリーズでは第2戦に土壇場で同点3ランを浴びた抑えの阿部が公式戦からの疲労も重なり精彩を欠いていた。ここで指揮官は阿部を抑えから外し、第1戦で村上に被弾された開幕時からのストッパー・平野も9回登板を避けて中継ぎに配置転換した。


 代わって最後を任せたのが、ワゲスパック。1勝2セーブと完璧な仕事をして誰の目にも当然MVPと思われたが、杉本が受賞した。昨年はヤクルトの中村捕手が地味ながらMVPを取り良い評価だったが、今年は失望した。ルーキー助っ人に気の毒である。


(1勝2Sを挙げたオリックスのワゲスパック)


「おーん」岡田節さく裂 監督交代は4球団


 来季も両リーグで新しい指揮官が登場する。注目は阪神。岡田彰布氏が2006年の阪神、2012年のオリックス以来の監督就任である。あの独特な語り口が堪らない。こんな調子だ。


「まぁ、守備言うても内野手やからね、おーん。あそこの二遊間のポジションが一番ね、その辺は一番迷うのは二遊間の人選かな、おーーん」


 そのほか広島の新井、パ・リーグでは西武の松井、ロッテ吉井。この3人は初の監督業になる。昨年の立浪は根性論、新庄のパフォーマンスといずれも不発に終わった。野球のない長い季節が始まった。5ヵ月先が待ち遠しい。(三)