「何でもいいから仕事を回して」と、懇願しまくっていたどん底の困窮時代にも、堅ブツのライターと思われていたせいか、週刊誌から芸能ゴシップの発注を受けたことはない(私的なルートから相談を受け、関わることになった1月のヤクルト・バレンティン選手の夫婦バトル報道は例外)。基本的に芸能報道に関しては、筆者はその実態を知らない。 


 昔からバラエティー番組では、「週刊誌はウソばっかり」というタレントの不満がよく聞かれる。筆者の知る社会派ネタの取材現場では、週刊誌といえども新聞やテレビ記者と遜色なく、きちんと取材する人が多いのだが、芸能畑での記者活動はまた、違った雰囲気なのだろうか。 


 で、今週の文春のトップを飾ったのは『巨人阿部慎之助が堕ちた“アイドル女優”不倫地獄』なる記事。いかにもおどろおどろしいタイトルだが、実際、この記事では阿部選手の“相手女優”の住む世界が、相当に深い闇として描かれている。 


 記事によれば、若手女優は「第二夫人」と呼ばれるほど、周囲にその存在を知られており、阿部選手との交際は2年以上続いていたということだが、数ヵ月前、とある警察沙汰がきっかけで、ふたりの関係に距離が生まれたという。 


 この女優と大手所属事務所幹部のトラブルで、いわゆる枕営業を続けさせられることに腹を立てた彼女が、その実態を密かにビデオ撮影し、事務所との対立を経て、警察に訴え出る事態にまで至ったのだという。 


 結局、被害届は取り下げられ、真相は明るみに出ず終わったが、一連の騒動で芸能界は“震撼”し、阿部選手も動揺して「練習にも身が入らない様子」に追い込まれたとのこと。記事には、下着姿の女優と事務所幹部が同室する証拠写真も掲載されている。 


 どこからどう、証言や写真を入手しているのか。筆者には皆目見当がつかないが、記事からは相当にディープな取材力が感じられる。 


 新潮は巻末グラビアで、もう少し“微笑ましいゴシップ”を載せている。文春で名物対談を続けている阿川佐和子さんと“白髪紳士”が連れ立って家に入ろうとする2ショット写真だ。 


 老紳士は長年の友人で、パソコンに明るいため、この日はスマホの設定をしてもらった。写真説明は、そんな阿川さん自身の弁明を紹介したうえで、ハイハイ、そうですか、とでもいうような優しさで「末永くお幸せに」と冷やかした文章で締めくくられている。 


 何にせよ、当事者にしてみれば、要らぬお節介であり、下世話な覗き見趣味でもあるわけだが、隣近所との井戸端会議もないきょうこの頃、有名人のゴシップはさまざまな人間模様を知りたがる人々の根源的な欲望に応えている。 


 ポストには『潰れゆく中小企業の悲痛な叫びを聞け「アベノミクスを恨みます」』という記事、週刊朝日は『「現場発」アベノ残酷物語 安倍政治がコメを滅ぼす』という特集を組み、急激な円安や“猫の目農政”に振り回され、窮地に追い込まれる「現場の悲鳴」を取り上げている。 


 華々しく“デフレ脱却”を掲げて誕生した現政権だが、タカ派的な政策にばかり力を入れ、肝心要の経済の雲行きが、かなり怪しくなっている。国内の不満を強硬な対外政策で減圧する、そんな負のサイクルは御免蒙りたい。

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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』(東海教育研究所刊)など。