東京都は2017年から、都内に拠点を置く中小のものづくり企業やスタートアップ企業など(SMEs:Small and Medium Enterprises)を対象に、医療関連機器分野では世界最大級の国際見本市「MEDICA(メディカ)/COMPAMED(コンパメッド)」への出展を支援している。過去2年はコロナ禍で中断を余儀なくされたものの、今年は東京パビリオンで14社のグループ展示を行う(11月14日~17日開催)。


  東京都はなぜ、SMEsの医療関連機器産業への参入や海外展開を支援するのか。東京都産業労働局商工部の福塚英雄氏(海外販路開拓担当課長)に聞いた。



■長い歴史で培った対面の場の利点

 

 「MEDICA/COMPAMED」は1969年に始まった医療・ヘルスケア関連技術分野の総合見本市だ。MEDICAは主に医療・ヘルスケア、美容関連の製品やサービスを、COMPAMEDは医療関連機器の技術や部品を扱う。会場となるメッセ・デュッセルドルフのホール面積は262,000平米(東京ドームの5.6倍)を誇る。コロナ禍直前、2019年のファイナルレポートで概数を見ると、出展者(exhibitor)はMEDICA5,500、COMPAMED800。ビジター121,000人の3分の2がドイツ国外の170カ国から来場し、かつ意思決定権を有する立場の人が9割超を占めた。日本からの出展者数は2010年以降ほぼ右肩上がりで、同年は197(全体の3.1%)だった。その後20年はオンライン開催、21年はハイブリッド開催だったが、22年はいよいよリアル開催に戻る。


 企業にとってMEDICAへの出展は、世界の医療機器市場における最新動向の把握海外での新規代理店発掘とともに、来場する各国専門家からのフィードバックが得られることで、世界市場における自社製品・技術の立ち位置の把握に役立つ。


 ドイツ産業展示・見本市委員会(AUMA)は2018年11月に同国内の代表的企業500社に「デジタル形式に勝る見本市の利点」について調査した(複数回答)。その結果、展示側の立場からは「最適な担当者を配置できる」95%、「製品のプレゼンテーション中に臨機応変に対処できる」82%、「顧客に(製品等)を体験してもらえる」61%などの項目が支持された。一方、訪問側の立場からは「担当者と直接コンタクトできる」99%が最多で、「買う義務なく製品を試せる」は49%だった。


■東京都の海外販路開拓担当課長に聞く


 「MEDICA/COMPAMED」への出展は、東京都の「成長産業分野の海外展示会出展支援事業」の一環として行われている。支援内容は❶出展にかかる負担の軽減、❷ビジネススキル・ノウハウ等のサポート、❸技術面のサポート、❹商談のセッティング、❺現地ネットワーク構築・交流等のサポート、❻出展後のサポートである。

この事業を開始した背景や、支援事業の特徴と今後について、福塚氏に聞いた。


【成長分野にフォーカスして海外需要を取り込む】

―まず、この事業を開始した背景は。

 「海外の需要を取り込む」しかも「成長分野で」という二本柱が、事業開始の背景です。

 われわれ産業労働局は、都内の産業の発展を目指して施策を打っています。大きなコンセプトの一つとして、「人口減少に伴い国内市場が縮小していく懸念がある中で、海外の旺盛なニーズを都内の産業の成長に結びつける」ということがあります。そのためには海外展開が必須ですが、市場の成長が見込まれる分野で取り組みをする方が、効果が高いだろうと考えました。今後、日本のみならずアジア・新興国を含め世界に高齢化の波が押し寄せる中で、ますます需要が高まる医療関連機器産業はまさに成長分野です。


―2017~19年の初期3年で得られた成果や課題は。

 事業の成果については「現地でどれだけ商談を持てるか」を重視しています。成約に結び付くかどうかは条件次第ですし、商談は展示会でまず互いに知り合って、徐々に内容を掘り下げた上で成約に至る例が多いからです。初期3年については、各年、支援企業全体で少なくとも350件、多い年には1,000件ほど商談の機会を確保しました。ご同行いただいた企業の方々には海外展開につながるチャンスを提供できたと考えています。また、われわれは商談数を把握するとともに、商談のその後の状況のヒアリングも行っています。


【“あと一歩”の企業の背中を押す】

―今年の東京パビリオンで展示を行う企業の選定ポイントは。

 基本的には募集要項の「審査の視点」を押さえていただきたいと思います。その製品・技術が展示会にマッチしているか(展示会との整合性・適合性)海外製品と比べて独自性・優秀性があるか、実際に優れていたとしてもEUやドイツの市場で受け入れられるものか(市場性)応募企業が海外展開をどう具体的に思い描いているか(実現性)。さらに、本事業での支援の必要性について見ています。

 こうした評価は東京都だけではできない部分も多いので、外部の専門家、例えば技術面が分かる人、ヨーロッパ等の市場情勢を知っている人、規格が分かる人などの協力をいただきながら審査しています。


今年の募集パンフレットにあった、医療機器関連産業への参入・海外展開に向けた「強い意欲」や「具体的な事業計画」の評価方法は。

 「強い意欲」については、熱意を実際の行動に移しているかを見ています。例えば、EUや米国の企業と取引するにはCEマーク(欧州地域内で販売・流通する工業製品がEU加盟国の安全基準を満たしていることを示すマーク)やFDAの認証を得ていないと、EUや米国内での流通が困難となることから、そもそも取引が難しくなります。そこで、海外の医療機器規制に対応する準備を進めているかなどについてもチェックします。

 「海外進出したいが具体策がわからない」段階の企業には、都として他にも海外展開の支援策を準備しています。そうした施策を使いながら足腰を固めていただければと思います。

 

【総合的な支援が東京都の強み】

―海外展示会出展支援以外の都の施策とは。

 海外展開総合支援の中では、例えば、商社OBや専門家を活用して、海外展開にどういう手法があるか、それに向けてどういう事業計画を立てるかの段階からサポートしています。こうした仕組みを利用し、しっかりと海外展開の方向性を固めた上で、海外展示会支援事業にもチャレンジしていただければ、われわれとしても嬉しいです。


―医療機器の海外展開支援については、国(経産省、中小企業庁、特許庁、厚労省)や日本貿易振興機構(JETRO)などによる各種施策がある中で、東京都の支援の特徴とは。

 都の中で完結できる仕組みがあることが最大の特徴かと思います。

 われわれは、東京都中小企業振興公社東京都立産業技術研究センター(都産技研)があります。公社は東京都知的財産総合センターも有しており、国内特許・国外特許を含めて対応しています。海外に輸出するにあたり技術の評価や試験が必要であれば、都産技研で対応可能です。

 申請を含め海外での認証取得だけでなく、商談や、(短時間・簡潔な言葉で相手に提案を伝える)ピッチでのビジネススキルなど、ソフト面のサポートもさせていただいています。


―「MEDICA/COMPAMED 2022」の出展予定者を国別に見ると日本は12位。「TOKYO」や「JAPAN」のプレゼンスはまだ保たれているのか。

 東京都としては、展示全体における日本のプレゼンスというよりも、支援した企業がしっかりと商談の機会を得て、それが契約に結び付き、都内産業の成長につながっていくことを第一に考えています。また、日本の製品・技術への信頼性や、他国にないきめ細かさなどへの期待は十分にあると感じます。


【支援効果の向上を目指す】

―支援事業で今後目指すことは。

 「MEDICA/COMPAMED」は、医療関連機器産業の関係者が最も注目する国際イベントですが、「少なくとも3年くらいは連続出展しないとなかなか成果が上がらない」とも言われます。一方で、われわれとしては少しでも多くの、可能性がある企業に出展していただきたいので、同じ企業の連続出展を支援する枠組みとはなっておりません。「支援の効果をさらに上げるためにどうすればよいか」が今後の検討課題です。


■海外展開を目指す企業の顔ぶれ

 今年の出展支援事業では、応募期間(3/29~5/13)→一次審査(書面。6/9をめどに結果通知)→二次審査(面接。6/15~21に順次実施)→最終結果通知(6月下旬まで)という流れで選定が行われた。11月の展示会に臨む企業は以下のとおり。その顔ぶれを見ると、過去5年以内に設立されたスタートアップ企業もあれば、50年以上の歴史を持つものづくり企業もある。

 「MEDICA/COMPAMED」は、“Where healthcare is going”というキャッチフレーズのもと、世界最先端の技術と製品を誇る展示者が集う。そこで、「TOKYO SMEs」がどのような成果、経験や気づきを得られるか、大いに注目したい。



[2022年11月10日現在の情報に基づき作成]

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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。