「スケジュール管理ができない」「空気が読めない」「誤字脱字や事務ミスが多い」「落ち着きがない」……。発達障害の人が苦手とする作業や仕事がある一方で、ASD(自閉スペクトラム症)の人たちの集中力など、はまれば人並以上の力を発揮する特性も知られるようになってきた。


 会社によっては適材適所で発達障害の人材を配置するケースもあるし、自ら特性を理解して転職する人も出てきた。コロナ禍で一気に広がってきたリモートワークをはじめ、多様な働き方も浸透してきている。


 しかし、発達障害を抱えながら合わない仕事に苦労していたり、自らが発達障害だと認識しないまま「周囲からひどい扱いを受けている」と悩んでいたり、といった人はまだまだ多数派だろう。


『発達障害と仕事』は、ASDとADHD(注意欠陥多動性障害)の当事者である著者が〈発達障害の人ができるだけストレスを溜めずに、無理せず、自分らしく働くための方法〉をつづった1冊である。


 著者が新卒で選んだ仕事は、なんとMR(医薬情報担当者)。コミュニケーションに難があることが多い発達障害の人にとって、営業職はもっとも向いていないと思われる仕事のひとつだろう(入社時点では診断されていなかった模様)。


 上司や先輩からは〈お前には人間の心がない〉〈常識が通じない〉〈宇宙人だろ?〉とひどい言葉を日常的に浴びせられていたという。今なら確実にパワハラだ。


 結果、うつ病を発症。精神科を受診してわかったのが、ASDだということだった。


 だからといって、沈みっぱなしでは終わらなかった。いわゆるビジネス書を読み漁り、〈周囲の人の間で正しいとされていることを徹底的に学〉んだ。併せて、ASD、ADHDの特性を理解し、強みを生かせそうなものを試した。


 著者は〈仕事と向き合うとき、最初に重要視するべきは「パターン化」〉だという。発達障害の人には臨機応変な対応が苦手なことが多いが、逆に〈起こった出来事の中からルールや法則を見いだして、それを記憶し、反復することは大得意〉。


 著者は「雑談」を工程と捉えて営業活動に組み入れたばかりか、雑談の内容や医師の機嫌の読み方、上司や同僚とのコミュニケーション……とありとあらゆる業務上の活動をパターン化した。


■「話が飛ぶ」を「アイディア力がある」に


 一般には不得手、マイナスと捉えられて特性も、使いようである。


「空気が読めない」や「非常識」も、〈ほかの人だと言いにくいことをはっきりと言うことができる〉〈「いや、 それについては知らないんです。教えてもらえますか?」と素直にはっきりと言ってしまう〉ことで、〈相手からの信頼感が高まる〉という面もある。


 明るく言ったり、後日フォローするなど、ひと手間かけることで印象はだいぶ変わるはずだ。


〈話が急に飛ぶ〉も、発達障害の人にはよく起こる現象だが、〈「自分が理解している状態」と「相手が理解している状態」に差があることに想像が及ばず、つい「自分の理解していることは相手も理解しているのだろう」と勘違いしてしまうから〉。


 少し丁寧に発想の経緯を説明できれば、〈アイディア力があって知識が豊かな人〉だと思われるようになる。


 諸刃の剣とも言えるのが、発達障害の人の〈過集中〉だろう。ひとつのことに集中するあまり、別の大切な予定や締め切りを失念したり、忘れ物をしたり。「仕事ができない」につながる要素も少なくない。


 しかし、〈最低限必要なものだけを持ち歩く〉〈情報管理はひとつのアプリにまとめる〉〈細かいタスクはまとめて秒速でかたづける〉……、さまざまな技法を駆使すれば、過集中を活かして〈十八番〉にできる。


 本書は発達障害で仕事に行き詰っている人だけでなく、発達障害の部下を指導する管理職にとっても、指針となる1冊である――。と、書いてきたのだが、業務上のミスや失敗は、程度や頻度の差こそあれ、誰しも経験があるものばかり。著者は数々のノウハウを駆使して、営業成績で社内2位を達成している。成果を上げたい“定型発達”の人にとっても、本書は発達障害の人に学ぶ優れたビジネス書なのである。(鎌)


<書籍データ>

発達障害と仕事

銀河著(扶桑社990円)