先日、英国の教育誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』が世界大学ランキングを発表したと報じられた。同誌は英国の新聞『タイムズ』の別冊で、毎年春と秋にランキングを発表される。今回のものは10月に発表された最新のランキングで、世界104ヵ国・地域の大学を対象に、①学生1人当たりの教員数や博士号取得者の比率などの教育と学習環境、②研究、③論文の引用される件数、さらに④留学生数や外国人教員数などの国際性、⑤産業界からの収入――の5分野の13指標から総合的にランク付けするそうだ。
その順位を見ると、1位は英オックスフォード大学で、2位は米ハーバード大学、3位は英ケンブリッジ大学と米スタンフォード大学が並ぶ。以下、5位から9位には米国のマサチューセッツ工科大、カリフォルニア工科大、プリンストン大、カリフォルニア大バークレー校、イエール大と続き、10位には再び英インペリアル・カレッジ・ロンドンが入る。多少の変動はあるが、トップテンにはほぼ同じ大学が並ぶ。
アジアでのトップは中国の精華大学で全体の16位、17位には北京大学だ。日本の大学でランク入りしているのは東京大学が39位と68位の京都大学の2大学だけである。まるで日本で有名な大学をランクに入れないと失礼になるから、とでもいうかのようなランクだ。
この手の大学ランキングは米国でも行なわれている。よく知られているのは『ニューズウィーク』紙の「大学ランキング世界トップ100」で、これらのランキングが発表されているたびに日本でも報道され、教育評論家が日本の大学の国際性の低さを嘆くコメントが付けられている。
なにしろ、日本人はランク付けが大好きだ。江戸時代から相撲には番付があるし、温泉でも東西に分け、東は草津温泉、西は有馬温泉が最高位の大関を飾っている。今でもミシュランのレストラン・ランク付けに一喜一憂しているほどだ。
当然、大学ランキングにも即座に反応。「日本の大学はベスト100に2校しか入らなかった」「3大学が入った」「ランクが低位だ」などといい、新聞・雑誌・テレビが大きく報じる。それをまた真に受けて国際性が大事だ、などと文部科学省が叫び、政府は留学生を増やせ、外国語での教育を増やせ、教員の何割を外国人にしたら、などと言い、それを満たした大学にはニンジンを、いや、特別予算を与える、などの政策を行なっている。笑止千万ではないのか。特別予算などではなく、通常の大学の運営費を毎年減らすことを止め、増やしてあげたらどうか、と言いたくなる。
というのも、こうした大学のランク付けにはそれなりの根拠があるからだ。そもそも大学のランク付けは1967年に発表されたイギリスの「ゴーマン・レポート」に始まると言われている。イギリス、アメリカ、カナダの大学を対象にしたランキングだが、評価の根拠が明らかにされず、真偽があやしいランキングと言われている。そんなせいか、1980年代に『USニューズワールド・レポート』紙で「アメリカのベスト・カレッジ」が登場したが、このランキングは米国内だけのランキングだった。その後、2000年初頭に世界の大学ランキングが次々に登場している。だが、それにはそれなりの事情があったらしい。
以下は、ある有名大学出身で、あまり有名ではない私大の経済学教授が語った話である。「実は英米の大学で応募者が激減してしまった時期があるんです。とくにアメリカの大学は、ある意味で、株式会社のようなところがある。産業界からの寄付金を平気で貰っていますからね。そういう大学で入学者が減ると、即、収入が大幅に減る。金に困る。そのため、入学者を増やすために何をすべきが考えた末、思いついたのが世界大学ランキングなんですよ。優秀な頭脳をもつ高校生は世界トップの大学に入りたがるはずだからアメリカの大学がトップに来るような大学ランキングをつくれば、世界中から若者がアメリカの大学に入学するはずだ、と考え付いたんです。こうして出来上がったのが世界大学ランキングですよ」。むろん、イギリスの教育誌も即座にそれに倣ったそうだ。
「英米人が判断するのだから当然、英語教育が中心になり、英語を母国語にしない国の大学はランキングが低くなる仕組み。ドイツのベルリン大学やフランスのパリ大学などは英語圏の大学の後ろのほうに並ぶことになる。韓国のソウル大が東大より下位で京大より上にしたのも英語圏ではないし、韓国を代表する大学だからという立場を考慮したのだろう。英語圏ともいうべきシンガポールの国立シンガポール大学とシンガポール南洋理工大学がそれぞれ東大より上の19位と36位なのは英語圏であっても、かつての植民地で、彼らはそれほどいいとは思わなかったからなのだろう」という。
ともかく、こうした世界大学ランキングは大成功を収めた。英国の植民地は格段に多かったし、そういう植民地では英語を公用語にしていたから、英米の大学に行く人がもともと多いが、それでも上位にランクされた米国の有名大学に入学者が殺到したのだ。こうして英米の有名大学は豊かになるとともに、さらに有名になったのである。米英のしたたかさというか、頭がよかったのだ。
こうした不純な動機で始まったのが大学ランキングだという。経済学教授の話によると、そのランキングに一喜一憂しているほうがバカらしく見える。いくら予算を付けようが、いくら外国人教授を増やそうが、ハナからランクがさほど上がるわけがない。「英語圏」という条件を隠した都合のよい指標をつくり、その指標でランク付けするのだから、日本の大学がトップテン入りするのは至難だ。
英米人の狡猾さに感服するが、ランキングに一喜一憂する日本のマスコミがランク付けの裏側を見ず、加えてそれにつられる政府、文科省のバカさ加減には呆れるしかない。(常)