朝4時に起きるなど到底無理、そう思って寝ずの態勢でW杯・対スペイン戦を見たのだが、おかげで「世紀の番狂わせ」を目撃する幸運に恵まれた。ネット記事によれば、経済学者の成田悠輔氏は「こんなに国全体を包み込むイベントって最近ない」と全国的な熱狂に驚くコメントをテレビで発したそうである。そういえば、かつて南米ペルーに暮らした時期、金持ちと庶民がけた外れに「分断」したラテンの国々で、国民が唯一まとまるのは、サッカーの国際試合のときだけだと聞かされた覚えがある。日本もたぶん、そんな国になりつつある。


 それにしても、コスタリカに唯一の勝利を挙げ、ドイツとスペインには歯が立たない、そんな事前予想の真逆を行くのだから、今回の代表は手に負えない。大変なのは、このジェットコースター的戦績に振り回される週刊誌である。対ドイツ戦で金星を挙げたのは11月23日水曜日、格下コスタリカに苦杯をなめたのは27日の日曜日だ。28、29日に出た各誌は、締め切りとの関係上、コスタリカ戦の敗北をカバーできず、はしゃぎまくりの記事を載せた。


 週刊ポストは『森安一監督はやっぱり名将だった 4年後W杯もよろしくたのむ』、週刊現代は『ドーハの悲劇から歓喜へ 森安ジャパンドイツ撃破の舞台ウラ』、週刊朝日は『サムライブルー新たな伝説』、アエラは『「この日を想像してきた」』、サンデー毎日(グラビア)は『見事なジャイアントキリングが起きた“ドーハの奇跡”』と、心はもうトーナメント戦に向かっている。


 この点、金星に続く「まさかの敗北」も踏まえた週刊文春・週刊新潮に、浮かれた様子はない。文春は『W杯日本代表の逆転人生』という選手個々のネタでワイド特集を組み、新潮も『「森安」W杯の天国と地獄』という人物ルポを載せ、勝ち負けの話とは距離を置いた。実際、このニュートラルな姿勢は大正解だった。2日後にはまたしても「大金星の日」が来るからだ。コスタリカに負けたことで打ちひしがれ「万事休す」と代表を責める誌面にしていたら、それはそれで恥をかくところだった。


 来週は月・火発売の雑誌はとりあえず「さぁ、がんばれ」と当たり障りのない誌面を出すしかない。木曜売りの文春・新潮は、悲願の8強入りを果たせたのかそれともダメだったか、その結末もギリギリ突っ込める。いずれにせよ「中3日」の試合のサイクルではどうしても紙の媒体は後手に回る。日本が大会日程をすべて終えたあと、その「秘話」をどれだけ明かせるか、その一点が各誌「勝負の分かれ目」になるに違いない。


 奇しくも文春・新潮は、そろって創価学会批判を展開した。統一教会問題での被害者救済に政府がいまひとつ及び腰なのは公明党の意向を受けてのこと、そんな切り口からの報道だ。文春記事は『創価学会が恐れるオウム以来の危機』、新潮記事は『「長井秀和」が教団からの抗議文に徹底反論!「創価学会」と「統一教会」映し鏡』とうたっている。個人的にはつい最近、統一教会追及の草分けとして戦った先輩記者たちから「秘密軍事組織」まであったという同教団の怖さを聞かされたばかり。なので、さすがにこれと学会を同一視するのは気の毒にも思えるが、もし両誌が言うような「カルト規制へのブレーキ役」を学会・公明党が果たすのなら、叩かれてしまうのも致し方ないだろう。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。