あれは何だっけ? バリア? タブー? 言葉がなかなか浮かばずに、あれこれ検索してしまったが、そう「作家タブー」のことを言いたかったのだ。確かこの言葉が前回「プチ流行」を見せたのは、あの百田尚樹氏の『純愛』騒動(故やしきたかじん氏の後妻を過剰に美化した百田氏の「ノンフィクション本」が大炎上した騒ぎ)のときだった。あれからもう9年。時事用語も忘れてしまうはずである。


 版元の出版社が稼がせてもらっている作家先生には、どんな週刊誌もスキャンダルを見て見ぬふりをする――。百田氏のケースでは、あの文春砲までもが沈黙したということで、喧々囂々ネットで議論になったのだ。もちろんその作家の「売れ具合い」によって「守られ方」も違ってくる。それでも、これだけ出版不況が深刻化してしまうと、どの雑誌も綺麗事は言っていられまい。と思いきや、実態はあれこれ複雑なようだ。


 そんなことを思ったのは、あの「国政政治学者」三浦瑠麗女史の一件が気になったからだ。夫の元官僚・三浦清志氏が経営する投資会社が、太陽光事業への出資名目で10億もの大金を詐取したとして告訴され、先月19日、東京地検特捜部の家宅捜索が入った、という話である。以来、コメンテーター業で引っ張りだこだった彼女のテレビ露出はピタリとなくなった。もちろん妻は妻、夫は夫で別人格なのだが、彼女の場合は政府成長戦略会議の委員として太陽光発電をプッシュしまくってきた経緯があったものだから、ネット上では大炎上してしまったのだ。


 とはいえ、事件そのものはまだ家宅捜索だけなので、新聞・テレビはほとんど触らない。一方でネットとの温度差が目立つのは紙媒体の週刊誌だ。各誌とも、正面からの言及がまだほとんどない状況で、今週はサンデー毎日のトップ記事『岸田首相vs.菅前首相 ドロ沼の暗闘が始まっている!』(筆者は政治ジャーナリスト鮫島浩氏)だけが、この件が「政界で注目を集めている」と解説した。鮫島氏の見立てでは、菅氏はもともと検察とは犬猿の仲。三浦女史とは反対に近しい関係で、自民党内の目下の対立軸「岸田首相vs.菅前首相」という構図のもと、検察は親岸田勢力の先兵として、菅陣営にプレッシャーをかける役割を担っている、と見做されているらしい。


 真偽のほどは不明だが、そんなわけで、もし三浦女史にも事件関与の容疑が飛び火して、さらには政治家にも捜査が伸びた場合、彼女の書籍を何冊も出している文春や新潮にしたところで、完全黙殺はできなくなるだろう。いや、すでに現状でも、テレビ出演自粛等のこぼれ話では、文春や新潮のウェブ版もちょこちょこと記事を書き始めている。さすがに紙のほうで、追及型の本格特集は組めないが、ウエブ上の露払い的な動きは見られるのだ。講談社は、彼女の著作がなくフリーハンドだが、同社のフライデーが関連報道を続けるのも、もっぱらウエブ版オンリーだ。


 そもそも近年のネット報道は、ヤフーニュースなどに各媒体の記事がごちゃ混ぜに配信され、読む側は発信媒体をあまり区別しない。「書かれる側」にしてみれば、ネット上でわちゃわちゃと醜聞塗れになってしまったら、影響力を及ぼせる一部の媒体だけ締め付けても、ほとんど意味を持たないのだ。個人的には限られた少数派が特権を失うのは心地よく、喜ばしい。その意味では、ネット時代のメディアの「ごちゃ混ぜ化」には、肯定的な面もあるのだと感じている。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。