野球の世界大会「World Baseball Classic 2023」は3月22日、日本チームの第2回大会以来14年ぶり3回目の優勝で閉幕した。正にショー(翔)タイム、大谷翔平の投打にわたる活躍で9日からの13日間は国内の話題を独り占め。首相のウクライナ電撃訪問も霞んだ。
劇的サヨナラで決勝進出
3月21日の準決勝は終盤に試合がもつれた。先発佐々木は2回1死1塁、メキシコの6番ウリナスの強烈なライナーを腹部に受けた。次打者を併殺に打ち取ってこのピンチは切り抜けたが、このときに負った痛みでスタミナ切れが早く来たのかもしれない。4回2死1、2塁と走者を背負い、前の打席で佐々木直撃のライナーを放ったライナスへの2球目はフォークが落ちきらず、甘くなったところをすくい上げられて3ランを食らった。
しかし、4回、5回、6回と四球を絡めて塁上を賑わし、メキシコの継投陣にプレッシャーをかけ続けたことが実を結ぶことになる。7回2死から2番近藤がライト前ヒットで出塁すると、大谷は3番手のロメロから四球を選び吉田の技あり1発3ランを呼び込んだ。
その裏の8回、救援4イニング目に入っていた山本由伸が連続長打で勝ち越され、代わった湯浅も2死2、3塁から三遊間を破られて5点目を失い2点のリードを許す。その裏、代打山川の犠牲フライで1点差に迫る、9回裏は大谷から。メキシコの守護神ガイエゴスの初球を捉えて右中間を破るスタンディングダブルを放ち2塁ベース上で吠えた。この咆哮がベンチを鼓舞し、3三振を喫していた村上のバットに火をつけた。
村上は初球の甘いストレートを捉えきれず、この打席も凡退かと思われたが、3球目の高目ストレートをセンター返しで打ち返した。このバッティングを早くからしておけば苦しむことはなかったが、21歳の若武者には相当の重圧がかかっていた。
伊藤の3者凡退が大きなポイントだった
さて、決勝の相手は前回覇者のアメリカ。投手力は勝るだけに最少失点で回を重ねる展開に持ち込むのが妥当な作戦と予想した。先発今永は2回1死、マイアミラウンドで2本塁打し打順を上げてきたターナーを迎える。2-0とボールが先行し3球目ストレートをファウル。2-1として4球目、カウントを戻したい気持ちが優ったのかボールは真ん中低目に入った。ターナーはこれを見逃さずきっちり拾って軽々とレフトスタンドに放り込んだ。その後2死1、2塁とピンチを広げたが後続を打ち取りベンチへ。
1失点に抑えたことが直後の村上の初球ホームランを生んだ。失投といっていいほどのど真ん中ストレート。打って当然だった。後続打者がよく粘ってヒットと四球で塁を埋め、ヌートバ―の1塁ゴロで追加点を入れスコアは2-1。ここはバットが湿っているヌートバーに代打を送る手もあったが、指揮官は我慢強かった。
4回に岡本のソロHRでリードを2点差にして迎えた6回、マウンドに伊藤大海が登板し、キレのあるスライダーとストレートで3者凡退。結果的にこのピッチングが相手打線の勢いを削ぐ大きなキーポイントになった。今大会はワンポイントのリリーフ登板は禁止され、3人の打者に投げ切らないと交代できない。このため、ベンチにしてみれば制球難の投手は恐くて任せられず、かといってコントロールはいいが球威のない変化球投手はバリバリのメジャー打者に通用しない。そうなると制球力があり、球威があって落差のある変化球を持ち、かつ経験豊富な投手に限られる。
伊藤は並みの球威だが度胸があり、新人から2年連続して2ケタ勝利。東京五輪でも好投した実績がある。スライダーの切れは球界でも指折りで、できれば2イニング投げてほしかった。リードしていれば最後の2イニングはダルビッシュ―大谷のリレーはみえみえなので、7回を任せる投手が心配になっていた。ベンチは7回、伊藤から昨日最終回に好投した大勢を投入、無死1、2塁と大ピンチを作ったが、気迫で抑えた。
不動の指揮官、ダルを送る
ダルは精神的支柱としてチームを牽引したが、所属するメジャー球団が決めた調整に縛られて今大会不調なのは誰の目にも明らかだった。しかし、頑固一徹の指揮官は不動。迷わず8回のマウンドに送る。案の定、1死から昨季のナ・リーグ本塁打王に1発を食らい1点差に。ここで代える手もあったが我慢した。そして、最終回は大看板が登板。最後はエンゼルスの同僚でMVP3回のトラウトを三振に仕留めてゲームセット。大谷はグラブ、帽子を放り投げて全身で喜びを表わし、昨日に続いて雄叫びを上げた。
冷静沈着の印象があった大谷は、大会期間中終始笑顔を絶やさなかった。嫌な顔ひとつせずインタビューに答え、仲間を鼓舞した。「野球を楽しむ」というフレーズは昔から抵抗のあるフレーズだが、スーパースターが真顔で言い切ると、ストンと腑に落ちる。準決勝で起死回生の同点3ランを打った吉田も素晴らしかったが、この男のために開催されたWBCだった。「明日からは切り替えて、皆そうだが、それぞれのチームで精一杯プレーする」との談話にも感心した。常に前を向く選手、成長のピークが想像できない。(三)