2023年3月12日(日)~3月26日(日) 大阪府立体育会館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」など)
千秋楽結びの一番まで優勝の行方がわからない熱戦の場所になった。横綱照ノ富士は長期休場、大関陣も弱体化して久しい角界。三役を軸とした賜杯争いは見慣れた光景になっている。大関貴景勝の綱取りはしばらくお預けになったが、大関取りレースは白熱してきた。
霧馬山が大関候補の最右翼に
小結大栄翔との本割、決定戦で連勝した霧馬山が初の関脇場所で頂点に立ち、大関候補最右翼に浮上した。千秋楽の2番はいずれも土俵際で際どく残った末の逆転勝ち。決して褒められた内容ではないが、ギリギリの勝負に勝ち切るのが地力。均整の取れた体格で、突っ張りもできるし四つ相撲も上手い。大関候補では琴ノ若と並んで総合力が高い。ただ、土俵際の「残り腰」で勝つ相撲は怪我のもとであり、安易な取り口に繋がる。上を目指すための星勘定は大事だが、琴ノ若と霧馬山は横綱を目標に正攻法の相撲に徹してほしい。
<優勝決定戦/霧馬山―大栄翔>
ズルくて軽い豊昇龍
今場所は前半で横綱・大関が不在となり、寂しい場所になるのではと懸念されたが、次期大関候補たちが星を潰し合い、連日湧いた。有力候補の関脇豊昇龍は初日に正代(前頭筆頭)、2日目は阿炎(前頭2枚目)と対戦し正攻法が通用せずに連敗したが、4日目で星を五分に戻した。しかし、5日目にベテランの錦木(前頭3枚目)に小手投げを食らって負けが先行すると、星を戻そうと6日目の阿武咲(前頭4枚目)戦は立ち合い変化の臭いがプンプンした。案の定、横っ飛びして大関候補失格の叩き込み。ズルい勝ち星をゲットした。
<6日目/豊昇龍―阿武咲>
豊昇龍は星勘定に拘り、毎場所最低1回は必ず「立ち合い変化カード」を切る。そのすべてが悪いとは言わないが、切るたびに印象は悪くなることを覚えておいたほうがいい。話せば好青年なのに、土俵態度と安易にて勝とうとする姿勢は感心しない。
遅咲きでメキメキ力を付けてきた小結若元春は14日目に、その豊昇龍に強烈な上手投げを食らい転がったが、来場所は大怪我の実弟に代わって初の関脇に座るだろう。立ち合いを強化すれば、さらに面白い。残念だったのは、小結琴の若。8勝2敗と優勝戦線に残りながら後半は1勝4敗。いつもの場所と逆で、終盤戦に負けが混んだ。気の緩みかガス欠か。大関候補のなかでは体力的に最も恵まれている。このへんで足固めをしないと、次を狙う力士に追い越される。来場所は朝乃山が幕内に復帰するので、大関レースは一層激化するのだ。
<14日目/琴ノ若―遠藤>
正代に復活の兆し、御嶽海は音なし
元大関の正代が10勝5敗と大健闘した。初日に曲者の豊昇龍を一蹴したときは、双子の弟がいるのかと思った。腰高で鈍い立ち合いは相変わらずだが、足がよく前に出ており、かつてのパワーが少し戻っていた。6勝2敗といい気分になったところで3連敗したのは残念だったが、終盤4連勝したのは精神的にも立ち直りつつある証拠。普通に取れば楽に2桁は勝てる人だけに、来場所が楽しみだ。
同じ落第組の御嶽海は前頭3枚目の位置で4勝11敗。7つの負け越しで5月場所は中入り前の早出になる。人気は凋落の一途で、館内からは声援のひとつも聞こえない。正代を見習ってほしいが、押し相撲の悲しさ。前頭の下位でも若手の台頭は著しいだけに、幕内をウロウロするのさえ厳しい。
貴景勝休場、若隆景も
大関貴景勝は3日目の正代戦で左ひざを負傷し、7日目に休場した。勝った相撲で怪我をするのは珍しい。正面から正代を突き押して危なげなかったが、6日目の御嶽海戦で悪化させたらしい。この程度の動きで傷めるのは稽古不足か太り過ぎが原因ではないか。横綱昇進をにらんで押し一辺倒から四つ相撲への対応にも力を入れていたと聞く。そのへんは素人の想像を超えるが、我慢強い大関が自ら申し出て休むのだから、相当悪いはず。今年中の綱取りはなくなった。
<3日目/貴景勝―正代>
関脇若隆景も13日目の琴ノ若戦で右膝を傷めて無念のリタイア。じん帯損傷で3ヵ月の加療は重傷である。来場所は全休、7月場所も無理だと番付は十両まで落ちる。相撲内容は貴景勝と同様、前に出て突き押す万全の相撲だった。それがこれほどの大怪我になるのだから、相撲は恐い。どちらも膝を傷めている。踏ん張るところだから、長年堪えていた個所が堰を切ったように倒壊して我慢の限界を超えたのかもしれない。
かつて存在した公傷制度の復活を検討すべきではないか。大相撲の公傷制度は1972年に制定され2003年まで存在した。「全治2ヵ月」が適用条件とされたが、ズル休みが増えて廃止されたという。それから20年、角界では小兵の部類である2人の力士が揃って膝の怪我に泣いた。膝はすべてのスポーツにおいて動きの土台となる。公傷認定の適用を判断する常設委員会を早期に組成してほしい。(三)