週刊朝日がいよいよ休刊(つまりは廃刊)した。5月30日の編集部公式ツイッターによれば、今週出た最終号は異例の売れ行きで、3刷りにまでなったという。昨年の「創刊100年」記念号では、「これだけ貧弱になった誌面で過去の栄光を誇られても……」と、うら寂しい気持ちになったものだったが、さすがに今回は過去半世紀の誌面登場者、執筆者が大挙コメントを寄せ、ずっしりと「重量感」のある1冊になった。しかもその多くが、今回の週朝休刊を、単なる一雑誌の消滅でなく「週刊誌時代の終焉」を象徴する出来事と捉えていて、その意味でもこの号には、文化史的な保存価値があるように思う。


 今号の表紙では、プロ写真家の指導のもと、編集部員各人がそれぞれポーズをとり、締め切り直前の活気ある一場面を再現するエキストラになっている。続くグラビアの『女子大生表紙Play Back』コーナーでは、その昔一介の地方国立大生だった宮崎美子さんを一躍スターに押し上げた篠山紀信氏の「伝説の1枚」が最初のページを飾っている。


『週刊朝日とわたし』と題する著名人メッセージのトップバッターは、女優の吉永小百合さん。1965年以来何度も取材を受けきた彼女は、個人的にも長年の愛読者。昨年の創刊100周年記念号に「200年を目指して」と励ましの言葉を寄せたのに……と今回の休刊には納得できずにいる様子で、「トップが悪いんじゃないですか。100年も続いた大事な雑誌をやめるなんて」と歯に衣着せず朝日の経営陣を咎めている。


 元週朝編集長の山口一臣氏は、「雑誌市場は30年も前から右肩下がりの局面に入っていた」として、むしろここまで「よく続いてくれたものだ」との感慨を綴っている。そしてただ延命させるだけなら手段はあるだろうが、そんな延命に「意味はありますか」と問いかける。コスト削減のため手間暇かけた取材記事をやめ、終活やらシルバーセックスやらの高齢者向け特集でお茶を濁す同業他社の媒体への当てこすりにも読める。実際、週朝もここ10年余、似たような取材記事の減らし方をした。


 連載『2050年のメディア』の執筆者で文春出身の下山進氏の記事によれば、イギリスの『エコノミスト』やアメリカの『ニューヨーカー』は電子有料版に成功し、紙だけの時代より部数を伸ばしているとのこと。それに対し、朝日はただアエラドットという無料のウエブ版を展開するだけで、その点が大きな違いになったという(昨年、サンデー毎日から週朝に場を移したこの連載は、今度はアエラに引っ越すという)。


 実際、週朝をはじめここ10~20年の週刊誌はひたすらチープになり、経費をカットして「延命」だけを図ってきた。唯一の例外がトップランナーの週刊文春で、他誌同様「右肩下がり」の経営環境にありながら、それでもスクープを狙う「攻めの編集方針」を変えずにいる。取材経費ももちろん惜しまない。紙+ウエブの組み合わせか、あるいはウエブオンリーか、発行形態はやがて変わろうとも、雑誌ジャーナリズムのスピリットを武器にして、次の時代も生き残る雑誌はやはり文春なのだろう。


 今さらながら素人考えを述べるなら、週朝(および似た状況の週刊誌)は「誌面の質」と「ビジネス展開」を別個のチームで追究すべきだった。編集部はひたすら正攻法で押し、部数が落ちたなら、より高品質の誌面で盛り返そうと努力する。「安かろう悪かろう」に堕してしまったら、結局は読者離れの未来しか残らない。一方でビジネスモデルの検討チームでは、海外の成功例を参考に、ウエブ対応を徹底的に研究する。移行期は遅かれ早かれ来る。そのとき問われるのは、カネを払ってでも読みたい雑誌か、という一点だ。


 ネットの無料記事として溢れかえる「コタツ記事もどき」では問題外。徹底取材によるスクープや他の媒体にない奥深いルポ・分析記事、あるいは一流の文筆家たちによる連載など、そういった「群を抜いたクオリティー」があって初めて有料化は成功する。雑誌不況のただなかでも、コストカットでなくハイブランド化を目指すべきだったのだ。だが週朝は安直なチープ化を選択した。この国の製造業全体が過去30年、犯した過ちとどこか似ているが、質を代償にしたコスト引き下げは、容易には取り戻せないにもかかわらず。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。