花粉症になる人ならない人、髪が薄くなる人ならない人、太りやすい人太りにくい人……。日常生活の中で「体質」の違いを感じるケースはいくらでもある。
『体質は3年で変わる』は、ヒトに関係するさまざまな体質について解説し、健康な体づくりについて考えさせられる1冊である。体質といえば東洋医学の十八番と思っていたが、本書は西洋医学(エピジェネティクス:後成的遺伝学)からのアプローチ。少々難易度が高めの項目もあるが、全体として、ていねいに解説されている。
体質という言葉から、生まれつき備わった体の性質〈遺伝的素因〉をイメージする人は多いだろう。例えば、高血圧や薄毛(AGA:男性型脱毛症)は遺伝しやすい傾向にあるようだ。
だが、〈親から子に受け継がれて体質としてあらわれるのは、遺伝によるものだけではなく、環境の影響も大きく作用〉している。
一卵性双生児を比較してみるとわかりやすい。もちろん似た部分は多いのだが、年齢を重ねるごとに違いがわかりやすくなることも。本書で初めて知ったというか、これまで意識したことがなかったのだが、一卵性双生児でもさまざまな環境的要因の影響で指紋は違っているという。
環境の影響として大きいのは何といっても日々の食事や運動の習慣だ。〈5年10年といった長い年月にわたって、食事による栄養分の摂取や運動などの生活習慣といった環境的要因にさらされれば、それに適応するように遺伝子の使い方も変わり、新たな体質の決定や変化につながると予想〉できるからである。
飲酒や喫煙といった嗜好品の習慣もしかり。若い頃の不摂生がたたって、50代、60代になって影響が出てくる人も多い。
環境的要因は、食事、運動、生活習慣といった体に直接作用する要因だけではない。〈社会的、経済的、地理的、さらには気象的な自然条件を含めた幅広い外的要因〉も含まれる。仕事の極度のプレッシャーからか、人相が変わってしまう人もいるが、これも環境的要因なのだろう。
特に注意したいのが、胎児期や新生児期における母親の栄養状態や食習慣。〈子どもの将来の健康や疾患の発症にも強く影響するという研究〉があるという。第2次世界大戦時の「オランダ飢饉」の影響はよく知られるところだ。
遺伝的要因により生涯変わらない体質がある一方で、環境的要因で変わる体質があるならば、積極的に「体質改善」できる部分があるということでもある。本書が提唱する期間の目安はタイトルにある「3年」。根拠となっているのは、〈最前線の研究からも、体の中の多くの細胞は3年を目安に大きく入れかわると判明〉していることだ。
■薄毛は母方から遺伝
最終章では、体質とさまざまな病気や長寿の関係について解説している。
多くの人が気にしているのは「がんになりやすい体質」だが、血縁者に特定のがんが発生することがある(必ずなるわけではない)。一部のがんについては、こうした人々に生じる遺伝子の異常を一度に調べる新しい検査方法(NCCオンコパネル検査)も登場している。
日本人に多いのは糖尿病になりやすい体質。現代の食生活の変化もあって、糖尿病の激増につながっているようだ。ちなみに、骨格筋の筋肉細胞のうち「遅筋線維」が減ると糖尿病になりやすいという。糖尿病を防ぐうえでも、運動習慣は欠かせない。
両親が肥満、子も肥満という家庭は珍しくないが、〈遺伝的素因とともに家庭の偏った食環境が大きく影響〉している。誰しも思いあたる家族があるのではないか。
冒頭にも挙げた薄毛は、〈特に母方の祖父・曾祖父が薄毛の場合、AGAを発症する体質を受け継ぐ確率はより高くなる傾向〉にある。理由は、男性の染色体XYのうち、AGAに関係するX染色体は母親からしか受け継がれないから。AGAは父から子に遺伝する印象があったため、意外感があった。
体質を理解すれば、治療したり生活習慣を改善したりすることで、健康を維持・回復できる可能性も高まる。年齢を重ねるにつれ、疲れやすい、風邪をひきやすいなど、体質の変化を感じている人は多いだろう。まずは暴飲暴食、運動不足の生活習慣を改善し、3年先を見据えた体質改善にチャレンジしてみてはいかがだろうか。(鎌)
<書籍データ>
中尾光善著(集英社新書1100円)