今週は、文春の誌面が突出して“濃厚”であった。目次を見ただけでも、インパクトのある特ダネ、独自ダネがずらりと並んでいる。
『15時間75本に及ぶ「動画」を入手 AKB48盗撮事件 犯人は事務所元役員』
『「爆笑問題」愛と哀しみの30年 覚せい剤逮捕元マネジャー懺悔告白』
『米機密公文書が暴く朴槿恵の〝急所〟韓国軍にベトナム人慰安婦がいた!』
『村上世彰「寂しきカネと血脈」』
そのほかにも、文春が独自に追及を続ける下村博文文科相の後援会疑惑キャンペーンの第5弾や、チュニジア博物館テロ、川崎中1殺害事件、大塚家具父娘内紛問題といった“押さえるべき定番ネタ”もきっちりとカバーしている。
文春の強みは基本的には取材体制の分厚さであり、また昨今、業界全般に渋くなる一方の原稿料・取材費をケチらないその気概が、良質な企画、有能な書き手を吸引する“好循環”を作り出している。
それにしても、これだけ贅沢なラインナップを作るところから見て、次号やそれ以降にも、それなりのネタが用意されているはずだ。そうでなければ、こんなギチギチの詰め込み方はしない。“腐らないネタ”の1〜2本は先送りしただろう。筆者のようなフリー記者は、そんな目で誌面を眺めている。“企画を持ち込む側”としては、「文春には相当ネタが溜まっていて、載りにくくなっているようだ」と、映るのである。
その中から個人的に気になった1本を挙げると、韓国軍のベトナム慰安所の記事である。筆者はTBSワシントン支局長の山口敬之氏。記事によれば山口氏は、米国に赴任する直前、日本国内で「ベトナム戦争当時、韓国軍が南ベトナム各地で慰安所を経営していたという未確認情報がある」と聞き、アメリカで関連する公文書を見つければ、それを裏付けられる可能性があることを知ったのだという。
山口氏は結局、約1年を費やしてその資料を見つけ、さらには米軍OBの証言を得ることにも成功。これを受け、文春取材班はベトナムに飛び、現地でも韓国軍慰安所の存在を裏付ける証人を見つけたのだった。
記事が抉り出した事実は、確かに、旧日本軍の慰安婦問題に固執する韓国政府にとって痛打となるニュースである。ただ、天邪鬼の私は、ここでまったく別の部分に目が行ってしまう。TBS支局長の山口氏はなぜ、テレビでこの取材成果を発表しなかったのだろうか、と。
激務に追われるワシントン特派員が、他のメディアに書くつもりで長期取材を続けたはずはない。おそらく、山口氏の意に反して、TBSではそれが叶わなかったのだろう。日韓摩擦に新たな火種を投入することを躊躇して、氏の上司が発表を否とする判断を下したのかもしれない。
逆に、文春の保守的な論調からすれば、まさにうってつけの話である。だが私は、保守媒体にせよ、リベラルな媒体にせよ、そろそろもう、論調に合う合わないでテーマを取捨選択する風潮は弱めてもらえないものか、と感じている。たとえ、自社の論調に合わないデータでも、入手した情報はきっちりと伝える。そんなメディアを目指してゆくほうが、信頼性ははるかに高まると思うからである。
もちろん、TBS内部で何らかの判断があった、というのは、私のひねくれた邪推かもしれない。いずれにせよ、自社の記者がせっかく新事実を発掘したのなら、その成果で堂々と特集番組を作ればいい。事実は事実として積み重ねてゆく。むしろ、論調のほうを事実の集積に合わせ、軌道修正してゆくべきなのだ。
同じことは、TBS以上にオピニオン色が強烈な文春にも言える。文春ではちょっと載せにくいテーマも山ほどある。読者層への配慮もあるのだろう。それでも、メディアは“路線”への固執をもうちょっと弱め、時に支離滅裂に思えるほど雑多なネタが入り混じるほうが、絶対に面白い。現実には報じられるよりはるかに支離滅裂な世の中の実態を、より正確に反映することにもなる。
ただ、メディアがそうなるには、読者にもワンランク上の“成熟度”が求められる。簡単なことではない。それでも私には、そういった方向性こそが、より理性的・知性的な言論風土につながってゆくように思えるのである。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町:フクシマ曝心地の「心の声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。